🍶 夢織旅 🍶 ~三代続く小さな酒屋の愛と絆と感謝の物語~

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 醸の1歳の誕生日に華村家の親戚一同が集まった。その中にふた従妹(・・・・)が二人いた。ふた従妹とは祖父の兄弟姉妹の孫のことだ。「じょうちゃ~ん」とあやしていたのが、醸より2歳年上の優しい女の子、(さき)。咲の後ろから覗き込んでいるのが、咲の弟、(おと)。醸より1歳年上で、いつも咲のあとを追いかけている男の子。
 二人は一徹の弟の孫で、華村一族のアイドル的存在であり、誰からも愛されていた。しかも元気一杯で、今日も縦横無尽に部屋の中を走り回っていた。その二人によちよち歩きの醸が加わって、三人の両親も祖父母もてんてこ舞いの状態になっていたが、絶えず笑いが沸き起こる幸せな時間に包まれていた。

 賑やかな宴が始まろうとしていた。誕生日と正月が重なった、とっておきのめでたい日だ。食卓には全国の銘酒と名産品がずらりと並んでいた。
「醸ちゃんの誕生日に乾杯!」
 一徹が乾杯の音頭を取った。
「ついでに崇さんの誕生日にも乾杯!」
 ついで……、
 苦笑いした崇に、「冗談だよ」と言いながら一徹は酒を注いだ。

 はしゃぎ過ぎて疲れ果て、幼子たち三人が眠りについた頃、一人の男性が崇の横に座った。咲と音の父親、(がく)だった。30歳。崇より10歳ほど若かった。彼は商社で食料品の輸入業務を担当しており、仕事柄、外国に行くこともあって英語が堪能だった。
崇が酒を注ごうとすると、「日本酒は苦手なんです。ごめんなさい」と小さな声で謝った。
「は~」
 崇は気の抜けた返事しかできなかった。
 日本酒が苦手な人がいるんだ……、
 不思議な感じがした。崇の周りにいる人は日本酒が大好きな人ばかりだった。乾杯からお開きまで日本酒しか飲まない人ばかりだった。ましてや、彼は華村一族の一人だ。日本酒が苦手なんて崇には信じられなかった。
「日本酒が苦手なんて、日本人じゃないですよね……」
 自分にガッカリしているというような顔で彼は呟いた。
「いや、そんなことは……」
 崇は気遣ったが、信じられないというような表情を消すことはできなかった。
「ビールなら、いくらでも飲めるんだよな……」
 誰に言うでもなく、彼は独り言のように呟いた。