「んっ」
陸玖はうっすらと目を開ける。
誰かが話す声が聞こえる。ボーっとする頭。
まだ靄がかかったようにはっきりとしない。
真っ白な天井から視線を横に逸らすと、背中を向けて誰かと電話で話す長身の男の姿が目に入る。
-誰?
まだ頭がすっきりしない。その背中をぼーっと眺めていると視線に気づいたその男はこちらに向き直る。
-お兄ちゃ…ん?
まだ感覚が鈍い手を伸ばしてみる。
するとその男ははぎゅっと手を握ってくれた。
-暖かい…
「…陸玖ちゃん?」
控えめに名前を呼ばれ急に思考がクリアになる。握られた手を辿る。
「っっっ!!!」
陸玖はバッと手を離す。
「ぁ、琉伽!?なんでっ!」
「なんでって、御影と話し終わったら握ってほしそうに手差し出すから」
「っっつ」
「違った?」
琉伽はコテンと首を傾げ陸玖を見つめる。
恥ずかしさで声が出ない陸玖は自分がしでかした事が信じられない。
「っっ!そ、それより、お兄は?」
「…なんとなく目星は着いたよ」
「なんとなく?」
「特定はまだ出来てないらしい。でも、ここにいるだろうっていう場所は分かったて…」
「場所…」
「そこに海偉はいる」
「…………」
「陸玖ちゃん?」
「…ごめん。疑って暴れて」
陸玖は琉伽の顔を見て謝る。
「家族が攫われたら正気じゃいられないよ」
「………」
「絶対に海偉は見つけるから」
「…うん」
小さな、消えるような声で頷いた。
琉伽はポンと陸玖の頭を撫でる。
「ところで体調はどう?」
「まだちょっと身体がだるい…」
「そかっ」
陸玖はじーっと琉伽の顔を凝視する。
「なににやついてんの?」
慌てて口元を腕で隠す琉伽。
「に、やついてなんかないよ?」
「ふーん」
「…ただ」
「ただ?」
「ただ、ちょっと安心しただけ、陸玖ちゃんが落ち着いたようで」
照れ臭そうに言う琉伽の顔は兄が妹に向けるように和らい表情だった。
「なにそれ」
陸玖はふふっと笑いがこみ上げてきた。
-まだお兄が無事とも限らない、ただ自分が寝ている間に六花のことだから総力を使って行方を掴んでくれたんだろう。
それなのに初めから疑って暴れて傷つけようとして…本当に情けない。少し自分が嫌になった。家族のことになると気持ちが抑えられない
『陸玖、大丈夫だ。兄ちゃんが来た』
そう言って笑った゛兄様゛の顔が今でも忘れられない。私はお兄まで失うわけにはいかない…
だってお兄は‘‘兄様‘‘の…


