静かな六花専用室。
誰も居なくなった部屋でひとり窓から外を眺める翼。
数分前 別の部屋にいた弦里と庵は慌ただしく何処かに連絡を取っていた。

『真理愛、一緒に来てくれる?怪我人がいるらしいんだ』

その弦里と言葉共に3人は何処に行ってしまった。
きっと鳩が言っていた場所へと行ったんだろうという想像は出来ていた。
それにしても静かな夜。翼は心の中で皆の安否を心配していた。
するとチカッと窓が光った気がした。
不思議に思い窓の外に目を懲らす。
チカッチカッと光る。

「………」

その瞬間光の発する場所に人影を捉えた翼はは自分で自分の心臓の鼓動が速くなるのが分かった。
そしてまたチカッと光ったその瞬間翼は六花専用室を飛び出した。
【学園】の長い廊下を全速力で走る。
翼の頭の中は混乱していた、全力疾走する身体、息が上がる中どうして?何で?ただ頭の中がぐちゃぐちゃになる。

居るはずがない、ここ来れるはずが無い。
きっと見間違いだ、そうに決まってる。
そんな考えが頭の中を巡る。

「はぁ、はぁっ」

全速力で階段を駆ける。
そして外に繋がる重い扉を開け、チカッと光る場所を目掛けてゆっくりと歩いていく。
うるさい心臓を落ち着かせ、深く深呼吸をする。

チカッ チカッ

暗い闇に控えめに光る光、その光と共に落ち着かせたはずの心臓がまた早くなる。そして人影が現れた。
サラッとした柔らかな長い髪。
白い綺麗な肌。

「…なん、で?」

相手の口角が上がる。

「久しぶり、翼ちゃん」

慣れ親しんだ声。
嫌でも覚えている。唯一の友達。

「やっと見つけた」
「凜々…」

そこにはここに居るはずのない友達の姿があった。

「どうして?なんで…凜々がここに、いるの?」

声と手が震えているのが分かる。
上手く喋れない。
凜々はゆっくり翼との距離を縮める。
そしてギュッと翼を抱きしめた。

「やっと会えた…迎えに来たよ翼ちゃん」
「…迎え…?」
「無理やり連れてこられたんでしょう?もう大丈夫、私が来たから…ねっ?一緒に帰ろう」
「…帰るって…どこに?」
「どこにって、【リアゾン】に決まってるでしょう?」

凜々の瞳が翼を捉える。

「【リアゾン】に私の帰る場所はもうないの…ねえ、凜々それよりなんで【リデルガ】にいるの?どうやってここまで来たの?」
「…………それよりって何?」
「…凜々?」

翼の手を握る力が強くなる。

「…痛っ、ねえ、凜々…?」

凜々は俯きながらぎゅっと握る手に力を込めた。

「…ね、リ、」

すると凜々は何かにピクっと反応し俯いていた顔を上げた。

「絶対迎えに来るから…それまで、待ってて」

その瞬間目の前の凜々は泡のようにキラキラと光って消えた。

「…凜々」

翼は目の前で起きた事が信じられなかった。
人間種の凜々が【リデルガ】に来れるはずがない。翼は自身が幻覚でも見ていたのかと錯覚する。

「幻覚じゃないよ」

その声は翼の後方からはっきりと聞こえた。
気配を消し気づいた時にはもう真後ろにいる。

「…御影」
「ごめん、ひとりにして」

少し悲しそうに眉をひそめる御影。
翼は咄嗟に首を横に振る。

「今の翼の友達だよね」
「うん…でも…」
「ここに居るはずがない…?」
「うん、人間種は【リデルガ】に来れないでしょう?」
「そうだね…来れるはずがないね」

御影は凜々が消えた場所を凝視し何かを考えている。そして翼は凜々の事も気になるがもうひとつ気になることがあった。

「御影…海偉さんは…」
「…見つかったよ」
「そう…良かった…」

翼がそう言うと御影は俯いた。
その御影の姿に翼は嫌な予感がした。