海偉と陸玖が飛び降りた窓を覗く。
軽やかに飛んで着地し、何事もなかったかのように行ってしまった。
「……」
「ははっ、翼驚いてる」
「そりゃ、驚くよ~、二人は人間なのに~」
真理愛がねっと頷いて同意を求めてくる。
翼も”うん”と頷く。
「…真理愛」
すると、御影が静かに真理愛の名前を呼ぶ。
その瞬間、専用室の空気が変わったような気がした。
「うん」
返事をし、立ち上がった真理愛は御影の後を追って奥の部屋へと入って行った。
それを愁も庵も静かに見守る。
「つーばさっ」
急に愁に声をかけられ身体がビクッと反応する。
「ははっ、ごめん、ごめん。今さらだけど【学園】案内してやろーか?」
予想外の言葉にびっくりした。
【学園】に通い出して教室とこの専用室以外は行ったことがなかった。
ダンピールだし、まだ匂いが残っているから【学園】内を回れないと思っていた。
あの日みたいに襲われるかもしれない。
「…いい、の?」
「あぁ、匂い?俺の上げた香水付けてるでしょ?」
翼は頷く。
「…もう匂いもだいぶ薄れてる。大丈夫だ」
庵がぶっきらぼうに言う。
そういうことを言ってくれるなんて思っていなかったから少し驚いた。
「どうする?行く?」
愁がもう一度聞いてくれる。
翼は少しワクワクして
「うん!」
と少しいつもより大きい声で返事をした。
専用室と繋がるもう一つの部屋。
その部屋は暗くて、冷たい空気が肌に刺さって少し痛い。御影の背中が暗い。
「御…」
-違う…今は、六花次期頭首。
そう名前を呼ぶのに躊躇する。
片膝を床に付け頭を下げる。
「真理愛…ちゃんと覚えてる?」
「えぇ、もちろん」
「頼んだよ、真理愛」
「はい…」
鋳薔薇 御影【リデルガ】の次期頭首。
始まりの純血種の子孫。
私たちの関係は所詮、王と下僕。
逆らうことは絶対に許されないー…。


