「海だー!!!」
「いえいー!!!!」
海に向かって砂浜を駆ける愁と壱夜。
その後ろにぞろぞろとはしゃぐふたりを見つめる御一行。
「本当に元気ですわね」
「そりゃ愁と壱夜だもん 元気が取り柄のふたりだからね〜」
かぐやと真理愛は呆れたようにはしゃぐふたりを眺める。
「パラソルどこに立てる?」
「ここでいいんじゃない?」
弦里と琉伽は日陰を模索し庵は日陰で身を隠し御影はただじっと暑い太陽を眺めていた。
「…大丈夫?」
翼は咄嗟に声をかける。
「うん、大丈夫だよ」
その言葉に頷き、翼は目の前に広がる海を眺める。大きな広い青い海。その広大さに驚きつつこんな光景を見れる日が来たのかと感慨深く思う。
「もしかして、翼 海初めて?」
「…うん」
その翼の言葉にその場にいた全員が翼を見る。
「嘘嘘嘘!本当に!?翼ちゃん!」
「本当ですか?翼さん!」
真理愛とかぐやが慌てながら翼に寄っていく。
【リデルガ】と【リアゾン】は海に囲まれた島国。少し移動をすればどの地域に住んでいても海はさほど珍しいものではない。
「…はは、本当になんて言ったらいいか」
「……」
項垂れる弦里と言葉が出ない琉伽。
その言葉を聞いて海に走って行った愁と壱夜が駆け足で戻ってくる。
「翼!行くぞ!」
「へっ?」
「ほら!真理愛も!」
愁は翼の手を壱夜は真理愛の手を引っ張り海に走っていく4人。
そう御影達一行は別荘に来ていたのだ。
季節は夏、舞踏会事件が起こり解決に勤しんでいた春気づけば季節は夏へと移り代わっていた。【学園】は長期休みに入り、各々自由に休みを満喫しようとしていたが、愁の一言から始まった。
ことは数週間前に遡る。
「皆で別荘行こうぜ!」
「「別荘?」」
御影と琉伽の言葉がハモる。
「別荘だよ!昔よく行ってたでしょ!御影の別荘!」
壱夜の言葉に御影は深く考え「あー…」と微かな記憶が蘇る。
時期六花として顔合わせをした頃から六花の六人は夏に御影の別荘で過ごしていた。企画者は愁の父親、将来この国を支える六花だから親睦を深めた方がいいと言われ夏は別荘で子ども六人で過ごしていた。
それももう年齢を重ねると共に気づいたらそんな行事も無くなっていた。
「行ってたね 覚えてる?御影」
「…なんとなく」
琉伽の言葉に曖昧な返事をする御影。
確かに覚えてはいる、覚えてはいるのだが…。
記憶にモヤがかかっているかのように鮮明には思い出せないでいた。
「だーかーらー!今年は皆でぱーっと遊んで楽しい思い出作ろうぜ!」
御影は考える。
あの場所は海も山もあり自然豊か、夏には避暑地として人気のあるエリアだ。翼もいる事だし皆で行ってもいいかもしれないと心の中で思う。
「…そうだな」
「おお!御影からのお許しが出た!」
愁と壱夜の目がパッと明るくなりふたりして喜ぶ。
「いいの?御影」
「まあ、たまにはいいんじゃない?」
「…そう」
琉伽は御影の横顔を眺める。
琉伽の中であの日のことが思い出される。
(何も起こらないといいけど)
そっと心の中で呟いた。
「うぃーす」
すると専用室の扉が開き海偉と陸玖が現れる。
海偉は御影と視線が合い気まずそうに視線を逸らす。先程の翼との事を思い出していたからだ。
御影はその海偉の様子を不思議に思う。
「?」
「お!海偉!陸玖!いい所に!」
「なに?」
「お前らも行こうぜ!別荘!」
「「別荘?」」
ということで彼らは別荘に来ていた。
避暑地という事もあり中心街よりも気温は低く過ごしやすい気温。海が初めてな翼は物珍しいのか愁と壱夜、真理愛に見守られながら波を警戒している。その様子を見て愁と壱夜はゲラゲラと笑う。
「何あれ、何してんの?」
「あ、陸玖ちゃん 海偉 来てくれたんだ」
ふたりの存在に気づく琉伽。
陸玖は波を怖がる翼を見て眉間に皺を寄せている。
「海初めてなんだって」
弦里の言葉に海偉と陸玖は言葉にならない声を上げる。
「…嘘だろ【リアゾン】にも海はあるぞ」
「てか海に囲まれてるんだから、行ったことないとかあんの?」
ふたりは困惑の表情をする。
「それだけ、軟禁状態だったって事だろう」
日陰に避難していた庵が準備されたパラソルの下へと入り一言発する。
庵のその言葉にそこにいた全員が少し暗い気持ちになった。
陸玖は羽織っていたパーカーを海偉に投げ渡し、ササッと海の方へと走っていく。
そして、怖がる翼の手を取り海の中へと入って行った。
「陸玖さん、優しいですよね」
かぐやの言葉に海偉はふっと笑う。
「そうなんだよな〜あぁ見えてうちの妹優しいのよ」
海ではしゃぐ五人を微笑ましく眺める。
「海偉、ほら」
「お、さんきゅ」
弦里は持ってきていた炭酸ジュースを海偉に渡し、御影や庵、かぐやそして琉伽にも渡す。
海偉は炭酸ジュースの蓋を開けごくっと喉を潤す。
弦里と琉伽が用意したパラソルの下でシートを敷きそれぞれ日陰でリラックスする。
「海偉良く来れたね」
弦里が海偉に話しかける。
「あ〜まあ?」
曖昧な返事をする海偉に琉伽は言葉を続ける。
「親父さんの許可出たんだ?」
「いや、出てない」
「「え」」
弦里と琉伽は顔を見合わせる。
「まあ、バレないだろ」
引きつった笑顔の海偉に弦里も琉伽も頭を抱えるしかなかった。
交流が再開されたからといって【リアゾン】と【リデルガ】を行き来出来るのは六花とハンターの一族のみ。国同士の公の場での交流の為に許可されているのであって私用は以ての外である。
これがバレたらまあ何を言われるか分からない。
「本当無茶な事をする」
ボソッと呟く御影。
「お前らが誘って来たんだろー!特にあいつ等!」
海偉は海ではしゃぐ愁と壱夜を指差す。
「まあまあ、せっかくなんだから楽しもうよ」
琉伽の言葉に頷く海偉。
「庵様 暑いですか?うちわで仰ぎますわよ?」
「いや、いい 大丈夫だ」
「でも暑い所は苦手ですわよね?ほら、遠慮なさらず」
「…ぁ、あぁ」
海偉の隣でいちゃいちゃする庵とかぐや。
「お前らは本当に人目もはばからず…」
見ているだけでこっちが暑くなるわと吐き捨てる海偉。
「庵だからね〜」
「かぐやだからね〜」
弦里と琉伽はこの光景を楽しみながらふたりでねーっと顔を合わせる。
「べ、別に!いちゃいちゃしているわけでは!」
庵は顔を赤く染め慌てて弁解をする。
「そうですわよ!庵様は特に暑いのが苦手ですから 体調が悪くなっては元もこうもありません!」
「吸血種は皆暑さに弱いだろ」
海偉の呆れた言葉にかぐやはぷくっと頬を膨らませる。
「庵様は特に!ですわ!」
「あ〜そーですかー」
面倒くさくなった海偉は海ではしゃぐ五人に目をやる。楽しそうに笑う陸玖の姿に来てよかったと素直に思った。
海偉自身もせっかく海に来たのだ泳がないと損だと思い着ているパーカーを脱ぐ。
「お前ら泳がねーの?」
パラソルの下から一向に動こうとしない5人に声をかける。
「「「「「行ってらしゃい」」」」」
「…なんで来たんだよ」
そんな五人を置いて海偉は海へ向かった。


