豪華な装飾を纏う部屋で翼は黙々と編み物をしていた。最近真理愛とかぐやと三人で編み物にハマり授業の合間の休み時間を利用して作っていた。考えたい事や気になる事は沢山ある。御影の過去や琉伽の能力の限界、儀式とは何なのかまだまだ問題は山積みで翼ひとりが考えても解決の仕様がない問題ばかりで翼は編み物に逃げていた。あの別荘で見つけた儀式が書かれた本は忽然と姿を消し探しても見つからなかった。そんな事もあり頭はパンク寸前、編み物をしている時は編み物に集中出来るので余計なことを考えることもなかった。
「…ぅ」
小さなうめき声が聞こえた。翼は編み物の手を止め翼の太ももを枕にし寝ている御影の顔を覗く。
「…うぅ、ふっ」
御影は顔を歪ませ嫌な夢を見ているのは明白だった。翼は御影の頭を撫でた。最近は夜にまとまった時間寝られずこうして昼間に短時間睡眠を繰り返している。それもあの日…別荘での出来事があってから眠れなくなっていた。御影の顔はずっと歪み、さすがに起こした方がいいのではと考えた翼はそっと御影の肩を揺らす。
「御影、御影」
数回揺らして声をかけると御影の瞳はすっと開いた。
「…ん」
綺麗な瞳が露になる。薄らと隈が広がる白い肌に翼は心が痛む。
「大丈夫?御影」
「…翼、おはよう…また魘されてた?」
「うん、ごめんね起こして…見てられなくて」
「ううん、大丈夫。また夢見てた」
「お姉さんの夢?」
「いや…今日は…」
その瞬間バーンっと扉が開いた。
驚く翼と動じず扉の方へと目線を動かす御影。
「暴君野郎!!」
「陸玖、ノックも無しに…」
勢いよく開かれた扉の先には慌てた顔をする陸玖と翼が御影に膝枕をしている様子を見て気まづい海偉の姿。
「ねぇ、暴君野郎!」
ズカズカと翼と御影に歩み寄る陸玖に頭を抱える海偉。
「おいおい、お前ふたりの状況見えてないのかよ〜、おいこらお前待て」
海偉は陸玖の肩を掴むが手で払われる。
「今までずっとここにいた?」
陸玖の言葉に疑問が浮かぶ翼と御影。
「…?」
「今日は屋敷から外に出た?【学園】行ったりした?」
「…今日は【学園】は休みだけど」
「じゃあ、ずっとここに居たって事?」
焦る陸玖の姿に御影は座り直る。
「…そうだよ」
その陸玖の姿に翼も何事かと構える。
「なんだよ陸玖、何を焦ってるんだよ」
海偉もその様子を陸玖に声をかける。
「…じゃあ、あの人誰なの」
「…あの人?」
「見たの!さっき【学園】で!あんたそっくりだったの顔も声も!だけど何か違った…あんたじゃなかった…それを確認したくて」
「いや、ここにずっといたって言ってんじゃん 見間違いだろ?陸玖」
「違うよお兄!私話したんだよ!?」
「…そいつ、何て言ってた」
御影の低い声にその場が凍る。
「ここで良く内緒で遊んだだったかな…後もうすぐ金木犀が咲く頃だ、とか金木犀の匂い好きって言ってた」
「………」
その言葉を聞いて御影はソファから立ち上がり外に出る準備を始める。
「何処に行くの?御影」
その姿に翼は声をかける。
「【学園】」
その一言だけを残し御影は部屋を出て行った。
三人は御影の後を追うように部屋を後にした。
「ここにいたの」
【学園】の中庭に四人はいた。陸玖が言う御影にそっくりな男と出会った場所で御影は辺りを見渡したがそんな男は見当たらない。
「…御影」
不安そうな声で御影の名前を呼ぶ翼。御影はその声には反応せずじっと周りを見渡していた。誰もいない静かな中庭。陸玖の言う御影に似た人とは…。
「…お前あんな所にいたらばれるぞ」
刻は目の前の男に声をかける。その男は楽しそうににやにやと笑う。
「だって、懐かしくてさ~」
「…だからって、」
「ごめんごめん、楽しくなっちゃって」
その男は青い空を見上げ目を細めた。
「だって僕がここに通うはずだったからさ」
「………」
寂し気にいう男の言葉に刻は何も言わなかった。というか言えなかった。この男の深すぎる闇に踏み入るのは危険すぎる。
刻はその男の背中を眺める。
「刻、そろそろ始めようか」
「………」
「取り戻そう、僕らの居場所を」
そう言って黎影は笑った。


