六花の薔薇



「ここが図書室っ!」

通されたのは天井近くまである大きな本棚がズラーっと並んでいてとてつもなく広い空間。
本の数が尋常じゃない。

「…凄い」
「凄いだろ!【学園】の図書室は【リデルガ】で一番の書庫だからな」

色々な年代の本がズラーっと並んでおり、本を読むため専用のふかふかのソファーや自習用の机と椅子も並ぶ。
すると奥の方の出窓に見慣れた姿を見つけた。
背が高くて少し長い薄いグレーの髪を後ろで結んでいる。

-あれは…

するとタッタと庵がその人物目掛けて歩いていく。

「ぁ、琉伽(るか)か。(いおり)が嬉しそうに駆けていくから誰かと思った」

(いおり)は私には見せないような柔らかい表情で琉伽るかと話をしている。

「…仲、いいの?」
(いおり)琉伽(るか)だけに懐いてるからな~言えば、ご主人様と犬だな、あれは」
「………」

あんな柔らかい表情もできるんだ。
いつも眉間に皺を寄せてぶっすとした顔をしている。いつも不機嫌そうな…。
(つばさ)(しゅう)がその光景を眺めていると、見られていたことに気づいた庵はバツが悪そうに顔を逸らす。庵いおりの表情に気づいた琉伽(るか)もこちらに気づき柔らかい笑顔でこちらに手をふる。
それを合図に(しゅう)がふたりのところまで歩き出すので翼もその後を追った。

(しゅう)(つばさ)ちゃんも。3人で何してるの?」
(つばさ)に【学園】内、案内してんの」
「へぇ~。よかったね、(つばさ)ちゃん。どこ行ったの?」
「まだ…ここがひとつめ」
「そっか!じゃあ、僕からのおすすめはあそこかな」

笑う琉伽(るか)
(つばさ)が「?」と顔を傾けると…

「あぁ~あそこか!おっけ~、行くぞお!(いおり)
「ぇ、ちょっ」

(しゅう)(つばさ)の手首を掴んで図書室から出ていこうと走る。

「はぁ」

(いおり)はうんざりしたようにため息をついて、後を着いてくる。

「じゃあ、またね。(つばさ)ちゃん」

琉伽())はいつものように笑った。
そのいつもの笑顔が(つばさ)はなんだか怖いのだ。
本心が見えなくて、何を考えているのか分からなくて…ただただ怖い。

優しい笑顔と裏腹に本心はー…。

「次行くとこは琉伽(るか)が好きな場所なんだ」
「…好きな場所?」
「そう、【学園】は初等部・中等部・高等部ってあるんだけど、あそこは琉伽(るか)が初等部からのお気に入りの場所」
「そんな、前から」
「なっ、(いおり)
「あぁ」

(しゅう)(いおり)に話を振ってケラケラ笑う。
(いおり)はなんだか恥ずかしそうに顔を逸らす。

「くくっ、ははっ」
(しゅう)

(いおり)(しゅう)をキッと睨む。

「今から行くところは、(いおり)琉伽(るか)が出会った場所で」
「おまっ、それ以上言ったら…」
(いおり)琉伽(るか)を女だと勘違いした場所でもあるんだな~」
「…ぇ」

(いおり)は顔を背け恥ずかしそうに怒る。

「お前、覚えとけよ」
「おお~怖い怖い」

確かに琉伽(るか)は白い綺麗な肌に綺麗な髪、程よい瞳の大きさで本当に綺麗な人。
幼い時はきっと女の子に間違えられるほど可愛かったに違いない。それは安易に想像できる。

「まっ、琉伽(るか)は本当に天使のように可愛かったからな~」
「………」
「あいつ初恋泥棒なんだぜ?」
「初恋…泥棒?」
「【学園】内の同年代の奴らもみーんな初恋は琉伽(るか)っていうぜ?」
(しゅう)も?」
「お、初めて名前呼んでくれた!そう、俺も」

話の流れでつい名前呼んでしまった…。

「んで、こいつも」

そういって(いおり)を指さす。
相変わらず(いおり)は恥ずかしそうにそっぽを向いている。

「俺はすぐに男だって気づいたけど、(いおり)はわりと長い間好きだったよな」
「…うる、せーな。しょうがないだろ、可愛かったんだから」
「ははっ、認めてやんのー。てな感じで琉伽(るか)は初恋泥棒なわけ」

”わりと長い間”

そう聞くといつ気づいたのか、気になる…。

「…いつ気づいたの?」
「「………」」

(しゅう)(いおり)は目が点になる。

-あれ…聞かない方がよかった…?

「だはははっ、それは…くく、それはなっ」

(しゅう)は涙が出るほど笑い、

「俺は言わないぞ、(しゅう)が言え!」

顔を赤くして言う(いおり)にやっぱり聞いてはいけなかったんだと少し後悔する。

「なんでお前、命令口調なんだよ!てか言っていいのかよ、だっは、ははっ」

でも…凄く気になる…。

「風呂っ」
「お風呂?」
「そう、ガキの時に六花の6人で大浴場行ってさ、そん時。ひひっ、あ~ダメだ。思い出すだけで笑える、腹いてーっ」

チラッと(いおり)を見ると相変わらず、そっぽ向いている彼。少し長めの黒髪から覗く耳は赤く染まっている。

琉伽(るか)も男湯に入ろうとするもんだから、(いおり)が『琉伽(るか)ちゃんあっちだよ』っつてな、そこで男だって気づいたってわけ。可愛かったよな~」
「もういいだろ、このくらいで」
「その後、ショックで(いおり)、知恵熱出して寝込んでさ」
(しゅう)っ!」

(しゅう)は笑い涙を指の端で拭う。

「ほんと、あん時は毎日が楽しかったよな」

そう言った(しゅう)の横顔は少し寂しそうだった。
(いおり)(しゅう)の言葉には何も返さなかった。

「着いた!あそこ!」

(しゅう)が指さすのは丸い形の…

「温室庭園」

横にいた(いおり)が呟く。