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 渡仏した學から手紙が届いた。
「白鳥さんはとても元気です。ご安心ください。美しい奥様との間に可愛い娘さんが生まれて、とても幸せに暮らしています。彼のメゾンはシャンパーニュ地方の中では小さな規模で、家族経営でやっています。だから年間の製造量が少なく、今まではフランス国内だけの出荷しかできなかったようです。しかし、もし日本で受け入れられるようであれば増産を考えてもいいとのことでした。取り敢えず日本での試験販売用に200本を輸入する契約を結びました」
 手紙にはこれから1ヵ月間滞在し、シャンパーニュ地方のあらゆるメゾンを巡って可能な限りの契約を交わしたあと、帰国すると書かれていた。

 それからしばらくして、ホワイトバード200本が届き、それを追いかけるように學が帰国した。
「ボンジュール」
「ボン……」
「フランス語で『こんにちは』という意味です」
「……」
「ところで、こんなものを見つけてきました」
 鞄から取り出したのは、見慣れない形をした食べ物だった。
「シャンパーニュに合うチーズです」
「チーズ……」
「そうです。両方共にシャンパーニュ地方で造られているチーズなのでシャンパーニュとの相性が抜群なんです」
 一つは、豊かなミルク風味とクリーミーな舌触りが特徴の〈白カビタイプ〉で、もう一つは、チーズの上面が窪みのようになっている〈ウォッシュタイプ〉だという。ウォッシュタイプは口どけがとてもよい味わい深いチーズだと、彼が蘊蓄を傾けた。
「さすがだね」
「まあ、食品畑が長かったですからね」
 ちょっと自慢げに鼻を上に向けた。
「早速合わせてみるか」
 崇は2種類のチーズを切り分けて、それぞれのグラスにホワイトバードを注いだ。
「合いますね」
「合うね。それぞれの良さを引き出し合っているね」
「いけると思いますよ」
「そうだね」
「両方やってみたらどうですか」
「両方か~、そうだね、セットで売るのも悪くないかもしれないね」
「そうでしょう。そうしましょうよ」
「わかった、そうしよう」
「では、両方のチーズを取り寄せますね」
「じゃあ、ホワイトバードの数に合わせてそれぞれ200個頼むよ」
「そうですね。でも、試食用に少し多目に取り寄せた方がいいんじゃないでしょうか。ホワイトバードも試飲用を準備した方がいいかもしれませんしね」
「そうか、そうだね。そうしよう。よろしく頼むね」
 學は大きく頷いた。