そして夕刻。
陸玖は言った通り、学校帰りにスーパーにより食材を買って帰宅した。
ガチャ
「ただいまー」
誰もいないと分かっている家に挨拶をし、リビングのキッチンへと荷物を持って向かう。
-お兄まだ帰ってきてないな、今のうちにご飯の用意しよ。
そう思ってテキパキと料理の準備をする。
手馴れた動作で作られていく料理、準備するのにそう時間はかからなかった。
机に並べられたカレーにサラダ。
陸玖はダイニングテーブルの椅子に座り海偉の帰りを待つ。
だが、一向に帰ってくる気配がない。
時刻はもう20時にさしかかろうとしていた。
「…遅い…」
海偉の携帯に連絡をしても返事もなければ、着信にと出ない。なんだか胸騒ぎがする。
そして朝、海偉が言っていた事を思い出す。
『あ、後俺今日【リデルガ】行くから帰り遅くなるかも』
「…【リデルガ】」
陸玖は呟くと席を立ち【リデルガ】へと向かおうと玄関へと向かう。
ブーブーっ
その時、陸玖の手に握れていた携帯が鳴る。
-お兄…?
急いで携帯に届いたメッセージを確認する。
そこに届いたメッセージを見て陸玖は急いで家を飛び出した。
「はぁ…雨だね~」
窓の外は雨が降っていた。
少しずつ大降りになってくる。
翼と真理愛は六花専用室の奥の部屋でふたりで勉強していた。
「雨の日ってなんかやる気でないよね」
真理愛は勉強をそっちのけで窓の外をぼーっと眺める。翼も窓の外が気になり二人して雨を眺めていた。
バンッっっっ
その時隣の部屋から大きな爆発音がする。
一枚の扉で区切られた六花専用室の応接間から…。
「え…っ何?今の音…」
真理愛と顔を合わせる翼。
隣の部屋には御影と愁がいるはずだ…。
パリーンッッっ
続いてガラスが割れるような音。
「ぇ…なに…」
翼は立ち上がり応接間へと続く扉へと近づく。
「待って翼ちゃん、私が先に行く」
「…ぅん」
真理愛に続いてそーっと扉を覗く。
「どこやったんだよっっっ!?」
「ちょっ落ち着けって」
「どーせっお前らだろっ!?早く居場所教えねーと殺すぞ?」
「いや本当に落ち着けよ、お前びしょ濡れだし…」
応接間ではびしょ濡れの陸玖と愁が言い合っていた。陸玖は拳銃を御影に向け怒りを爆発していた。
「ちょっと、陸玖ちゃん…?どうしたの…?そんな濡れてたら風邪ひいちゃうよ…」
銃を向けられても顔色ひとつ変えない御影。
「うるせんだよ…早くお兄を返して…」
「はっ?海偉?海偉がどうしたんだよ」
「…もうさ、そういうのいいから…早くお兄出せっっつってんだよ!!!!!!」
ドガンっっ
その瞬間、引き金は引かれ御影に向かって解き放たれた。
「ふがっ、離せええ!あああ!」
どこからとも無く現れた壱夜によって陸玖は羽交い締めにされる。
「どーなってんだ?これ」
「壱夜!」
放たれた弾丸は御影の数センチ横の壁を貫いていた。
「大丈夫か、御影」
愁は御影に声をかける。
頷く御影は立ち上がり、陸玖に近づく。
「離せよっ!」
「離すかっての、うちのトップに銃ぶっ放つやつを離すバカいるか!」
「本当にどうした?陸玖」
いつもと違う陸玖の様子に少し心配そうに愁は羽交い締めにされている陸玖の顔を除く。
「あぁぁぁ!許さない許さないっ!!っ殺してやる殺してやる、絶対にっ」
「陸玖…」
壱夜に抑えられながらも暴れるのを辞めない陸玖、明らかに様子がおかしい…。
その様子を冷静にジッと見つめる御影。
「なんの音!?大丈夫か!?」
「……」
すると六花専用室に弦里と庵が現れる。
「大丈夫大丈夫~てか弦里さ、陸玖にあれやってくれる?俺もう抑えるの疲れたんだけど」
「はぁあ?なに?どうした、こんな暴れて…」
「…………」
弦里はチラッと御影を見た。
無表情の御影は弦里と視線を合わせるだけで言葉は発しない。
「あぁ~もう、いいんだな御影」
「……あぁ」
「…あぁ~俺あんまりこういうのやりたくなんだけどな…」
そういって弦里は自分の手首をスパッと切り血を流した。
「お前っ!絶対飲まねーからなっ!」
そういって口を閉ざす陸玖。
「…はぁ。もう…めんどくせー…」
弦里はボソッと呟いて陸玖の顎を掴み引き寄せ手首の切り傷から自身の血を舐め取り…
そしてー…
「ごめんね、陸玖ちゃん」
「はぁ…やめっ」
「…ちゅっ…」
「、ごくん」
唐突に陸玖にキスをした弦里は口移しで自身の血を飲ませた。
ガクんっ
陸玖は眠るように意識がなくなり全身の力が抜ける。
「おっとっ」
それを壱夜が抱きかかえる。
「ほんと弦里の能力はすげーな」
「すごくないよ、別に」
翼はその光景に頭が混乱していた。
「弦里の血は特別でね。弦里の血を飲むと意識無くなったり、死んじゃったりするの」
「死…!?」
「飲み過ぎたらね?今は弦里の加減で陸玖ちゃんは意識失っただけ」
「…凄い…」
「弦里の血は毒なの、だから絶対弦里の血は触ったり飲んじゃだめだよ?」
そういって真理愛は陸玖を見つめる。壱夜の腕の中で意識を失う陸玖を。
すると翼は人の気配がして振り返る。
そこには琉伽の姿があった。陸玖の様子に気が取られ琉伽が専用室に入ってきた事に気づいていなかった。
「琉伽…」
御影が名前を呼ぶと静かに頷く琉伽。
琉伽はそっと陸玖の額にに触れる。
ふわっと光る暖かい光…琉伽の表情は険しくなる。
「………」
「何が見えた?」
壱夜の問に全員が固唾を飲む。
「…海偉が消えた」
「海偉が!?」
「…携帯」
琉伽は呟くと陸玖の制服のカーディガンに触れる。ポケットには携帯が入っていた。
その携帯を手に取り記憶の中から読み取ったパスワードを入れロックを解除する。
「…海偉」
「何だよ、これ」
そこには1枚の写真が海偉本人から送られていた。両手を後ろで縛られ椅子に座る海偉。意識がなくダランとした様子。明らかに何者かに攫われたのが分かる。
「…どうしよう…」
その写真を見て、真理愛の目には涙が浮かぶ。
「…助けなきゃ、御影」
真理愛の震える声はその場にいた全員の不安を煽った。


