俺の名前は川幡輝一(かわばたきいち)。十八歳。
「大丈夫か? 輝一」
そして俺を心配そうに見つめるこいつは弟の燿二(ようじ)。同じく十八歳、つまり双子だ。
「ここって燈中(あかりちゅう)の視聴覚室だよな」
燈中は俺とこいつが通っていた中学校だ。
「それにこれ……なんなんだ、一体」
燿二は俺がひと言も発しなくても、一人で勝手にしゃべっている。
部屋にはスクリーン、そして机の上の物騒な物の数々。
刃物はともかく、まさか本物の拳銃ではないだろう。
「なんかデスゲームみたいだな」
最近読んだ本を思い出して俺が笑うと、燿二は不安そうな顔をした。
「デスゲーム?」
「お前は読まないもんな。くだらないエンタメ小説なんて」
燿二はいわゆる純文学ってやつと教科書しか読まない。
品行方正、真面目、秀才、そういう人間だ。
「ああいうスクリーンだとかモニターにゲームの主催者が映し出されてさ、閉鎖空間に集められた人間が殺し合うんだよ。こういう武器で」
自分で言いながら人数以外は本当にデスゲームのような状況だと、不気味に思えた。
目が覚めたらこの部屋の床に寝ていたなんて状況が、まずどう考えても普通じゃない。
「殺し合いなんて、そんな」
燿二の顔が青ざめるのを見て、俺の心にある感情が芽生える。
その時だった。
『こんにちは。川幡輝一くん、燿二くん』
「マジか……」
スクリーンの向こうで火垣総理がこちらに呼びかけている。
「え……これってまさか」
『今日はね、君たちに大切な決断をしてもらうためにここに来てもらったんだ』
俺も燿二もピンときた。
『一卵性双生児粛清法が施行されたことは——』
総理が言い終わらないうちに、「パンッパンッ」と乾いた銃声が二発連続して響く。
スクリーンの中の総理の方が呆然としている。
「どうかしました?」
その顔を見て、俺は笑う。
「こういうことでしょ? 決断って。粛清って」
机の向こうには、耀二が血を流して倒れている。まだピクピクと動いていて、息があるようだ。
俺はもう一度引き金を引いた。
「ずっと嫌いだったんですよ、こいつのこと」
さっき、燿二の青ざめた顔を見て芽生えた感情。

〝これが本当にデスゲームだったらいいのに〟

「俺と同じ顔で、俺と同じ声で、いつも優等生ぶって」
勉強もスポーツもほとんど同じなのに少しだけ耀二の方ができて、それだけでいつも俺よりも耀二のほうが優秀ってことにされてきた。
「親だっていつも耀二、燿二って」
いなくなればいいのにってずっと思ってた。
他の人には耀二がいないのに、どうして俺ばっかりって。

——『大丈夫か? 輝一』

それを聞いてなんになる? 何もできないくせに。偽善者。
現にお前は死んだんだ。
「耀二なんて名前、輝一の一があって初めて存在価値があるんだ。俺がいる前提の存在のくせに」

——『大丈夫か? 輝一』

あいつの口癖だった言葉だ。
ぐるぐると頭に響いてうっとうしい。

「……ああ、もしかして、何かルールでもありました?」
デスゲームにはルールがつきものだ。
『いや。どんな方法でも、一人を粛清してくれればそれでいい。輝一くんは判断が早いなあ。耀二くんも何もわからず苦しまないで逝けたんじゃないかな』
総理は驚くほどに明るい声で言った。
「……ありがとうございます」
彼は拍手までしてくれている。

そうだ、これでいいんだ。
だってこれは法律なんだ。
どちらかが死ななくてはいけなかったんだ。
あいつは何もわからずに死んでいった。
俺は合法的に邪魔なあいつを葬り去ることができた。
チャンスをつかんだだけだ。
これで良かったんだ。

手元の拳銃が鈍くて静かな光を放っている。

◇◆

「資料には耀二くんのほうが優秀だと書いてあったよな。いや、結局は生き残った者の方が優秀ということになるのか」
火垣総理はモニターを見ながらぶつくさとつぶやいている。
この人は人の命の重さなんてまるで感じないのだと、改めて怖くなる。
「あれ?」
モニターを見ていた総理が驚いたような声を出したので、私もつられてモニターを覗きこんだ。
「あ……」
思わず目を伏せた。
モニターの向こうで、川幡輝一がこめかみに銃口をあてたからだ。
「パンッ」という、四度目の銃声だけを聞いた。
「これで三人目だな、生き残りの自殺は。前の二人は服毒だったけれど。あーあ」

総理はそれすらも、おもちゃが壊れてしまったくらいの残念そうなため息をついて言った。