「あああぁー食いすぎたーてか買いすぎたー」
町はずれの河川敷。川の流れの音が心地いい。その場所は愁のお気に入りだった。こうやってひとりで町を訪れた時にゴロンと寝転がって目を瞑って太陽と川の自然に触れる。このひとときが最高の時間だった。
-あぁ~寝そう~。
ガサガサっ
ーんっ?
ガサっ
ーんっ?何の音だ?
愁は異変に気づき目を開けた。
するとそこには愁の買い物袋を漁る子どもの姿。
「…お前、さっきの」
「!!」
子どもは愁と目が合うなり食料を抱え一目散に逃げていく。
「ちょっ、おい!」
逃げていく子どもの首根っこを掴み持ち上げる。
「おい、何してんだガキ」
「離せっ!離せよう!」
「暴れんなって、別に取って食おうなんて思っちゃねーよ」
「やだっ!離せ!離せえええ!!」
「おまっ暴れんなって!!!」
「うわあああ!!」
「ちょっと!!!うちの弟に何をしているんですか!離してください!!!!」
「はっ…」
-これまたさっきの…
「おねえちゃん…」
大人しくなった香月。
愁はパッと手を離すと香月は姉の元へも行かずその場に立ち尽くしている。
「香月!大丈夫?って…これ」
香月が抱えている食料を見て姉は愁の顔と香月の顔を往復して自体の把握をする。
「…また、盗もうと…したの?」
「………」
「香月!!!!」
香月の両肩を掴んで身体を揺らす姉。
愁は咄嗟に姉の腕を掴んでいた。
「俺が言うのも変だけどその辺でいいんじゃない?」
「……っ、ごめんなさい、私…本当にすみません…」
姉の顔は顔面蒼白。
見るからに二人の身なりは下層の住人って感じだった。
-腹でも空いているんだろう。
すると、ぽろぽろと香月の瞳から涙が流れる。
「…だって…だって…」
「…香月?」
「父さんが死んでから十分に食べてねーじゃんっっ!!!」
「…香月…ごめんね、ねえさんもっと頑張って沢山ご飯食べれるように…」
「違うっ!!!!違うよ!!ねえちゃんだよ!!!」
「…………」
「働いてばっかなのにご飯は俺にばっかくれる、仕事場で食べてるっていうけどあれ全部嘘だろっ!!!食べてねーの知ってるよっっ!!!!」
「……香月…」
「これじゃ、ねえちゃんも死んじゃっう…やだ、やだよ…だからっ」
香月は濡れた瞳で愁を睨みつける。
「くれよおおおお!!」
「いって」
愁にぽかぽかと殴り掛かる。
「にいちゃん下層の恰好してるけど本当は金持ちなんだろ!?見たらわかるよおお!少しくらい俺らに食料分けてくれよおおおおお!!!!ああああああ!!!」
その場で泣き崩れる香月。
-あぁ…俺はこういうのが苦手なんだよ。
「香月、香月。ごめんね、ありがとう。ごめんね」
姉は香月をぎゅっと抱きしめる。
愁はその光景みてなんだかいたたまれない感情になった。頭をガシガシとかき、空を見上げもう一度香月に向き直る。
「あぁ、もう!ほら、好きなだけもってけ」
「……ぇ、いやそんなのダメです、私たち本当にお金なくて…」
「本当か!?本当にいいの!?」
「あぁ、いいよ。その代わり」
その言葉を発した瞬間香月は愁を警戒する。
「姉さんを二度と泣かせんな」
「ぇ…」
予想外の言葉にきょとんとするふたり。
「姉さんはお前を守ろうと必死だ、その頑張りを盗みなんかで困らせんな、分かったか?」
愁は香月の目線に合わせしゃがみ込む。
「男ならな卑怯な真似なんてせず、姉さんを守れ。守ってやれ。なっ?」
そういって笑うと香月は大きく頷いた。
「良い子だ」
「あの、本当にいいんでしょうか…」
「いいよ、別に」
「でも…」
「別に後から請求したり姑息な真似なんてしねーから、じゃあな」
愁は背をふたりに向けて歩き出す。
「お兄ちゃんー!!ありがとうおおおお!!」
後ろで香月大声でお礼を言っていて愁は少しおかしくなった。まだ自分も独り立ち前のひよっこだ。なのにいっちょ前の事を言っている自分がおかしかった。
-子どもの前でカッコつけたがりの馬鹿だな。
「へえ~こんな一面があったとは」
「おわっ!!」
建物の角から現れた人物は愁に声をかける。
「御影!翼まで!なんでここに…」
「変装までして…」
「それは別にいいだろ…」
「あのふたりは?」
「さあな、知らねーよ」
「…………」
さっきまで愁と話していたふたりは買い物袋を持って帰っていった。
「愁…あの女の人…」
「ぁ?女?なんだよ」
愁の顔を見ると何がいいたんだ?とでもいうような顔をする。
「ぁ、いやなんでもないよ」
「そっ、なあ翼!翼!この先の通りに美味しいパン屋があるんだ!行かね~?俺奢るぜ!って何それ、飴細工?」
「うん、薔薇」
「めっちゃ綺麗じゃーん」
愁と翼はパン屋に向かって歩き始める。
御影は何か分からない違和感を胸にしまった。
-あの女の人…
「おーい!御影ー!行くぞー!」
「うん」


