ついに16の誕生日がやってきた。
グレグを迎え討つため、普段は騎士たちの御前演武が開かれる円形広場を、謁見の場に選ぶ。
土がむき出しになった闘技場は、周囲を高い城壁に囲まれていた。
その壁上に弓や槍を持った兵士と魔法師たちを配置している。
街の住民には、予め触書も出しておいた。
円形広場周辺だけでなく、城内のありとあらゆるところが、厳重に警戒されている。
「ドット。私の合図があるまで、決して全部隊一歩たりとも動くことがないよう、もう一度周知徹底させて」
「かしこまりました。しかし本当に、グレグは現れるでしょうか」
彼にしてみれば、鉄壁の守りを固めた罠だらけの場所に、一人で乗り込んでくるようなものだ。
「ウィンフレッドさまも、ご家族と一緒に避難されれば……。危険なようなら、私が代わりに……」
「もうその話は聞き飽きました。十分に話し合ったはずです」
お父さまやお母さまには、万が一のことがあってはならないと、避難してもらっている。
もちろんお兄さまたちもだ。
家族はみんな、この作戦に反対した。
だけど、成功させるために信じてほしいとお願いしてある。
「彼と交渉するのなら、一番に私自身が迎えなくてどうするの。現に塔に会いに来ていたのは、私を見定めるためだったんだから」
「ですが……」
私は円形広場の中央に立つと、彼の現れるであろう朝の空を見上げる。
周囲にはドットと数名の護衛しか付けていない。
すっきりと晴れていた西の空に、突然不自然な雷雲が立ちこめた。
その黒い雲の塊はぐねぐねと波打ちうねりながら形を変え、徐々に城へ近づいてくる。
「グレグだ! 大魔法使いグレグが、本当にやって来たぞ!」
城の兵士たちが騒ぎ始めた。
円形広場の上空に現れたのは、黒雲を纏い雷鳴を響かせ、赤黒い体に長い角と牙を持つ、禍々しいまでの凶悪なドラゴンだった。
大きな翼をバサリと広げ、鎖をかき鳴らしたような耳障りな声をあげる。
「お前がヘザーの血を引く娘か」
そのドラゴンが息を吐くたび、大きく裂けた口から灼熱の炎が吹きだした。
黒煙が上る。
「そうよ! あなたは本当に、グレグ・ルドスキー自身なの?」
「当然だ!」
ドラゴンは大きく火を吹いた。
吐き出した炎の先が、城壁で控える兵士たちの頭上を舐める。
辺りに凄惨な悲鳴と恐怖の叫びが響き渡った。
「どうして私に呪いなんてかけたの! 私はあなたのものなんかじゃないわ!」
「ヘザーとの約束だ。あの娘を今喰うことを見逃す代わりに、その後生まれた娘をもらうとその時誓った」
「じゃあさっさとここに、食べに来なさいよ!」
竜の雄叫びが上がる。
棘の生えた長い尻尾が、城壁を叩きつけた。
ガラガラと崩れ落ちる壁面が、控える兵士たちの頭上に降り注ぐ。
「ではそこから動くなよ、ウィンフレッド!」
空に炎の渦が巻き上がる。
彼の吹き出したその火が、私に向かって吐き出された。
「危ない!」
ドットが飛び出す。
とっさに私をかばった彼の魔法が、ドラゴンの炎をはね返した。
「来ちゃダメ! 動かないでって言ったじゃない!」
「ですが、ウィンフレッドさま!」
ドットの腕に抱えられた私を、グレグの化けたドラゴンが高らかに笑う。
「どうした。この国の兵士たちは、揃いも揃って腰抜けか? この俺様に恐れをなしたか! 勇敢な兵士であるならば、見ていないでかかってこい!」
赤黒いドラゴンが、私をめがけ急降下してくる。
彼の吐き出した炎が、髪の先を焼いた。
「姫さまご命令を! もうこれ以上は耐えられません!」
ドラゴンは上空で身を翻すと、城壁に待機する兵士たちのその牙を向けた。
「グレグやめて!」
彼は壁の上に舞い降りると、兵士たちに噛みついて捕らえようと、ガチガチと歯を打ち鳴らす。
俊敏な動きで何度も首を伸ばし、彼らをその牙で捕らえようとしていた。
一人の兵士が、ついにその口に捕らえられる。
「うわぁっ!」
彼の持つ剣が、ドラゴンの鼻先を貫いた。
「全軍、攻撃開始!」
ドットの声を合図に、一斉に矢が放たれる。
鼻先を刺されたドラゴンは、捕らえた兵士を口からこぼれ落とした。
「私が欲しいのなら、兵士じゃなくて私を食べに来て!」
そう叫んでも、もう彼の耳には届かない。
ドラゴンに化けたグレグは、執拗に兵士たちを襲う。
抵抗するなという指示なんて、もう何の意味も成していなかった。
「ウィンフレッドさま。私も戦います!」
ドットは魔法の杖を掲げ、呪文を唱える。
城壁の上で兵士たちと戦闘を繰り広げるドラゴンに向かって、強力な雷の一撃を放った。
城壁で暴れていたドラゴンはその一撃に、ようやく視線をこちらに向けた。
「あぁ、そうこなくてはな。お前から受けた先日の痛み、ここで晴らさせてもらうぞ!」
ドラゴンの雄叫びが城中に響き渡る。
彼はその赤黒い体全身に、炎の渦を纏った。
城壁の縁に長いかぎ爪を引っかけると、そこからこちらへ向けて飛びかかってくる。
ドットの繰り出した風魔法が、彼の体を切り裂いた。
「ぐわぁぁ!」
嘘でしょ、グレグ!
かの大魔法使いが、こんな簡単にやられるの?
ドットの放った魔法の力に、剥がれ落ちたドラゴンの鱗がキラキラと舞い落ちた。
彼は円形広場の遙か上空にまで飛び上がると、そこから大きな火炎球を吐き下ろす。
「お前たちは姫さまを連れて避難しろ!」
「いやよ!」
「ダメです。こちらへ!」
グレグを迎え討つため、普段は騎士たちの御前演武が開かれる円形広場を、謁見の場に選ぶ。
土がむき出しになった闘技場は、周囲を高い城壁に囲まれていた。
その壁上に弓や槍を持った兵士と魔法師たちを配置している。
街の住民には、予め触書も出しておいた。
円形広場周辺だけでなく、城内のありとあらゆるところが、厳重に警戒されている。
「ドット。私の合図があるまで、決して全部隊一歩たりとも動くことがないよう、もう一度周知徹底させて」
「かしこまりました。しかし本当に、グレグは現れるでしょうか」
彼にしてみれば、鉄壁の守りを固めた罠だらけの場所に、一人で乗り込んでくるようなものだ。
「ウィンフレッドさまも、ご家族と一緒に避難されれば……。危険なようなら、私が代わりに……」
「もうその話は聞き飽きました。十分に話し合ったはずです」
お父さまやお母さまには、万が一のことがあってはならないと、避難してもらっている。
もちろんお兄さまたちもだ。
家族はみんな、この作戦に反対した。
だけど、成功させるために信じてほしいとお願いしてある。
「彼と交渉するのなら、一番に私自身が迎えなくてどうするの。現に塔に会いに来ていたのは、私を見定めるためだったんだから」
「ですが……」
私は円形広場の中央に立つと、彼の現れるであろう朝の空を見上げる。
周囲にはドットと数名の護衛しか付けていない。
すっきりと晴れていた西の空に、突然不自然な雷雲が立ちこめた。
その黒い雲の塊はぐねぐねと波打ちうねりながら形を変え、徐々に城へ近づいてくる。
「グレグだ! 大魔法使いグレグが、本当にやって来たぞ!」
城の兵士たちが騒ぎ始めた。
円形広場の上空に現れたのは、黒雲を纏い雷鳴を響かせ、赤黒い体に長い角と牙を持つ、禍々しいまでの凶悪なドラゴンだった。
大きな翼をバサリと広げ、鎖をかき鳴らしたような耳障りな声をあげる。
「お前がヘザーの血を引く娘か」
そのドラゴンが息を吐くたび、大きく裂けた口から灼熱の炎が吹きだした。
黒煙が上る。
「そうよ! あなたは本当に、グレグ・ルドスキー自身なの?」
「当然だ!」
ドラゴンは大きく火を吹いた。
吐き出した炎の先が、城壁で控える兵士たちの頭上を舐める。
辺りに凄惨な悲鳴と恐怖の叫びが響き渡った。
「どうして私に呪いなんてかけたの! 私はあなたのものなんかじゃないわ!」
「ヘザーとの約束だ。あの娘を今喰うことを見逃す代わりに、その後生まれた娘をもらうとその時誓った」
「じゃあさっさとここに、食べに来なさいよ!」
竜の雄叫びが上がる。
棘の生えた長い尻尾が、城壁を叩きつけた。
ガラガラと崩れ落ちる壁面が、控える兵士たちの頭上に降り注ぐ。
「ではそこから動くなよ、ウィンフレッド!」
空に炎の渦が巻き上がる。
彼の吹き出したその火が、私に向かって吐き出された。
「危ない!」
ドットが飛び出す。
とっさに私をかばった彼の魔法が、ドラゴンの炎をはね返した。
「来ちゃダメ! 動かないでって言ったじゃない!」
「ですが、ウィンフレッドさま!」
ドットの腕に抱えられた私を、グレグの化けたドラゴンが高らかに笑う。
「どうした。この国の兵士たちは、揃いも揃って腰抜けか? この俺様に恐れをなしたか! 勇敢な兵士であるならば、見ていないでかかってこい!」
赤黒いドラゴンが、私をめがけ急降下してくる。
彼の吐き出した炎が、髪の先を焼いた。
「姫さまご命令を! もうこれ以上は耐えられません!」
ドラゴンは上空で身を翻すと、城壁に待機する兵士たちのその牙を向けた。
「グレグやめて!」
彼は壁の上に舞い降りると、兵士たちに噛みついて捕らえようと、ガチガチと歯を打ち鳴らす。
俊敏な動きで何度も首を伸ばし、彼らをその牙で捕らえようとしていた。
一人の兵士が、ついにその口に捕らえられる。
「うわぁっ!」
彼の持つ剣が、ドラゴンの鼻先を貫いた。
「全軍、攻撃開始!」
ドットの声を合図に、一斉に矢が放たれる。
鼻先を刺されたドラゴンは、捕らえた兵士を口からこぼれ落とした。
「私が欲しいのなら、兵士じゃなくて私を食べに来て!」
そう叫んでも、もう彼の耳には届かない。
ドラゴンに化けたグレグは、執拗に兵士たちを襲う。
抵抗するなという指示なんて、もう何の意味も成していなかった。
「ウィンフレッドさま。私も戦います!」
ドットは魔法の杖を掲げ、呪文を唱える。
城壁の上で兵士たちと戦闘を繰り広げるドラゴンに向かって、強力な雷の一撃を放った。
城壁で暴れていたドラゴンはその一撃に、ようやく視線をこちらに向けた。
「あぁ、そうこなくてはな。お前から受けた先日の痛み、ここで晴らさせてもらうぞ!」
ドラゴンの雄叫びが城中に響き渡る。
彼はその赤黒い体全身に、炎の渦を纏った。
城壁の縁に長いかぎ爪を引っかけると、そこからこちらへ向けて飛びかかってくる。
ドットの繰り出した風魔法が、彼の体を切り裂いた。
「ぐわぁぁ!」
嘘でしょ、グレグ!
かの大魔法使いが、こんな簡単にやられるの?
ドットの放った魔法の力に、剥がれ落ちたドラゴンの鱗がキラキラと舞い落ちた。
彼は円形広場の遙か上空にまで飛び上がると、そこから大きな火炎球を吐き下ろす。
「お前たちは姫さまを連れて避難しろ!」
「いやよ!」
「ダメです。こちらへ!」



