六花の薔薇



最近なんだか騒がしい。

【学園】内がいつもと違う。
真理愛と【学園】内の廊下を進んでは生徒たちが校内を装飾する姿を眺める。ここ一週間はずっとこんな感じ。豪華な装飾で校内が彩られていく。

「もうすぐ、舞踏会だからね~」
「…舞踏会?」
「年に一回、仮面を付けて踊ったり豪華な食事を食べたり、それはもう楽しい一日なのっ!」
「………」
「吸血種はね、家柄で階級が決まってて社会階級がはっきりしてるでしょ。だから舞踏会の日だけは身分を隠して平等に楽しみましょうって日!」

真理愛は翼の手をそっと取り手を繋ぐ。

「だから、一緒に楽しもうね」

真理愛は笑う、無邪気な可愛らしい笑顔で。

「ってことで楽しむにはまず準備ね!さあ、レッツゴー!!!」
「…ぇ、ちょっ、真理愛ちゃ…」

手を引かれ走りだす。向かったのは教室。
いつもの教室とは違って、教室中に装飾をしてみんな楽しそう。

「真理愛ちゃん、翼さん!」

教室には待ってましたといわんばかりにかぐなが待っていた。

「私たちは天井の装飾係です!はい、翼さんこれ持って!」
「天井…?」

翼は天井を見る。この【学園】の天井は凄く高い、【リアゾン】での建物よりそれはもう高い。掌にあるガラス造りのランプ、これをどこにどう装飾するというのだろう。

「じゃあ、かぐや行っくよー!!」

隣の真理愛がそのランプを天井に向かって投げる。

「!?」

その衝撃的な行動に心の中で慌てる翼を他所にふたりは普通に天井に向かって投げたランプを見る。するとかぐやは人差し指をそのランプに向けてくるっと円を描く。
重力によって落ちてくるであろうランプは落ちずにその場でふわふわと浮く。

「…え」

そしてかぐやはまた人差し指で下から上へと一直線に指を動かし、そのままランプを天井に付けた。

「私の能力は浮遊なんです」
「…浮遊」
「かぐやはねー、物でもなんでも浮かしちゃうんだ!」

真理愛はそういってランプを投げてはかぐやの能力でポンポン天井にランプを付けていく。

「…凄い」

その慣れた一連の動作が軽やかで随分慣れた様子だ。

「ふふっ、かぐや、かぐや」
「え、え~真理愛ちゃん」
「早く早く」

翼が天井に着いたランプを眺めていると、真理愛とかぐやはコソコソ話をしている。
翼を見てにやつく真理愛。

「ほ~ら~!」

真理愛はかぐやの背中を押す。

「わっ」

かぐやそのままバランスを崩して翼の肩に触れる。

ポワンっ~

その瞬間触れた肩が薄く黄色く光り、ゆっくり足元が床から離れる。

「え…?」

ふわ~

-う、浮いてる!?

「え、嘘。ちょっ…え?」
「慌ててる、慌ててる~!」
「あ~もう真理愛ちゃんのせいですよおお!」
「あははっ!どう~?翼ちゃん!かぐやは人でも浮かすことができるんだよ~」
「こ、これどうやって下りればいいの?わっ、あ、痛っ」

身体がふわふわして壁や色んなところにぶつかる。身体が上を向いたり下を向いたりコロコロ変わる。

「かぐや!私も!」
「はあ~もう…」

いやいや能力をかけるかぐや。

ふわ~

「浮くのにはちょっとこつがいるの!はい!手!」

翼は真理愛と手を繋いで浮くコツを教えてもらう。

「あ~、またやってる~」
「いいな、いいな私も!」
「皐月さ~ん、俺も~」

クラスの人達が気づいてかぐやに群がっていく。

「わわっ、順番です~」

かぐやは順番に触れていき、次々と宙に舞うクラスメイト達。皆宙を舞って、泳いだりアイススケートのように可憐に宙を滑ったりしている。

-皆慣れてる…。

「みなさーん、危険な飛び方は辞めて下さいね~」

下からかぐやが叫ぶ。
天井にはほとんどの生徒が飛び交い、それぞれ楽しそうに舞う。
賑やかに楽しそうに、みんな笑顔で…。
なんだか胸付近が暖かくなった気がした。
その風景を眺めているとパチッと真理愛と目が合う。

「楽しいね、翼ちゃん」
「うん」
「…笑った」

-翼さんが笑った。

笑った顔なんて今まで見たことがなくて。
凛として綺麗な整った顔は本当にお人形のよう。本当に生きているのか疑問に思うくらい。
何を感じて何を思っているのか本当に読めなくて、不思議な感覚だった。
そんな翼さんが控えめに笑った。
それがなんだか嬉しくて…。
少し…少しだけ、安心した。