-上手くいったかなあ…

庵のことだから深読みしすぎて勘違いしてる可能性のが高いと思うんだけど。
琉伽は大広間の二階を出て廊下を歩く。

「あっれ~ひとり~?」

久しぶりに聞く声が目の前の廊下の先から聞こえる。

「こないだ来た時居なかったし~てかやつれた?」

黒い長い髪を頭の上で一つに結び、ドレスに身を包んではいるがスリットの入ったスカートから覗く太ももには拳銃が仕込まれている。

「陸玖ちゃん、見張り?」
「うん~、吸血種共の監視ね~」

陸玖は琉伽に近っき仮面を付けた顔でジッと琉伽の顔を凝視する。

「なに?」
「ううん~べっつに~」

そういってクルッと回って琉伽から離れる。

「海偉は一緒じゃないの?」
「はぐれたんだよ~、お兄目を離すとすぐどっか行くんだあ~」

陸玖の話を聞いて、どっちかというと陸玖方が迷子な気がするが…と琉伽は思った。
きっと、今頃海偉は慌てているだろう。

「陸玖ちゃん」
「う~ん?」
「海偉が見つかるまで一緒にいようか。海偉もその方が安心でしょ」
「ん?う~ん、それもそ~か~。あんたはあの中なら一番害がないよね~」

-害って…

「ああ、まあ、そうかな」

肯定している自分がおかしくて琉伽は少し笑った。

「お兄何処かなあ~なんかいつもと違うからここが何処かわかんないんだけど、なんでこんなことすんの?いつもと同じでよくな~い?」

陸玖はいつも通りベラベラと喋る。
確かに今日はいつもの【学園】とは全く違う。舞踏会の為に色々と配置も変わっている。
すると前から小さな子供たち数人がパタパタとやって来てすれ違う。

「あんな小さい子もくるんだ~」
「…子ども?」

琉伽は疑問に思う。

今まであんな小さい子どもは参加したことがなかった。

-どこかの貴族の子ども?

「ん?」

すれ違った瞬間 陸玖と琉伽は違和感を感じた。

-この感じ…おかしい…

「ねえ…琉伽」
「これは…」
「…ダンピールって確認されてないんだよね~」
「うん」

-それじゃあ、あの子達は…

陸玖はその子供たちの後を追った。
そして気絶するようトンっと衝撃を与える。
バタバタっと子どもたちがその場に倒れ、仮面を剥がして素顔を確認する。

「陸玖ちゃん」
「この子達…」

仮面を持った手が震える。

-どういうこと?これは何だ?

「陸玖ー!!!」

すると廊下の先から陸玖を呼ぶ大きな声がする。

「お兄」

その後ろから男が二人着いてくる。

「あ!琉伽もいんじゃん」
「よかった、陸玖ちゃん。見つかって」
「愁、弦里も…」

その瞬間 海偉の雰囲気が変わったのが分かった。

「陸玖…それは?」

倒れている子どもに向かって言う。

「…わかんない、でも」

陸玖の手と唇が少し震えているのが分かった。

「人間の子ども…なんだと思う…けど、吸血種の気配も少し…」
「は?それって…」

愁が驚いた表情でいう。

「ダンピールってわけじゃ…ねーよなあ~?」

海偉の言葉に陸玖が頷く。

ダンピールは人間種と吸血種の間の子。
この子達の気配は人間、その中に少し吸血種の気配が混じっている。
ダンピールの翼と出会った時の気配とは全く別のもの…。

その場にいた全員が思った。
自分たちの知らないところで何かが起こっているということ。
【リデルガ】と【リアゾン】が平和を脅かされようとしているという事を…。