通い慣れた通学路。
いつもの何ら変わりない風景をただ眺め学校へと向かう。
変わらないこの光景が(つばさ)にとったら何にも変え難い大切なものだった。
もう(つばさ)には時間が無いからだ。

-あと少し…あと少しで…。

(つばさ)は噛み締めるようにこの時を目に焼き付けた。


学校に着き、教室へと向かう。
すれ違うのは女子生徒のみ。
ここは女子校だ。先生も生徒も全て皆女だけ。

教室へ入ると(つばさ)を捕らえたのは大きなクリクリの瞳。
その瞳は(つばさ)を視界に入れた途端花が咲いたような笑みを翼つばさに向ける。

「おはよう、(つばさ)ちゃん」

ふわふわの細いロングの髪に真っ白な肌。
淡いピンクの頬を赤らめ子猫のような可愛らしい声で名前を呼ぶ。
その姿に(つばさ)も無意識に顔がほころぶ。

「おはよう、凜々」

凜々の隣が(つばさ)の席だ。
机にカバンを置き、椅子に腰をかける(つばさ)
凜々を見るとモジモジと何か言いたそうな顔で、(つばさ)と目が合うと自身のカバンの中をゴソゴソと探る。
そして手に持って出したのは可愛いリボンにラッピングされた袋。

「ねえねえ、(つばさ)ちゃん。昨日ねクッキー焼いたの、貰ってくれる?」

恥ずかしそうに言う凜々に笑って(つばさ)はそれを受け取った。

「ありがとう、食べていい?」

頷く凜々。
(つばさ)はその場でラッピングを解き、美味しそうな手作りクッキーの匂いが鼻をかすめ食欲が湧く。
サクッといい音と共に口に広がる甘い味。

「美味しい、とっても美味しいよ。ありがとう」

そう告げると凜々はまた笑った。
凜々は(つばさ)にとって唯一の友達だった。
人との交流を避けている(つばさ)だが、何故か凜々は違った。
一緒にいると心地が良くて何でもない凜々の話を聞いて笑いあっている時が1番楽しかった。
ただ許される残りの時間を凜々との思い出で飾ろう。
一日一日を噛み締めて今日も学校生活を送っていた。細心の注意を払って…。

朝礼まで時間たわいもない話を凜々としているとバンッと教室の扉が開いた。
そこから慌ただしく担任の先生が入ってくる。
まだ朝礼にしては早すぎる彼女の登場に生徒たちは不思議に思いジッと彼女に視線を向ける。

「皆さん、座って頂けますか?少し早いですが朝礼を始めます。」

何となく慌てている担任の姿に生徒達も不安に思い従った。
彼女は教室中を見渡し、全員が座ったのを確認して一言教室の扉に向けて言葉を発した。

「…どうぞ、お入り下さい」