「大丈夫か?」
「御影!みんな!」
六花専用室に入ると慌てた顔をした琉伽が近づいてくる。あの後【学園】内を見回ったが子ども一人おらず、廊下や色々な場所で灰になった子どもの残骸だけが残っていた。
「お前たちこそ…」
「この通りみんな無事だよ」
「無事だからいいんだけどさ~あの子どもは何だったわけ~?」
陸玖が聞いてくる。
「陸玖…その話は後で」
「お兄…」
「俺達は【リアゾン】に戻るぞ」
海偉は陸玖の手を引く。
「ちょ、お兄」
そしてふたりはそのまま【リアゾン】に戻って行った。
「御影…」
不安そうに庵が御影の名前を呼ぶ。
「…とりあえず今日はこの後、暗血線が動くと思う」
「うん…かぐや行くぞ」
「あ。はい」
「なにかあったら言ってくれ」
「あぁ」
「真理愛もおいで」
「うん」
「じゃあ、御影。何かあったらいつでも呼んで」
壱夜の言葉に頷く。
「じゃあ、俺らも行くわ」
「なんかあったら言えよ」
愁と弦里げも順番に六花専用室を出ていった。
「御影…」
琉伽は最後まで残り心配そうな顔で御影を見る。
「大丈夫…ごめん。判断を間違えた」
「何言って…上のやつらの失態だ、御影が謝ることじゃ」
「いいや、もっと早くに皆に伝えていればよかった」
「御影…」
「琉伽も帰った方がいい、身体に障る」
「……………」
琉伽は何かを言いたげだったが、思いとどまり帰っていった。六花専用室にはふたりきりとなった。
「翼、ごめん。怖い思いさせて」
翼は必死に首を横に振る。
ソファーに座った御影が手招きして、翼の手を引く。
「今日は、楽しんでほしかったのにな…」
なんだかいつもより御影が小さく見えた。
翼は無意識に御影の頭にそっと触れていた。
小さい子どもをあやすように…。
「………なんか、昔…誰かにこんなようにしてもらった…よう、な」
御影は翼の手首を掴む。
「…あれ、誰だっけ…」
「…御影?」
「あ、ごめん。なんでもない。俺達も帰ろうか」
そういって、戸惑いを隠すように笑顔を作る
その様子が少し痛々しかった。このまま本当に帰っていいのかと少し疑問に思っていると…。
コンコン…ガチャ
「到着が遅れました。【暗血線あんけつせん】の鴈かりと申します、ここからは我々が調査致します」
「はい。よろしくお願いします」
御影はスッと立ち上がり翼の手を引き、鴈の横を横切った。
「紫檀様からご伝言です。『この件には首を突っ込むな』とのことです」
「…ちっ」
御影は静かに舌打ちして止まることなく進んでいく。その後ろ姿が少し怖かった。
車に乗り込んだ翼はさっきの人の事が気になっていた。
「ぁの、さっきの人は…」
「今のは【暗血線】といってまあ、【リアゾン】でいう警察みたいなもんかな」
「警察…」
真っ黒な服に身を包んで顔も目しか見えていなかった。あの後御影みかげと廊下を歩いていると、複数の【暗血線】が灰を調べていた所だった。翼が一緒に連れていこうとした子も灰になって消えていた。
-子どもが大人を襲う…
よく分からない吸血種の世界。
これがどれほど異常な出来事か翼には御影達の戸惑いでしかあの異様さを感じとれなかった。
「…御影」
「ん?」
「…紫檀様って?」
翼の顔を覗き込むようにして目を見ていた御影は目を伏せて、一言ボソッと言った。
「俺の母親」
その様子をみて、御影にとって母親は翼にとっての母親と同じ存在なのかもしれないと悟った。
私が【リデルガ】に来て三ヶ月。
もう三ヶ月…たった三ヶ月
これからなにが起こるんだろう、先の見えない不安、なんだか翼は嫌な予感がした。


