町に行って2日後の天気の良い昼下がり。空は青く、鳥は優雅に鳴いていて日の光は心地良い。
そんな‘‘何もない‘‘日。翼はベットに転がっていた。

「…はぁ…」

誰もいない部屋でため息をつく。
ひとりでは大きすぎるベットの上を翼はごろごろ~端にいってはごろごろ~、往復を繰り返す。
ベット脇の棚に食べず飾っている飴細工を窓から入る光に掲げる。すると光を吸収してキラキラと光る。

「…綺麗」

その光をぼーっと眺めては、真っ白な天井に目をやる。
なぜ翼がこんな真っ昼間からベットの上にいるかというと…。

【二日前】

『あら、これは濃吸症(こうきゅうしょう)ね』
『こう…きゅう、症?』

翼は聞きなれない言葉を復唱する。

『…ははっ』

隣にいた御影は急に笑い出す。
翼の診察に来てくれた【学園】専属の保健医である諸矢(もろや) 紫呉(しぐれ)は御影の笑顔をみて少し微笑んだ。
何故御影が笑ったのか考えていると…。

『翼さん、これは一種の風邪みたいな症状なんだけどね』

紫呉が話し出しても御影は笑うのをやめないというより辞めれない様子。

『…ふふっ、この風邪はね、実は、ふっふ、』

笑いがおさまらない御影をみて紫呉は続きを話す。

『子どもがなる風邪なの』
『…子ども…』
『吸血行為を覚えた子どもが他人の血を身体に入れることで一定値血は濃くなるの、血を飲み始めれば身体は慣れていくんだけれどまだ慣れてない子どもはよく熱をだすのよ、吸血種として身体が作り変えられている、つまり成長している証みたいなものなんだけど…』
『もしかしてとは思っていたけど、濃吸症はまだだったんだね』

そういうこと…だから御影は笑っていたのかと納得する。

-つまり私は子どもということ…。

御影の笑顔を思い出し少しイラっとする翼。
こっちに来るまで血は飲んでいなかったのだ。
ここにきて御影の血を飲むようになった。
だから身体が血に慣れていないのは当たり前…

『あはは』

それなのに、御影はまだ笑っている。
イライラは収まらずとして翼はむすっとした顔をする。

『大丈夫よ、翼さん誰でも濃吸症になるものなんだから、逆に言えばならないといけないものなの…ってちょっと御影くん笑いすぎ』
『いや、うん…ひひっごめっ』

お腹を抱えて笑う御影に翼の顔はよりむすっとする。

『…もう、御影くんったら…』

紫呉は御影に飽きれた視線を送る。

『翼さん、数日熱が出ると思うんだけど沢山血を飲んでね?』
『…飲んで、いいんですか?』
『うん、これは身体が血に慣れるための成長だから飲むことが薬かな?』

そういって笑う紫呉。
紫呉は鎖骨くらいまでの落ち着いた茶髪で20代半ばくらい。いつもは同年代に囲まれているため紫呉のような落ち着いた雰囲気の綺麗なお姉さんは翼にとって物凄く大人に見えた。


そして、あれから二日。
熱は下がったが、高かったせいかまだ身体が怠く重い。

コンコン

扉のノックする音と共に少し空いた扉の隙間から御影が顔を出す。

「熱どう?」

御影は飲み物や食べ物、色々と持ってきてくれた。翼のベットの横でこれはあーだ、こーだと持ってきてくれたものの説明をする。
翼は御影の言葉なんて一ミリも耳には入ってこない。ただ今翼が夢中になって見ているのは、御影の首筋だ。

-美味しそう…

ただその思考だけだった。

「…聞いてる?翼」

御影が翼に顔を近づけると、翼はグイッと御影の首に手をかけそのままガブッと噛んだ。

「…っ!」

その一瞬の痛みに耐え、御影はため息を着く。

-またこの子は急に…

基本、翼は噛みたい欲求に素直だ。
今は濃吸症にかかっているせいかいつもよりもすぐ噛んでくる。まあこれも身体が慣れれば回数も少なくなっていくのは目に見えている。
今だけ…。御影は濃吸症が治るまで大人しく噛まれる事にした。