豪華な装飾に賑わう人々。
今日の【学園】はいつもと全く違う雰囲気で
ここが【学園】だなんて信じられない。
天井には大きなシャンデリアが一際目立っている。大広間には数多くのテーブルに彩られた豪華な食事が並んでいる。その中にはグラスに入った赤い飲み物も用意されており、きっと血だろうと予想はついた。色んな年代の吸血種たちが賑わう光景は翼にとって少し異様だった。

「翼ちゃん、私から離れないでね」

真理愛にそう言われウエイトレスから飲み物をもらって、大広間の端のソファーに二人して座る。

「ふう…人多いでしょ~」
「うん、凄いね、こんな大勢の吸血種初めてみた」
「この辺は上流貴族の吸血種達が勢揃いだね~」

演奏者が音楽を演奏する中、ゆったりと男女が踊っていたり、自身の子どもを紹介していたり色々な光景が目の前で繰り広げられている。
【リアゾン】にいたら縁のない世界だったんだろう、こんな着飾ってここにいるのが不思議だと翼はしみじみ思う。

その瞬間視界が真っ暗になった。
でもそれは後ろから誰かが視界を遮っただけだとすぐに分かった。
後ろを向くと、そこには

「…御、」
「しっ」

彼の名前を呼ぼうとして唇に人差し指が添えられる。

「ここでは名前を呼ぶのはタブーなんだ」

綺麗な形の良いスーツに身を包んだ御影は目元は仮面をつけている。

「ドレス似合ってる。僕と踊ってくれますか?」
「…でも、私踊りは…」
「大丈夫、僕がリードします」

その優しい声にコクっと頷いた。
チラッと真理愛を見ると、彼女も誰かに手を引かれていた。きっと、壱夜だろうと後ろ姿で検討は着いた。その時音楽が変わった。
先ほどのよりゆったりな曲調に変わる。
御影に手を引かれ、腰に回された腕、そして思ったよりも顔が近い。翼は御影に身体を委ねて踊る。
御影のリードが上手で翼は自分が踊れている気になれた。
踊りながら御影と翼が踊っているのを横目で見る。

「真理愛」

耳元で名前を呼ばれる。

「ぁ、ごめっ」

仮面越しに壱夜が笑う。

「ははっ、まあいいけどこういう時くらい俺のこと見てくれたら嬉しいなあ~なんて」
「うん、ごめん」
「なんか謝られると惨めな気持ちになるなあ~」
「あ、いや、あの」
「嘘だよ、冗談。今日は一段と凄く綺麗」
「…ぁ、ありがとう」

壱夜の目が真っ直ぐで恥ずかしくて目を逸らす。
彼は割と恥ずかしい言葉をサラっという

「可愛い」

二度目の褒め言葉に私は恥ずかしくて拳を作って彼の腕をポカっと叩く。

「…もう」
「照れてる~ははっ」

笑う壱夜の顔をみて真理愛は少し安心した。









音楽に合わせて踊る人々を二階からぼーっと眺める。

「庵は行かないの?」
「行くわけないだろ」

ソファーに座る琉伽。庵は手すりに腕を置き、下を覗く。着飾った女性が男性と踊り、ぞして跡継ぎ候補や婿探しといったことに勢力を注いでる親共の姿が見える。

「ふーん、」

琉伽が座る隣に腰をかける。

「体調はどう?」

「まあまあ、かな…」
「…………そうか」

どことなく痩せた琉伽の身体。
気づいてないとでも思っているのだろうか。

「ねぇ、庵」
「ん?」
「早く仲直りしなよ、今日だって本当は一緒に来るんじゃなかったの?」
「…別に、喧嘩じゃない」
「……能力のこと?」
「………」
「まあ、庵の能力は近しいものに取ったら怖いよね」

庵の能力は心の声が聞こえること…確かに怖い…心の声が聞こえるなんて…。
誰しも心なんてものは覗かれたくなんてない。

「…琉伽は怖くないのか…?」
「怖くないよ、今更覗かれたってなんの問題もない。俺だって似たようなもんだし。というか小さい頃もこんな会話したような」
「…こほっ、忘れろよ」
「ははっ。本当に今更だよ」

琉伽の能力は他人の記憶を覗きみて削除することそして庵の能力は相手に触れずとも心の内で思ってることが声になって聞こえる、そして触れた相手に自分の思いを声に出さず伝えることもできる。
記憶と感情を読み取れる二人は小さな頃から一緒にいた。

「また不安になってるの?」

琉伽が真剣な顔をしていう。

「あの子の事だからきっと理由があると思うけど…」
「理由…」
「理由もなくあの子が庵を拒否するわけないでしょ」
「……………」
「いい加減信じたら?」

頭では分かってた。
分かってはいるけど、怖い。
彼女が庵に会ってくれない理由があるはずだ、そう思うけどその答えを聞くのが庵は怖かった。

『庵様、申し訳ございませんがお嬢さまが当分会いたくないと…』

数日前、婚約者であるかぐやの使用人はそう言った。彼女が庵のことを拒絶したことは今まで一度もな。

-今日だって本当は一緒に来るはずだったんだ…

「…ほら、来たよ」

琉伽はそう呟く。

カサっ

気配を感じ振り返ると、ドレスを着た女性が廊下の先に立っている分かった。だが陰で顔が見えない。

-かぐや…?

「じゃ、俺行くね」
「…ぇ」
「上手くやりなよ?」

そういって琉伽は行ってしまった。