あれから数日、なんとなく【学園】に慣れてきた。
放課後はいつも、御影みかげたち専用と言われているこの豪華な部屋で過ごす事が多かった。
この部屋は、御影(みかげ)を初め琉伽(るか)(しゅう)壱夜(いちや)、そして真理愛(まりあ)にかぐや、後他に2名 合計8人が自由に出入りできる。
なぜこの8人なのか、翼つばさはまだ知らない。
この部屋に来て特に何かをするってわけではないが、それぞれ読書をしたり勉強したり昼寝したりゲームしたりお菓子を食べたり、【リアゾン】での放課後と何ら変わりはなかった。

ただ違うのは【リアゾン】では(つばさ)はこんな”普通”の放課後を送ったことがないということ。
学校が終わったと同時に家に帰り、母親の目に入る場所で生活をする。
こんな自由な生活はしたことがない。
そして『リデルガ』に来て何となく分かったことがある。

それは御影(みかげ)はいつも忙しそうということ。
何やら書類を読んでは印を押したり、どこかに電話したりただの学生ではなさそうな。
家でも食事以外では見かけないし、ちゃんと寝ているのかも正直不明。
今もずっと書類に目を通し、眉間に皺を寄せている。
他の人はというと向かいのソファーでは(しゅう)が占領して昼寝をしているし、ソファーの横にある大きなテレビでは壱夜(いちや)がゲームをして大騒ぎしている。
そしてあの日以来 琉伽(るか)の姿は見ていない。

(つばさ)ちゃん?」

ソファーに座ってボーっと御影(みかげ)を眺めていたところ真理愛(まりあ)に声をかけられる。

「ボーっとしてるけど大丈夫?」
「うん、大丈夫」
御影(みかげ)が気になる?」
「え、あ、いや、あの。いつも忙しそうだなって」

そう答えると真理愛(まりあ)は信じられないというような表情をする。
その顔を見て(つばさ)は思わず「え?」と声が出る。

「もしかして、何も聞いてないの?」
「何もって…?」

その反応を見てほっぺを膨らまし、キッーと御影(みかげ)を睨む真理愛(まりあ)

「ちょっと、御影(みかげ)ー!」

御影(みかげ)を指さし、ズンズンと御影(みかげ)の席へと向かい見ていた書類を奪い取る。

(つばさ)ちゃんに私たちのこと何も言ってないの?こっちに来て何日経ってると思ってるのぉー!てっきりもう話してると思ったのに~!」

書類を取られた御影(みかげ)は「はぁ~」とため息をついて席を立ち(つばさ)を見る。

「?」

頭にはてなが浮かんだ。
その様子を見てソファーで横になっている愁しゅうが

「話てくれるって」
「話す?」
「俺達のこ~と」


そして御影(みかげ)は静かに語り出した。






「まずは吸血種(ヴァンパイア)の成り立ちから【学園】で6つの花と書いて六花(ろっか)と呼ばれるものがいる。六花とは吸血種(ヴァンパイア)の中で最も位の高い6つの家柄のことを指す言葉。そのひとつが俺の血族、鋳薔薇(いばら)家。そして他の5つの家柄を合わせて六花と称してる」
「…血族」
「うん、吸血種(ヴァンパイア)は血で家の位が決まるんだ。六花と言われる一族は主に自分の一族だけで繁栄したきた、言えば純血の一族なんだ。まあ、吸血種(ヴァンパイア)としての血が濃いってこと」
「純血…」
「俺の血族、鋳薔薇(いばら)家は始まりの吸血種(ヴァンパイア)って言われてる。六花の中でも位が一番高い。その派生として繁栄していったのが他の5つの一族」
「…それって」
「うん、桃李(とうり)家、観月(かんげつ)家、鷗外(おうがい)家、そして南雲(なぐも)家、安楽吹(あらぶき)家、その5つの一族。南雲(なぐも)と家、安楽吹(あらぶき)家の2人とはまだ会ってないね」
「……うん」
「言ってしまえば吸血種(ヴァンパイア)は元をたどれば全員が始まりの吸血種に行きつく。少なからず全員薄い薄い今にも切れそうな糸のような血縁関係にあたる。そして六花(ろっか)吸血種(ヴァンパイア)はそれぞれ特殊な能力を持って生まれる。」
「特殊…能力」
(つばさ)の母親や生徒の記憶を消したのは琉伽(るか)の能力、そして真理愛(まりあ)の能力は治癒、そして(つばさ)が襲われた時に壱夜(いちや)が発揮したのも能力の一種で心身強化という能力。それぞれ純血に近い吸血種(ヴァンパイア)には能力があるんだ」

-そうか、壱夜(いちや)が助けてくれた時男子生徒を拳ひとつ廊下の端に飛ばしたのも能力の一種だったんだ…。

淡々と話す御影(みかげ)(つばさ)はある事を思う。

-ということはここにいる皆は吸血種(ヴァンパイア)の中で一番位の高い一族の人達で【学園】の生徒の中で一番権力のある人達なんじゃ…。

「まっ、そういうことだな」

御影(みかげ)ではない低い声がした。

「俺達は将来この【リデルガ】を任されているような吸血種(ヴァンパイア)だ、普通お前のようなダンピールが一緒にいていいような吸血種(ヴァンパイア)じゃないんだよ、俺達は」
「また、勝手に心の声読んだよ。庵いおりの能力は人の心の声が読めるから(つばさ)気をつけろよ~」

ソファーに寝ている(しゅう)が呟く。

-人の心が読める?

声のする方に視線を向けると、扉付近に二人の青年が立っていた。

(いおり)弦里(げんり)だああ!久しぶり!!」

真理愛(まりあ)は嬉しそうに二人の名前を呼ぶ。

「君が(つばさ)ちゃんだね!どうも、初めまして安楽吹(あらぶき)弦里(げんり)です」

青年はニコッと笑う。
その横に立っている仏頂面の青年は(つばさ)をジッと見つめる。キリっとした鋭い目つきと眉間に皺が寄っており少し怖い。

「ちょっとー!(いおり)そんな目で見ないでくれる?(つばさ)ちゃん怖がってんじゃん!!それに勝手に心読まないでっていつも言ってるでしょ!!」
「なんつー目で見てんだよ…」

弦里(げんり)(いおり)の頭をぽかっと叩く。

(つばさ)ちゃん、怖がらなくていいからね。あの目つき悪い黒髪野郎は南雲なぐも庵いおり、ほっといたらいいから」
「…ぁ、うん…」
「話の続きいいかな?」
「ごめんね、御影(みかげ)。続けて?」

弦里げんりは笑って御影(みかげ)に謝る。
話を続けようとする御影(みかげ)に対しひとつ疑問が浮かぶ。
翼つばさは庵いおりが言うように吸血種ヴァンパイアでも人間種でもない忌み嫌われるダンピールだ。
そんな(つばさ)が純血の彼らと一緒にいる事が何故許されている?

「どうして、私は…」

真っ直ぐに翼をみる御影(みかげ)
その(つばさ)の様子に言いたいことは何となく察しがつく。

ーーピルルルルッッ


その時部屋に電子音が鳴り響いた。
御影(みかげ)の携帯からだ。
御影(みかげ)は通話ボタンを押して携帯を耳に当てながら部屋を出ていった。

-聞けなかった。

御影(みかげ)を前にするとどうしても上手く話すことが出来ない。

(つばさ)ちゃん、(つばさ)ちゃん」

横から弦里(げんり)が声をかけてくる。

御影(みかげ)は言葉が少ないから掴みにくい奴だけど、ちゃんと(つばさ)ちゃんの事考えてるから大丈夫だと思う。ここにいれば大丈夫だから」
「…………」
「俺の事は弦里(げんり)って呼んで、(いおり)はさっきはあんなこと言ったけど根はいいやつだから安心して?んでこの部屋は六花専用の部屋だけど(つばさ)ちゃんは特別。出入り自由だからさ。」
「うん」

(つばさ)は頷く。

そしてその日、電話に出た切り御影(みかげ)は帰ってこなかった。
弦里(げんり)曰く、六花の頂点だから現六花頭首の仕事を手伝っているのだそう。
吸血種(ヴァンパイア)と人間種は見た目は同じだが本当に全く違う種族なのだと翼つばさは実感した。