「はぁあ??ヴァンプ化って!そんな事…どうやったら止められるんだよ」
愁は慌てながらどうすればいいのかと頭を悩ませる。
真理愛も弦里もどうしたらいいのか分からずただ苦しんでいる海偉の姿を眺めることしか出来ない。
「お兄!お兄!どうしよう!このままじゃお兄が吸血種になっちゃう!ねえ!どうしたらいいの!」
陸玖の叫び声が部屋中に響く。
「…はぁ…ぁぁあ…」
「お兄!」
「…陸、玖…俺から離れろ…」
「海偉!」
「お兄?何言ってるの?」
「愁…弦里…、真理愛と陸玖…連れてこの部屋から出ろ…」
「海偉…お前」
苦しみながらも言葉を発する海偉。
その言葉に弦里は察する。
「…頭の中でさ…ずっと噛めってうるせえんだ。血が飲みたく…ってさ もう本当に狂うわ…ははっ」
笑いながら頭を抱える海偉。
「お兄!」
ポロポロ涙が溢れて止まらない陸玖。
「いいよ…私の事噛んでいいよ…お兄」
「陸玖…」
「…陸玖ちゃん」
陸玖のその言葉に涙が溢れる真理愛。
「…ほんとバカだな お前…はぁ、はぁ 頼むわ、まじで」
すると海偉はチラッと愁と弦里に視線を向け合図を送る。
その視線を受けた愁は咄嗟に陸玖と真理愛を抱き抱え部屋の外へと押し出し、愁と弦里が部屋の扉を閉めた。中からガチャりと鍵を閉めた音が聞こえる。
「ちょっ…愁!弦里!!お兄!!開けて!ねえ!開けろよ!!」
陸玖がバンバンと扉を叩くが開ける気配はない。
「…はぁ、どうすんだ?愁」
「さぁ…どうしようか」
愁と弦里は悶えながらも苦しむ海偉の姿にどうしたらいいのかと顔を合わせる。
ふたりの後ろの扉は壊れるんじゃないかというくらい強い力でバンバン叩く音が聞こえる。
身体の構造をも変えてしまうヴァンプ化の能力。噛まれた人間種がその後どうなるかなんてふたりは知らない。
元に戻る方法があるのか…はたまた暴走を止めるには殺すしかないのか…そのふたつの方法が頭をよぎる。
ユラユラとだるそうな身体を起こし立ち上がる海偉。海偉の目は少し虚ろな目をしていて、何かにのまれる一歩手前だと言うことが分かった。
愁も弦里もその海偉の姿に警戒態勢に入った。
その瞬間バァーンという音と共に屋敷の窓ガラスが割れ何かが突撃して来たのが分かった。
愁と弦里、そして海偉もその音と衝撃に意識が移る。
「…み、御影!?と翼ぁぁあ!?」
宙を舞い翼を抱き抱えながらも可憐に着地する御影。愁は動揺を隠しきれずにいた。
弦里も何が起こっているのかと目をぱちくりする。
「愁!弦里!海偉を押さえて!」
御影のその言葉に愁と弦里は海偉を床に押さえつける。暴れながらも海偉はふたりに押さえつけられ身動きが取れない。
「…翼」
御影が翼の名前を呼ぶと、翼は頷き自身の服を捲り手首を露わにする。
その腕を海偉の口元へと持っていく。
「…ちょ、翼」
「翼ちゃん…何を…」
すると海偉は目の前に差し出された翼の腕に思い切り噛み付く。
「…ぅ」
翼から小さな声が漏れる。
「御影!これ!」
愁はその光景に動揺し御影に声をかけるが御影はその光景をただじっと眺めた。
ごくんごくんと海偉は喉を震わせる。
「…いっ」
翼の腕に食い込むようにしっかり噛む海偉の姿、そして痛みに顔をしかめる翼の姿に弦里は顔を背けた。
すると海偉の動きが止まりがくんと急に意識を失った。
「おわっ」
意識を失った身体は鉛のように重く愁と弦里の支える腕に負荷が係る。
牙から離された翼の腕にはぽっかりと穴があき、そこから血が溢れる。
見るからに痛々しい傷跡だ。
「翼…」
「…大丈夫」
御影は翼の腰を抱き立たせ部屋のソファへと座らせる。そして部屋の扉の鍵を開け、真理愛と陸玖を招き入れた。
「御影…どうして」
「お兄!お兄!」
陸玖は海偉へとまっしぐらにかけつける。
真理愛は御影がいることを不思議に思いつつも部屋の隅にあるソファに座る翼へと視線を向ける。
「…翼ちゃん?」
「真理愛、手当してやって」
その言葉を聞いてソファに座る翼に駆け寄る。
腕には牙で噛み付いたであろう穴がぽっかりと空いておりそこから血が溢れている。
「翼ちゃん…これ」
「もう海偉さんきっと大丈夫だよ」
そう言って痛みに耐えながら笑う翼に真理愛は目頭が熱くなるのが分かった。
出てきそうな涙を必死に抑え翼の手当を行う。
翼は目の前で泣きながら意識のない海偉に抱きつく陸玖の姿を見て少しほっとしていた。
これで少しは役に立ったのかもしれないと…。
「…良かった」
翼はそう呟くと意識が遠くなる。
「翼ちゃん!?」
真理愛の声が段々遠くなる。
翼は意識を手放した。


