【学園】の敷地は広い。
【リアゾン】との境界線付近にまでその敷地は及ぶ。
境界線付近の地下には【リアゾン】を行き来できる通路がある。
そしてそれは【学園】の地下へと続いている。
【リアゾン】と【リデルガ】そんな二つの世界を行き来できる通路があるなんて、ごく一部のものしか知らないのである。
御影はある書類に目を通し眉間に皺を寄せていた。ここに書いてあることが事実ならば、これは相当大変な事態である。
-どうしたものか…
【学園】のある六花専用の部屋。
そこでひとり頭を抱えていた。
カチャ
気づいた時には遅かった。
御影の頭部に両側から銃が向けられる。
「あっれー鈍いなお前」
「お兄、こいつ弱いわ」
御影を挟んで会話をする。
「お前等は正面の扉から入ってこられないのか?猿か?」
「うーわ、口わっる」
「しょーがねーよ、妹よ、こいつは今必死に怒りを抑えてるんだ」
御影は向けられている銃を掴み、そのまま二人を振り上げる。
「お~しょっと」
華麗に着地する二人。
「なんのようですか」
「なんのようですかじゃないでしょー、みーかくーん」
分かってるよな?という視線を向けてくる。
ガチャ
「ぁ、海偉じゃねーかあ!」
部屋に入ってきたのは愁と庵。
「妹も!元気か~?」
「妹だけど、陸玖って名前があるんだけど。何頭悪いの?にわとりなの?なんなの?」
「めっちゃ怒るじゃん」
「陸〜玖~、こいつらは所詮 吸血種だ、しょーがねー」
「そうだね、そうだったわ、はは」
気持ちのこもっていない乾いた笑い声。
この兄妹はいつもあまり表情を崩さず、適当な事を話す。まるで本性が見えない。
そして二人は人間種だ。
【リデルガ】と【リアゾン】を行き来できる唯一の人間。
ヴァンパイアハンターの末裔である。
兄の海偉と妹の陸玖。
昔は吸血種を狩っていたハンター達だったがここ数百年は世界をふたつに分けたことで人間を襲う吸血種もいなくなりハンター達は吸血種を狩る必要性がなくなった。
今ではお互いに監視し合い平和を保っている。
そんなハンターの二人が突然【学園】に現れた。
「なあ、みかくーん」
カチャ
海偉が、御影に銃を向ける。
その瞬間 愁と庵も戦闘態勢に入ったのが分かった。それに気づいた陸玖は愁と庵に銃を向ける。空気が張り詰める。
「俺らに隠してる事あるだろ?」
「………」
「……お兄」
部屋の空気が一段と重くなる。
誰かが動けば戦闘が始まるような張り詰めた空気。
「ちょっとおおおお!何してるの!?」
「…ぁ、真理愛…」
「…ぁ、真理愛じゃないよう!陸玖ちゃん!なんでこんな物騒なことになってるのおお!?みんな武器引っ込めてええ!!」
真理愛は慌ててその場を収める。
その真理愛の後ろからひょこっと翼が顔を出した。真理愛の慌てっぷりに部屋の中が気になったのだ。
「…おいおい、お前本当に…えー?嘘だろー、まじかよー」
海偉は翼を見るなりげんなりした。
「…お兄、でもこの子…」
陸玖は人間とは違う小さな違和感に気づく。
「あ?なんだあ陸玖」
「…ただの人間じゃ…ない?」
「はあ!?」
「…でも吸血種でも…ない?」
「陸玖ちゃんよーお兄ちゃんちょっと意味わかんねーんだけどー」
海偉は御影から陸玖に視線を移す。
いつもポーカーフェイスの陸玖が明らかに動揺しているのが分かった。
-あぁ、そういうことかね
御影をみるとニヤッと笑う。
「…人間を連れてくるようなことをするはずないじゃないですか」
「…ということはダンピール」
銃を下げる海偉。
「はあ、やめだやめだ~、陸玖ちゃんこっちおいで~」
そういって陸玖の肩を抱き寄せる。
まだ信じられないといった顔をして翼を見つめる陸玖。ダンピールなんて物語の世界でしか存在しないような架空のものだと思っていた。
だが今目の前に存在している。
-ただの言い伝えではなかったということか…
「詳しく話聞かせてもらっていいかね~」


