六花の薔薇



庵様を見つけた。今日は年に一回の舞踏会。
婚約者である庵様と踊れる日。
なのに…どうして…
少しでも綺麗と思ってほしくて、髪を切ったら
なんとまあ思った以上に短く切られてしまって
こんな変な髪型で庵様に会えるわけないでしょう!

-はああああ、どうしようどうしよう

「かぐや?」

かぐやに気づいた庵が近づいてくる。

-やっぱり無理…こんな私で会えない…

かぐやは来た廊下を振り返って走る。
そんな走って逃げれるはずもないのに…。
そしてすぐに手首を捕まえられる。

「…?」

でもすぐに掴んだ手首を離された。
違和感を感じて振り向くと、俯いている庵姿があった。

「…庵…様?」
「…やっぱり怖い…よな」
「…ぇ」
「…解消してもいい…から」

-ちょ、ちょっと待って!何かもの凄い勘違いしてないですか?
きっと今、庵様は私に気を使って能力をコントロールしているに違いない!
だから私の心の声も聞こえていない!

かぐやは近づいて、庵の手を握る。
かぐやは声には出さず、仮面から覗く彼の目を見つめる。

『何か勘違いしてますか?』

そう心で呟いた。

「…え?」

『私が会いたくないって言ったからですか?』

「……」

庵の顔が明らかに暗くなる。

-ああ、私って本当にバカ。

彼のトラウマはまだ癒えてなんていないのに…
髪型が変になって会いたくない…なんて。

「ごめんなさい。会いたくないって言ったのは、あの…その…か、髪型…変になってしまって…だから」
「それ…だけ?」

庵はポカーンと拍子抜けた顔をした。

「それだけてっ!乙女にとったら大問題です!好きな人の前では少しでも…ひゃ」

気づいたらかぐやは庵の胸の中にいた。

「…よかった…怖くなったかと」

ぎゅうっと抱きしめる力が強くなる。
かぐやは庵の頬に手を添える。

「今更何を言ってるんですか?私が庵様を離すわけなんてあるはずがないでしょう?」

仮面から覗く瞳が少し色を帯びたようにみえた。優しく重なる唇、短い触れるだけのキス。

-ああ、私って本当にバカ…