「陸玖ちゃんの様子は?」

先程の一件があり陸玖を心配した琉伽は弦里を呼んで陸玖の様子を見てもらっていた。

「…まだ俺の血が消滅してないから、血の効果で意識を失っただけだよ」
「そっか…」

何か言いたげな琉伽の顔を弦里が心配そうに覗く。その視線に気づいた琉伽は言葉を紡ぐ。

「…あのさ、陸玖ちゃんの兄貴って海偉だけだよね?」
「ん?どういう意味?」
「ぁ、いや、」

一瞬見えた幼い陸玖に背を向けた男の姿。

「『加賀美家』には長男がいた」

声のする方をみると

「御影…」
「それってどういう…」
「…10年前、ひとりの吸血種が吸血衝動にかられ人間に襲いかかた、その人間は失血死で亡くなってる」
「10年前?そんな記録は…」
「…消されている」
「………」

吸血種が起こした事件が何故消される?
チラッと弦里をみるが弦里も知らないといった表情だった。

「その失血死でなくなったのが当時17歳だった『加賀美家』長男、加賀美 空羅」
「はっ?」
「えっ?」
「海偉と陸玖の兄だ」

ふたりは驚きを隠せなかった。

「一番初めに襲われたのは当時6歳だった加賀美陸玖、そこに駆け付けたのが加賀美の両親と長男だった、両親は長男を残して陸玖と海偉の安全の確保を優先、そしてふたりが駆け付けた時には腹を満たした吸血種と失血死した長男の姿」
「…そんな、こと」
「ただの憶測だけど、その時の出来事と今回の出来事が混同しているんだろう。だから余計に陸玖は焦ってる」
「………」

言葉が出なかった。

-そんなことがあったなんて…。

それなのに俺達と関わるハンターを続けていたなんて…。

「海偉の居場所は分かったのか?」
「…まだ、今庵が【学園】の周りの音を拾ってるけどそれらしい音は発見されてない。」

御影は有力な情報がまだ掴めていない事に少し焦っている様子だった。

「…一体誰が…」
「…海偉は【リデルガ】に行くって言ってたんだ…」

琉伽は何かを思い出したように呟く。
陸玖の記憶を見た時に確かにそう言っていた。
海偉は【リデルガ】に来る時は【学園】に繋がる地下通路を使ってくる。そこからしか行き来出来ないからだ。

「…御影、地下通路だ」

琉伽と御影と弦里の三人は【学園】と【リアゾン】を繋ぐ地下通路に向かった。
ハンターの一族だけがここを通れるように細工してある。
琉伽はふぅーっと息を吐くと手を床に付ける。
そして一気に能力を解放した。
琉伽の能力は記憶を覗き見、必要に応じて削除出来る。この能力は人にも有効だが物体にも有効だ。家具や服、その他建物など物体にも記憶が宿る。
琉伽の頭に流れる映像…確かに海偉がこの通路を通って【リデルガ】へと足を踏み入れたのは確かだった。

「…見えた?」

御影の言葉に頷く。

「この通路は問題なく通って行ったみたいだ。」
「…じゃあ、もうちょっと先で何かあったのか…」

弦里は考える。

「とりあえず、地下通路を出たところまで行ってみよう」

地下通路を抜けて外へ続く階段を上ると森が広がる。【学園】の裏にある大きな森だ。
その森は迷いの能力がかけられており、六花とハンターの一族以外は地下通路へは絶対にたどり着けない使用になっている。
琉伽はその辺でもう一度能力を解放する。
【学園】へと向かうため森を歩く海偉の姿。
おかしな行動は無い…がその時…。
急に何者かに突撃され飛ばされる海偉。
そしてもうひとり何者かが現れ海偉を連れ三人で消えてしまった。

「………っ」
「…琉伽?」

自分で見た記憶を信じられず身体が固まる琉伽。

「…御影、」

琉伽は震えそうな声で一言放つ。

「…海偉を攫ったのは能力者だ」

琉伽のその言葉に御影も弦里も意味が分からなかった。能力者…?能力が使えるのは純血と純血に近い六花のみだ。
それ以外の吸血種は能力なんてそもそも持っていない。そこで御影は思い出した。

「…没落(ぼつらく)…」

その言葉に琉伽は頷いた。

「でも、没落した元貴族がなんで海偉を?」

弦里の言葉に御影も琉伽も悩ましい顔をする。

-それが分かれば苦労なんてしない…。

御影は心の中で呟く。

-この手法は使いたくなかったが…

御影は携帯を取り出しどこかに連絡する。

「…(はと)、聞きたい事がある」