六花の薔薇




「はーい、お名前は?」
(つばさ)…」
(つばさ)ちゃんはなんでここにいるのかなあ~?」

海偉(かい)に問われた(つばさ)御影(みかげ)をチラッとみる。
御影(みかげ)は目が合うなりニコッと笑った。

「はーい、あの暴君野郎はみないよ~」

そういって視線を自分に向けさせる海偉かい。

「…ダンピール…なの?」

陸玖(りく)が横から小さな声で聞く。

「…うん。」

頷いた(つばさ)に目を見開いて驚く陸玖りく。
おとぎ話でしか聞いた事のないダンピールという存在。本当に存在した?そんな事本当にありえるの?陸玖りくの頭の中はぐちゃぐちゃにかき乱されていた。

「ダンピールって存在確認されてないよね~、それがまさか【リアゾン】にいたってどういうことですかね~」

そこにいた全員が(つばさ)をみる。
どういうことかと聞かれても生まれも育ちも【リアゾン】だ。自分がどのようにして生まれたかなんてそんなの知らない、あの母親に聞けるわけがなかった。
吸血種(ヴァンパイア)のこと(ダンピール)のこと父親のこと…物心ついた頃にはそのことについて聞くことが許されない暗黙の了解になって口に出す事すら許されない空気だった。
だから(つばさ)は”自分自身”について何も知らない。

「…わからない、何も」

絞り出すように声にする。

「…親は?」
「…いたけど」
「…けど?」

(つばさ)の様子を見て、何かを感づく海偉かい。

「ああ、記憶消したか。お前ならやりそうだわ」

そういって御影(みかげ)を睨む。

「……………」
「ダンピールが存在しているなんて世紀の大発見だ、国中の科学者たちがそれはそれは嬉しがるなあ」
「だからだよ、【リアゾン】の方は欲深い。ダンピールがいるなんて分かったらきっと母親諸共実験台にされる。それを事前に防いだ。」

御影(みかげ)は笑って話を続ける。

「それに(つばさ)は半分は吸血種(ヴァンパイア)だ。吸血衝動も自傷行為で抑えていた。人間を襲うのも時間の問題。彼女が生きやすいのは”こちら側”だと判断しただけだよ」
「………自傷行為」
「…(つばさ)ちゃん」

真理愛(まりあ)が心配そうな瞳で声をかける、(つばさ)は大丈夫とでもいうように少し微笑んで見せた。

「…ふーん、そういうこと」
「…お兄?」
「『生徒がひとり消えた』そう上から言われてきてみれば、消えた生徒の正体はダンピールだったって訳か。ああ~めんどくせえ~」

海偉(かい)は頭をガシガシかく。

「はあ、もういいわ。こっちでどうにか処理しとくわ」
「…お兄、それって」
「ダンピールの存在は【リアゾン】には内緒だ。こんな事実が知られちゃ上は何するか分からねーからなああ~、きっと、えっと(つばさ)だっけ?の母親を探し出して追及するだろう、下手したらあんた拷問されるよ。」
「拷問…」

(つばさ)思わずは声に出してしまった。

「あれ?知らねーの?【リアゾン】ってそういう所だぜ?自分の欲しいものを手に入れるためには手段は選ばねー、なあみかくーん」
「…そうだね。人間は本当に厄介な生き物だ。同種で戦争なんてする生き物だし…」
「俺らは別にダンピールがいようが居まいが今の平和が保たれるならなんでもいいんだよ、平和が壊される因子を排除する、それだけ」
「……………」
「だから、今はあんたの存在を公にする方が平和は壊されるだろうな~、だから俺達は何も知らない、あんたはただの吸血種(ヴァンパイア)だ。そう認識する。それでいいだろ?みかくん」
「話が早くてよかったよ」
「…はあ、疲れる話だなあ~」
「じゃあ、俺らいくわ~」

その後ろを陸玖(りく)がついていき、二人して窓の縁に足を引っ掛ける。

「っと、その前にやっぱり今の撤回。消えた生徒はあんたじゃない。こいつらが勘づかれるようなヘマするはずがない。その件はこっちで捜査するわ、じゃっ」
「はい、さようなら」

御影(みかげ)はニッコリと笑い、二人に向かって手を振る。そしてそのまま海偉(かい)陸玖(りく)は窓から飛び降りた。

「!?」

-ここ6階…

「ははっ(つばさ)めちゃ驚いてる」

さっきまで大人しく壁にもたれていた(しゅう)が笑う。

「大丈夫だ、あいつらは人間だけど人間じゃない」
「また(いおり)は誤解を生むような言い方する、あいつらはヴァンパイアハンターの末裔なんだ」

愁しゅうが丁寧に教えてくれる。

「今は昔みたいに吸血種(ヴァンパイア)を狩ることはないけど、俺ら六花と一緒に平和の均等を保ってくれてる。いえば【リアゾン】の六花みたいな感じかな」
「…知らなかった」
「【リデルガ】と違って、【リアゾン】はハンターの存在を公表してないみたい。陰で平和を守ってくれてるんだよね」

真理愛(まりあ)が笑いながら言う。
当たり前にあった平和は当たり前ではなくて陰で誰かが守ってくれていたのだ。