「ねえ…」

部屋の物陰に隠れる子ども達は身体が震え、泣いている。

ーそりゃ怖いよね…私まで動揺してたら元も子もない。

陸玖は仮面に手をかける。
カチャという音と共に、仮面を外し素顔を見せた陸玖は子ども達に手を差し出した。

「…ごめんね、何もしないから」

その優しい声に子ども達は陸玖の方へ視線を向ける。

「…人間…」

その子はボソッ呟いた。

「…二人目だ」
「…ふたり、」

その言葉に陸玖はその子どもの肩を掴む。

「それって!」
「うわあ!」
「…ぁ、ごめん」
『陸玖どうした!大丈夫か!?』
「いや、大丈夫」

愁の言葉に反応すると、子ども達は誰と話しているのか訳分からず困惑する。
子ども達には愁の声は聞こえていないのだから…。

-この子ども達のいう二人目とはどういう事だろうか。もしかしてお兄のこと?

目の前で怯える子ども達にどうしたものかと悩ませる。

「…お姉ちゃん…人間…?」
「…君達は…」
「人間種だよ、どうしてお姉ちゃんここにいるの?吸血種は?」
「………」
「今日は違うことばかりだ…」

-違うこと…

『なんだよ、これ…』

その時愁の震えた声が聞こえた。

「…愁?」
『陸玖!今すぐその子たちを守れ!』

その瞬間壁を破壊する大きな音が鳴り響いた。
陸玖は咄嗟に幼い二人を抱き抱え、男の子の手を引き物陰に隠れた。
パラパラと壁の砂が舞う中人影が現れる。
そこにはスーツ姿の仮面をした男。
はあはあ…と息を荒らげ何かに興奮している。
その時陸玖は口元に目がいった。
真っ赤な血を口元から垂らしている。

「足りない…足りない…もっとだ」

そう言って男はまた壁を破壊し何処かへと消えた。

-何あれ…

「………っ」

ガダガダと震えが増す子ども達。
鬼ごっこ…プレイヤー…この言葉の意味。

「…そういう事…」

陸玖は理解した。










壱夜はスクリーンに映し出される映像を見て息を飲んだ。

『それではお楽しみ下さい』

その音声と共に映し出されたスクリーンには怯える子ども達とその子どもに襲い掛かる吸血種の姿。
逃げ惑う子ども達、それを躊躇なく捕まえ首元に牙を立てる。

『ぁぁあああああ!!!』

まだ幼い子ども達。
必死に小さな身体で逃げるが大人からは逃れる事は出来ない。
楽しそうに人間種を追いかける吸血種達。
色々な角度から映し出される映像に、一体どうやって撮っているのか分からない角度の物もあった。
牙を突き立て噛まれる瞬間、子どもの泣き声と悲鳴、赤く飛び散る血…壱夜はスクリーンから目を背けた。

-何だこれ…人間種?

身体全身に怒りが湧いてくる。
握る拳には爪が食込みじわっと血が滲み出る。
この部屋にいる吸血種達はそのスクリーンを楽しそうに、時にスポーツ観戦をしているかのように湧き立つ。その様が腹ただしかった。
その時スクリーンには見慣れた人物が映し出された。

-愁…?

愁は襲われそうな子ども達を守りながら次々見つかりにくい場所へと子ども達を隠していく。
その光景にさっきまで歓声をあげていたもの達は困惑の声をあげていく。

「何しているのかしら?」
「他のプレイヤーには見つからないようにしているんじゃないか?」
「なんの為に?」
「後で独り占めする為じゃないか?」
「あの人何を?」

次々と襲っていくプレイヤーが多い中、愁は子ども達に優しく手を取り他のプレイヤーから遠ざける姿にスクリーンを見ているものは何がしたいのかと困惑する。
その姿に壱夜は自分がやらなければならない事を思い出す。

『人間種の存在を確認したら、確保 保護。加担している吸血種達は暗血線送りにする』

潜入する前の御影の言葉を思い出す。
ここにいる数百に満たないもの達をひとりで相手するのは少し厳しいがやるしかない。
一人残らず絶対に逃がさない。

「…はぁ、はぁ…」

走り回る中息が浅くなっていく。
小さな子ども達を抱え走り回るなんて、そうそうある事じゃない。
泣き喚く子どもを落ち着かせるのも一苦労だ。
愁は次々と子ども達を見つけ出し物陰や子どもしか入れないであろう狭い場所に隠し続けた。
絶対出てきちゃダメだと伝えると子ども達は素直に頷く。
そうして回っているとひとり男が近づいてくる。

「…何してんだ独り占めか?」
「……」

その男は口元にべったりと血を着け、興奮している様子だった。

「お前のせいで獲物が何処にもいないじゃねーか。独り占めすんなよ」
「…獲物って」

-動物じゃねーんだよ、こいつらは…。

その男の言葉にイラつきつつも、攻撃を仕掛けようとしてくる男に警戒する。

「ぁ、」

その時物陰に隠れていた子どもが体勢を崩し顔を出す。その瞬間その男がにやっと笑った。
愁はその子どもを抱き抱えようと一直線に走る。それと同時にその男も子どもを攫おうと手を伸ばす。
一歩の差で子どもを抱き抱えた愁はそいつから距離を取る。

「…いたっ」

腕の中の子どもは自身の頬を触り、手のひらを見る動作をする。
その小さな手にはべったりと赤い血がついており頬には一本線の切り傷から血が流れていた。
その小さな頬から目の前の男に目をやると、そいつは手についた血を舐めとる動作をする。

「…お前…」
「いい匂いだなぁ〜!なぁーんでこんな血って美味しんだろうなあ〜!」
「…いかれてやがる」

血を飲む事しか頭にないようだった。
ただただ血に飢える化け物だ。
一歩の差で子どもを守れたが、愁の能力は意思疎通だ。攻撃型の壱夜には及ばないが小さな頃から六花として鍛錬は組んできた。ただの貴族には負けない。

-子どもを守りながらは少し気が重いが…。

陸玖は大丈夫だろうか…そんな事をふと思う。

「愁伏せて!!!」

耳を劈く、その声を聞き咄嗟に子どもの頭を守りながらしゃがむ愁。

ドガンっっ!!!

大きな音が部屋を覆う。
すると目の前の男はどさっと倒れる。
一瞬の事で何が起きたか理解するのに少し時間がかかる。

「…陸玖」

振り返ると陸玖は銃を男に向けたまま立っていた。

「…はぁ…はぁ、はぁ」

肩で息をしながら腰に手を当てる。

「…陸玖、大丈夫か…?」
「大丈夫じゃないわよ!名前呼んでも全然反応無いし!目の前で吸血種は子どもを襲うし!走ってやっと見つけたと思ったら今にも殺り合う感じだったし!」
「…ごめ、集中してて。声届いてなかった」
「なんの為の意思疎通よ!!」

必死な表情で怒鳴る陸玖。
吸血種の俺に対してこうも心配してくれるとは思っても見なかったから驚いた。

「もう…」
「ごめん、ところで陸玖さん」
「…なに!」
「あいつ死んだ?」

倒れている男を指さし愁は陸玖に聞く。

「死んでないわよ、気絶してるだけ。ゴム弾頭に撃ったから」
「…ゴム弾でも、頭に撃ちゃ死ぬだろ」
「吸血種が何言ってんの」

愁は一応その男の息を確認する。
死んではいないようだ。
吸血種といのは本当に頑丈らしい。

「…お姉ちゃん、大丈夫?」

陸玖の後ろから他の子どもより少し年齢の高い子どもが顔を出す。

「大丈夫よ、ありがとう」

陸玖はその子の頭を撫でる。

「陸玖、その子は」
「私が飛ばされた部屋にいた子ども。他の子どもより年齢が上だから色々教えて貰ったんだけど…」

陸玖は呼吸を整え言った。

「お兄も゛鬼゛ごっこに参加してる」