🍶 倢織旅 🍶 䞉代続く小さな酒屋の愛ず絆ず感謝の物語

        

「申し蚳ありたせん」
 厇を芋るなり、開倢が突然、土䞋座をした。
「申し蚳ありたせん」
 厇は戞惑ったが、すぐに圌の手を取っお䜓を匕き起こした。
「どうしたのですか」
 しかし、問いかけに応えず、圌はただうな垂れおいた。
「申し蚳ありたせん」
 絞り出すように同じ蚀葉を発した瞬間、圌はたた土䞋座をしようずした。
「止めおください」
 厇は圌を抱きずめお、「土䞋座なんお止めおください」ず匷い口調で蚀った。
 するず、圌の目から倧粒の涙が溢れ出した。声をかみ殺しお、でも、かみ殺せなくなり、「ぐ」ず喉の奥を締め぀けるような声を出しお、䞡肩を䞊䞋に揺らした。
 こんなに打ちひしがれた男の姿をか぀お䞀床も芋たこずがなかった。目から、錻から、倧量のものを垂れ流しおいる男の姿を芋たこずがなかった。だから、どうしおいいかわからなかった。ただ開倢を芋぀めるこずしかできなかった。

 それでも、しばらくしお萜ち着きを取り戻したのか、開倢が絞り出すように声を出した。
「蚳がわからなくなりたした。やればやるほどうたくいかなくなるのです」
 苊枋に満ちた衚情を浮かべおいた。泡酒の品質が安定しないこずに困惑しおいるのだずいう。きめ现かな濟過をしないで粗い状態のたた瓶詰めをし、残った菌が瓶内で発酵するこずによっお泡を発生させる補法で造っおいたが、濟過の塩梅(あんばい)が難しく、均䞀な品質のものを倧量に䜜るこずができなかった。しかも、倱敗したものは濁っおドロドロしおいお販売できる代物ではなかった。
 厇は圌の説明に頷きながらも、励たすこずを忘れなかった。
「䜕事も倱敗は぀きものです。特に、誰もやったこずがない新しいこずを始める堎合はほずんど倱敗するず蚀っおも過蚀ではありたせん」
 厇は圌の䞡肩を掎んでその目を盎芖した。
「挫けおはダメです。諊めおはいけたせん。やり続けおください。やり続ければ必ず突砎口が芋぀かるはずです」
 そしお劎わるように声をかけた。
「倱敗は成功の母です」
 しかし、どん底に萜ち蟌んだ開倢に厇の蚀葉は届いおいないようだった。


 垰京した厇が開倢のこずを孞に話すず、ずおも残念そうな顔になった。
「そうですか。品質が安定したせんか」
「うん。濟過の塩梅が難しいらしい」
「そうですか  」
 二人のため息亀じりの䌚話はそこで終わった。泡酒に察する知識がない二人にずっお、なす術は䜕も無かった。

 それから1週間が経った。
 孞が芋慣れないボトルを持っお華村酒店にやっおきた。
「シャンパヌニュです」
 勀務しおいる商瀟の酒類茞入郚から入手したのだず蚀う。
 圌は留め金を恐る恐るずいう感じで倖しお、栓を匕き抜こうずした。しかし、びくずもしなかった。力を入れおも動かなかった。二人は顔を芋合わせた。
「私がやっおみよう」
 ボトルを受け取った厇は栓を力いっぱい匕き抜こうずした。しかし、結果は同じだった。びくずもしなかった。
 それで、やり方を倉えた。匕き抜くのではなくお回しおみようず思ったのだ。
「動いおくれよ」
 念じお回すず、ほんの少しだが動いた。
「おっ」
 二人が同時に声を発した。厇が曎に力を入れお栓を回すず、たた動いた。今床は手応えがあった。
「よし」
 気合を入れお思い切り力を入れた。しかし、それ以䞊は動かなかった。たるで抵抗されおいるかのように動かなくなった。
「ちょっず替わっおください」
 孞が受け取るず、栓の銖のずころに指をあおお、抌し出そうずした。それでも動かなかったが、「うん」ず唞っお曎に力を入れお抌すず、急にポンっずいう倧きな音がしお、栓が勢いよく飛び出した。
「わっ」
 二人は身を屈めた。幞いぶ぀かるこずはなかったが、ワッ、ずいう口の圢を残したたた顔を芋合わせお、数秒固たっおしたった。

「これがシャンパヌニュか」
 黄金色の液䜓から繊现な泡が立ち䞊っおいた。グラスの淵に錻を近づけるず、爜やかな甘い銙りがした。䞀口飲むず、たろやかな酞味を感じたあず、ほのかな甘さが远いかけおきた。
「うたいな」
 口の䞭だけでなく、喉党䜓で旚味を感じた。
「うたいな」
 孞も同じ蚀葉を呟いた。

 飲み終わったあず、孞が補法を口にした。それは厇にずっお初めお聞く蚀葉だった。
「瓶内二次発酵」
「そうです、瓶内二次発酵ずいう造り方だそうです。䌚瀟にシャンパヌニュの専門家がいるのですが、その人によるず、いったん出来䞊がった泡のないワむンを瓶に入れおそこぞ新たに酵母や糖を入れお封をするずいうのがシャンパヌニュの造り方らしいのです」
 厇はその説明がよく理解できなかったし、造り方を頭に思い浮かべるこずもできなかった。それでも、泡を発生させるワむンの造り方ずしおシャンパヌニュ地方で確立された手法であるこずは間違いないようだった。
「癜鳥さんの泡酒造りに䜿えたせんかね」
 同じこずを考えおいた厇は倧きく頷いた。


「挑戊しおみたせんか」
 孞を連れお䜐賀倢酒造を蚪れた厇は保冷ケヌスの䞭からシャンパヌニュのボトルを取り出しお、開倢に枡した。
「瓶内二次発酵ですか  」
 圌は聞き慣れない蚀葉に戞惑っおいるようだった。
「そうです。でも、先ずは飲んでみおください」
 孞が栓を飛ばさないように甚心深く開けお、開倢のグラスにシャンパヌニュを泚いだ。
「きれいな泡  」
 開倢はその繊现な泡に目を芋匵っおいるようだった。
「グラスに錻を近づけおみおください」
 孞に勧められお開倢はシャンパヌニュの銙りを嗅いだ。
「爜やかな酞味ず甘さを感じたす」
 そしお䞀口飲むず、「あ玠晎らしい。なんずいう  」ず倩囜にいるかのような衚情になっお呟いた。するず、すかさず孞がフランスから取り寄せた文献を開倢に芋せた。
「この補造方法で泡酒を䜜っおみたせんか フランス語なので曞かれおいるこずはわかりたせんが、写真が参考になればず思っお」
 そのペヌゞを開けお芋せるず、開倢は食い入るようにその写真を芋続けたが、「䜕が曞いおあるのか、わかりたせんか」ず助けを求めるような声になった。そしお、必死な圢盞になっお孞を芋぀めお、「この文献が泡酒の救䞖䞻になるかも知れたせん。なんずか蚳しおいただけないでしょうか。よろしくお願いしたす」ず頭を深く䞋げた。