【リデルガ】にきてもう三ヶ月が経っていた。
【学園】にも慣れ、御影達のこの世界での地位も翼は理解してきていた。
六花の六人は【リデルガ】を統治する次期後継者なので凄く忙しそう。
あれからヴァンパイアハンターである海偉も陸玖も【リデルガ】に姿を現さず、なんだか平凡な日々が続いていた。海偉が言う居なくなったという人は無事見つかったんだろうか…。

「おっはよー!!!!」

制服に着替えていると翼の部屋の扉が開き真理愛が綺麗なドレスで現れる。

「…おは…よ。」

翼は真理愛のあまりにも可愛い姿に思わず見惚れる。

「…え、ドレス?」

翼が聞くと、真理愛はむうっとほっぺを膨らます。

「今日だよ!!舞踏会!!御影のやろおお、今日って伝えてないのねえええ」

コンコン

部屋の扉がノックされ、使用人さんが入ってくる。

「翼様、おはようございます。御影様より承っておりました、ドレスでございます。」

使用人が抱えるドレスはシーブル。
ふわふわとレースを纏い、きらきらの刺繍がされ凄く綺麗。

「可愛いいい~!!御影のセンスいいじゃん!こんなセンスいいなんて思ってなかった!」

真理愛が興奮気味のいう。

「私共で着替えさせて頂いてもよろしいでしょうか。」
「…は、はい」

大きな全身鏡の前で数人の使用人が着替えさせてくれる。

「準備から大分時間空いちゃったもんね~、今日なんだ舞踏会」

真理愛が翼のベットに座り足をぶらぶらしながらいう。

「そうだったんだ、知らなかった」
「生徒だけじゃなく色んなヴァンパイアが集まるよ」

随分前に準備は終わっていたから、いつ開催されるんだろうって思っていたが今日だったとは知らなかった。
それで最近御影は凄く忙しそうだったのかと納得する。普段から御影は忙しい人で最近会えていない。夜遅くに帰って来て、朝早くに出ていく、そんな生活で話す機会なんて早々ない。
翼は全身鏡に映る自分を眺める。
そんな中こんな綺麗なドレス選んでくれたんだと思うと大変だったろうに…。

-サイズピッタリだし…なんかちょっと恥ずかしい…

「おお~!凄い似合ってる!綺麗だよ!翼ちゃん!」
「…ありがとう」
「翼様、これが仮面でございます」
「ありがとうございます。」

そういって差し出された仮面を受け取る。
目元を隠すように作られた仮面。これを付けて舞踏会に参加しなければいけない。

「仮面にもシーブルが入ってるんだね、ちゃんと考えられてる~ちょっと御影のこと見直したよ~」

真理愛は笑顔でうんうんと頷く。

「御影たちは朝早く出て行ったから私たちはゆっくり向かおう」
「うん」

そして二人で車に向かう。

「この舞踏会って具体的に何するの?」
「前にも言った通り身分関係なく楽しむものなんだけど最近は親同士が決めた結婚の挨拶の場に使ったり、婚約者探しや六花に取り入ったりしている人も多い印象かな。仮面付けてるけど結局雰囲気で身分分かっちゃうんだよね~。貴族階級と出会えるのは舞踏会しかないから皆必死なの。私は踊って美味しいご飯食べて適当に過ごしてる!」

-さすが、貴族って感じだ。

「真理愛ちゃん毎年、踊ってご飯食べてるの?」
「ふぐっ…そ~なんだよね~、私はもう結婚相手も決まってるし、舞踏会出る必要もないんだけど、やっぱり将来 六花の妻になるわけだし~親が必ず出席しろってうるさくて…」
「ちょっ、ちょっと待って」
「ん~?」
六花(ろっか)の妻って言った?」
「………」

翼は真理愛と目が合う。
くりくりの大きな目が、キョトンとしている。

「言ってなかったっけ?私の婚約者は壱夜なの」
「ええ!」
「翼ちゃんのそんな大きな声初めて聞いたあ~、あはは」
「でも…六花って、純血…」
「うん、そうだよ、真理愛と壱夜はいとこ同士なの」
「…………っ」

-なんか衝撃すぎて言葉がでない…

六花(ろっか)は純血を守るために一族間での婚姻を繰り返してるの」
「…そう…なんだ」
「気持ち悪いでしょ?」

真理愛が冷たい視線でいう。

「…………」
「【リアゾン】からしたら気持ち悪いと思う。海偉くんと陸玖ちゃんもきもちわりいって言ってたし!でもね、これが”こっち”では普通なの。守らなければならない決まりなんだよねえ~」

国が違えば常識も違うのだ。

「…ってことは真理愛まりあちゃんも六花なの?」
「ん~六花は六花なんだけど、私の家は分家、壱夜の家が本家。本家=六花なの!だから私は正式には六花ではない」
「なんか難しいね」
「そうなんだよ~、色々難しいの。小さい頃なんて理解出来なかったもん!」

そしてふたりで車に乗り込む。

「適当に踊って、美味しいもの食べてって感じでいいと思うよ」
「…うん」

そうして【学園】の舞踏会に向かった。