「おっらぁぁああ!」

海偉は野太い声を上げ吸血種の男の頬に思いっきりパンチをお見舞いする。
先程の変な音と共に気づいたらこのよく分からないおもちゃ箱をひっくり返したような部屋にいた。次々現れる吸血種に襲いかかられる中全て返り討ちにしていた。

「舐めんじゃねーぞ、ハンターの末裔を!」

目の前で気絶している吸血種達に中指を立てべーっと舌を出す。
そして海偉はくるりと後ろを振り返り物陰に隠れる子ども達に声をかける。

「もう大丈夫だ」

その言葉に数人の子ども達が顔を出す。
怯えた顔でうるうると瞳に涙を溜めている。
海偉自身何が起こっているのか最初は分からなかったが仮面を付けた吸血種達が襲ってくること、鬼ごっこという単語。
これは吸血種が人間種を狩るということ、それを鬼ごっこと呼んでいるのだろうと想像ができた。
そこらは襲ってくる吸血種を全て返り討ちにしていた。
海偉はその子ども達の頭を撫でた。

「ここはもう大丈夫そうだ、さっきの所で終わるまで隠れてろな?俺は他の部屋行って、お前らの仲間助けるから絶対に顔出すなよ」

そう言うとコクコクと頷く子ども達。
海偉はニコッと微笑んで次の部屋へと足を進めた。
一部屋一部屋扉が着いており、扉を開けるとまた同じような部屋が広がる。
ここがどのような造りなのか全く把握が出来ない。海偉はカチャと次の扉を開けた。
すると海偉の目の前には赤い赤い血の海が顔を出す。

「…ぇ」

そしてその血の海の先には男が子どもの首に牙をたてジュルジュルと音を立てながら吸っている。
その光景を見た途端海偉は考えるよりも先に身体が動き殴り掛かっていた。

「!?」

だが意図も簡単に海偉の攻撃は避けられた。
今までの吸血種とは身のこなしが違う。
その吸血種の男はフラフラと立ち上がり、海偉を凝視する。

「…さっきの人間だぁ」

そしてにやっと笑った。

「…さっき?」

気味の悪い吸血種。
ニタニタと笑みを浮かべ身体はふらふらと左右に振っている。

「【学園】にいたよね〜、僕ね君の血が吸いたくてね〜。でもね刻ときに怒られたんだぁ〜。君はハンターの一族なんだってねぇ〜。殺しちゃダメだって怒られたんだぁ〜。あの時は」

-こいつ、俺を襲った吸血種か!?

【学園】の森を歩いていた時に変な気配を察したと思ったら急な衝撃に意識を失った。

-こいつが…。

「でもねぇ〜、もうねぇ〜。鬼ごっこ始まったからいいんだよぉ〜。食べてもいいんだって刻とき言ってたから来たんだよぉ〜」

語尾の伸びた変な話し方にイライラする海偉。
するとその吸血種は海偉の目の前から消えた。

「…っ!!」

消えたと思ったら海偉の背後から強烈な蹴りを食らわされる。壁まで飛ばされた海偉は咄嗟に受身を取る。

「凄いね〜凄いね〜!やっぱりハンターの一族だよ〜、あははははっ」
「…頭イカれてんじゃねーの、お前」
「…頭?そうだねぇ〜、そうかもねぇ〜。僕ね血を飲まないと頭おかしくなるだぁ〜、もうずっとそうなんだなぁ〜」

海偉はそいつの言っている意味が分からない。

「だからねぇ〜、まずはあの子達の飲んでいいよねぇ〜」

そう言ってそいつはにやっと笑い、物陰に隠れる子ども達目掛けて走り始めた。
海偉もその男の後を追った。必死に手を伸ばす。
震え強ばる子ども達の顔…。

-ダメだ!ダメだ!






















ドゴォォォォォン!!

「なに…」

大きな破壊音が愁と陸玖がいる部屋まで届く。

「…向こうの部屋からだよな」

愁は部屋の扉を指差す。
陸玖と愁は立ち上がり、その扉へと向かう。

「待って、僕も行く」
「は?ダメだ、お前はその子達とここで待ってろ」

物陰に隠れる数人の子ども達を指さしここにいろと諭す。

「嫌だ!行く!お願い!連れてって!」
「ダメだって、ほら隠れとけ」
「………」

陸玖はふたりのやり取りを眺める。

「なんでそんなに行きたいの?死んじゃうかもしれないよ?」

陸玖の言葉に少年は言葉を発する。

「…お兄さんが、鬼ごっこが始まる前『終わりにする』って言ってくれたんだ」

鬼ごっこが始まる前。
始まりの合図のブザーがなる中。

『何が起こるか分からねーけど、絶対俺が終わりにするから!お前達を助けるから!だから…』

意識が途切れそうな中

『生きろよ!』

その言葉が聞こえた。

「だから、僕はお兄さんともう一度会いたい」

その言葉を聞いた陸玖はお兄らしいなと思った。
一体何が始まるか分からない中で、お兄は必死だったんだ。
お兄は頭がとにかくきれる、何となくその場の雰囲気や誰かの発する言葉でこれから起こるおおよそのことは予想が出来ていたんだろう。
だから『生きろよ』なんて言葉が出たんだ。

「だったら、尚更ここにいて。危険な場所へは連れて行けない。」
「でも!」
「絶対会わせてあげるから。あの子達守って待ってて」

陸玖の言葉に少年は渋々頷いた。

「あのね!気をつけてね!」
「うん」
「それとね、ハクには気をつけてね。他の人とは違うよ。あれは吸血゛鬼゛だから」
「陸玖!行くぞ」
「…うん」

陸玖は愁の後を追う。
さっき少年の言葉。

『吸血゛鬼゛だから』

その言葉に違和感を覚える。

-吸血…鬼…

少年はずっと吸血種と言っていた。
なのにそのハクという人物に対しては吸血゛鬼゛と言った。その表現が陸玖の心に違和感を落とす。

部屋から部屋へと扉を開けるを繰り返し音のする方へと向かう。
扉を開けても開けても同じような部屋が広がる。
壁や床に血の後や、倒れている子どももいれば血の後もない部屋もある。
子ども達の姿は見えないが、きっと何処かに隠れているんだろう。
幸い吸血種とは出会わなかった。
ただどんどんさっきの破壊音が近づいてくる。

ガチャ

一番大きく聞こえた破壊音と同時に扉を開けた。

「…お兄」

陸玖は小さな声で呟く。
目の前の部屋は赤く血の海が出来ており、壁中に血が飛んでいる。壁が崩壊している所もある。
激しい戦闘をしていた事は一目瞭然だった。
でも、陸玖はそんな事より今目の前の状況を把握するのに精一杯だった。
子どもを抱えて逃げながらも追いかけてくる白髪の男と交戦している海偉の姿。

「海偉!!!!」

愁の声に海偉は視線をこちらに向ける。
一瞬驚いたように目を見開いた海偉は優しく微笑み抱えている子どもを愁に放り投げた。
円を書くように小さな身体が宙に舞う。

「っ!!!」

愁は子どもを危機一髪で子どもを抱き止めた。
横目で無事子どもを抱き止めた愁を確認した陸玖は海偉へと視線を戻す。
海偉は子どもを抱き止めた愁に安堵した表情をするも、その後ろから白髪の男が迫って来ていた。

「お兄!!!!!!」

陸玖は精一杯の声を上げ、海偉へと向かう陸玖。
白髪の男は大きな口を開け、牙を覗かせる。

-お兄!お兄!お兄!

その瞬間血飛沫が舞った。
目の前がスローモーションに見えた。
海偉の首元に躊躇もなく齧り付く男。
目の前が赤くなる。赤…赤…赤…赤赤赤赤赤赤









-ぁ…まただ…。