「きゃはっはっは」
「あははっは」

音楽に紛れて甲高い子どもの声が聞こえる。
御影はなんだか胸騒ぎがし、踊りながら翼を抱き寄せた。

-子ども?舞踏会に子どもなんて…

壱夜いも何かを感じ取ったのか真理愛を抱き寄せてその場に立って大広間を警戒していた。

「きゃああああああ」

すると大広間の扉付近から女性の悲鳴が聞こえる。その瞬間そこにいた人々は逃げ、悲鳴を上げた女性が視界に映る。
悲鳴を上げたであろう女性は尻餅を着き、何かを見て怯えている。

「じゅるるる…ごくっん」

その女性の目線の先には女性の首に嚙みつき血を吸っている少年の姿。

「…子ども…」
「御影!」

壱夜が名前を呼ぶ。

「翼は真理愛と一緒に、どこか安全な場所に!」
「翼ちゃん!こっち」

真理愛が翼に手を伸ばす。
その手を翼は掴み、二人で走っていく。
御影は真理愛に『任せた』とアイコンタクトをして、壱夜と襲われている女性に目を向ける。

「なんだよ、これ」
「………」

その場にいた全員がおかしいと思ったのはこの子どもが発する気配だった。
吸血種でも、人間種とも違う…。
その奇妙な気配と躊躇のない吸血行為。
吸血種は吸血行為をする際、相手を殺さないよう無意識に一定値を超えないよう制御する傾向にある。それは無意識化で行っているもので小さな子どもでも同様…。
だがこの子どもはそれがぶっ壊れている。相手が死のうが関係ない。

「じゅるるる…」

飲み続ける子ども…。

そして

「…全部飲みやがった。」

産まれて初めて吸血種が血を飲み干した所を目撃した。

「「きゃああああああ」」

大広間は大混乱、逃げ惑う人々で溢れ返った。

「きゃっは」

子どもはニタぁと笑う。

「御影、普通じゃないぜ、この子」
「ああ、そうだな」

-ひとりだけなら何とか…

「あはっ、ふふっ」
「ずっと笑ってやがる」
「………」

その子どもはユラユラと上半身を揺らして立つ。一体何が起きてるというのか…。
悲鳴と逃げ惑う人々の群れ。

「真理愛ちゃ…」
「……」
「真理愛ちゃん!」

翼の手を引いて走る真理愛。

「ぁ、ごめん、翼ちゃん」
「ううん、あの…」
「…大丈夫、今何が起こっているから分からないけど、安全な場所に避難しよう、きっと御影たちが…」
「…真理愛ちゃん」

真理愛の震える手を握る。

「きゃああああああ」
「「!?」」

大広間から大勢の悲鳴が聞こえる。
そして大広間から逃げ惑う人々が廊下に流れこんできた。

「翼ちゃん私たちも…」

再び走ろうと廊下の角を曲がる。
するとそこにはひとりの少女が立っていた。
ふらふらしている。

-逃げ遅れたのかな…

翼はその少女に駆け寄った。

「…大丈…」
「翼ちゃん!待って!その子!」
「…っぇ」

パッッッンン

大きな音と共に翼のめの前の少女は倒れる。
一瞬の出来事で何が起こったか分からなかった。

「…ふぅ」

廊下の先には拳銃を構えた陸玖と琉伽がいた。
少女は倒れたままピクリとも動かない。
翼が声をかけて振り返った少女の口周りは真っ赤に染まっていた。

「大丈夫~?二人とも~」
「陸玖ちゃん!」

その場にへたり込む翼に陸玖と琉伽が駆け寄ってくる。

「…死んだ…の?」
「死んでないよ、肩掠めただけ。吸血種に取ったらこんなのすぐ治るから~」

幼い少女が横たわる。
一瞬だけ見えた、大広間にいた子もこの子くらいの少年だった。子どもが吸血種を襲ってる?

-どうして…

「さっ、翼ちゃん立って。逃げるよ」

琉伽が翼を立たせる。

「でも…この子は?」

-こんな幼い子ひとりにしていいの?

「正体が分からないんじゃあ、一緒に連れていけない」
「でもっ!」
「翼ちゃん!この子ども何かが変だ。君に怪我があれば俺は御影にきっと殺されるね」

そう穏やかに笑う。

「ごめん、今のは冗談。だから今は俺のいう事を聞いて?」

琉伽の目から冷たさを感じた。

「どこに逃げる?」
「とりあえず六花専用室に行こう」
「分かった~」


陸玖は焦る気持ちを抑え周りの状況を確認する。小さな子どもがヴァンパイアを襲う。
あの少女の口回りにはベットリと血がついていた…ということは誰かの血を吸っている…
でもあんな小さな子どもが大人の力に勝てるのか…そんな疑問が頭をよぎる。

-なんで陸玖たちの代でこんな変なこと起こるの~今まで拳銃なんてお守りみたいなもんだったのに…初めて使ったわ

『俺と愁で大広間に行く、弦里は一般人の誘導、陸玖は琉伽と真理愛と翼を見つけて安全な場所に』

あの時の海偉の真剣な顔を陸玖は思い出す。

-あんな顔初めてみた…。

そして四人で専用室へと向かった。