「あなたを探していた」
「翡翠」
「一目見た時にわかった。窓から外の光を乞う貴女の目を探していた。救いたかった。助けたかったんです。今ここに生きている、それがわかれば、もういい」
殺人は、正義じゃない。
どんな理由があっても。その行いは咎となり、それによって失われた尊い命が、もう二度と還ることはない。
天窓から、陽光が射している。
壁に凭れて男の素足が床を滑った時、光の中を掴めない塵が飛んで消えるのが見えた。私は、この掴めない光の在り処を知っている。
定刻に李刑務官が収監所の扉を開き、涙で濡れた私には目もくれず翡翠の檻の戸を開く。その腕にしがみつくことも出来ずにただ咽び泣けば、やさしい表情で左右に顔を振られた。
「翡翠、」
「丽芬です」
「、」
「私の名前は、尹 丽芬」
私が刑務官の職を辞するその最期の日、鉄格子から出た男は実に穏やかだった。
草臥れた煤色のツナギに頭から灰を被ったような丼鼠色の髪は開いた扉の向こうから射す陽光に照らされ、白い肌に透けて落ちる。
立ち尽くす私を抜け、その光に贖うように、彼はゆったりと呟いた。
「いきましょう」



