「っっっは」

御影は飛び起きる。
目が覚めるとそこは自身の部屋だった。

「…夢…」

どこか懐かしくて暖かい、居心地のいい夢。
最近こう言った夢を見ることが多くなった。
誰なのか顔は分からない。ただその夢は俺にとってすごく居心地のいい夢…。

「…はあ…」

ため息をついて、配布される血液パックを血液保管専用の棚から取り、ストローを刺す。

「ごっく、ごくっ」

勢いよく喉を潤す。

「…まっず」

国から定期的に配布される血液パック。
【リアゾン】の人間種から採取した血液を薄め、量を増やし栄養素を取り入れるだけに重きを置いたもの。この血液がなければ吸血種達は健康に生きていく事が出来ない。お互いの国が信頼し合っているからこそできる事だった。
御影はソファーに項垂れながら、血液を飲む。

そもそも吸血行為は栄養を補給するために必要な事に変わりはないが、この吸血種の中には喉の乾きを癒すために誰彼構わず、人を噛んで血を飲みたいという欲求がある者も少なからずいる。そういう奴らは厄介だ。そのうち【リデルガ】と【リアゾン】の均衡を壊そうとする奴が現れてもおかしくない。そして御影のように血液パックで十分に欲求を満たすことが出来る者もいるのは確かだ。

人間種は噛めない。だからその欲求を満たすために吸血種同士で、吸血行為を行うものもいる。そう言った奴らが自分を噛んでほしいと六花に言い寄ってくる変わり者もいる。

御影はそんな女共の首元に噛むと考えるだけで悪寒がする。
誰かを噛みたいなんてまだ一度も思った事がなかった。


-コンコン

その時扉がノックされた。
ふと時計をみると夜中の3時を回っている。

-誰がこんな夜中に?

御影はそっと警戒して扉を開ける。

「…翼」

そこには不安げに佇む翼の姿があった。

「…夜中にごめんなさい」
「どうしたの?」

こんな夜中に来ることも翼から御影の部屋に来ることも今までなかった。

「ぁの、変な夢を見て…」
「変な夢?」
「……ごめんなさい、やっぱり」

そういって帰ろうとする翼を引き留める。

「部屋入る?」

そう聞くと俯きがちに頷いた翼は少し顔色が悪い。

「夢、見たの?」
「…………」

そう聞くとどんどん顔色が悪くなる翼は手は震え、下唇を噛む。

-相当の悪夢だったのか…

御影は翼の手を引いて、ベットに潜る。

「ほら、翼も」

そういうと躊躇しながらも素直にベットに入ってくる。案外素直なもんだなと御影は思う。抵抗するかと思った。

「さっき俺も変な夢見たんだ」
「………」
「居心地がよくて暖かい夢、でもなんだか苦しくて」
「………」
「よく分からないんだ」
「……………」
「翼はどんな夢だったの?」

そう聞くとぎゅっと拳をつくる翼。
その姿を見て、それ以上は聞かない方がいいなと感じた。

「まあ、いいよ。今日はもう寝よう」

お互いに少しの距離感を作って…。

「…御影」
「ん?なあに?」
「…ううん、なんでも…ない」
「…うん、おやすみ翼」

そして瞼を閉じた。