その瞬間、パチンっと音が鳴った。
その音と共に(つばさ)の視界はクリアになった。

()ちゃだめだよ、琉伽(るか)の目は」

真理愛(まりあ)の手により視界は遮られていたのだ。

「ぇ…」
「あれ、私」
「俺ら…何してんだ?こんなとこで」

集まっていた数人の生徒は口々にそういってばらけていった。

「今の…」
「記憶を消したんだ、琉伽(るか)がね」
「ごめんね、急に」
琉伽(るか)~、ありがとっ!」
「いや、真理愛(まりあ)こそ。(つばさ)ちゃんの目隠してくれて助かったよ」

-確か、お母さんの記憶も…。でもあの時はお母さんの頭に触れていた。

「俺、視線を合わすだけでも出来たの記憶なら消せるんだ。あの時はどうも。まだ自己紹介してなかったよね、俺は桃李(とうり)琉伽(るか)琉伽(るか)って呼んで?」

(つばさ)の考えていることが分かったのか琉伽(るか)は笑顔で教えてくれた。

「ところでどう?【学園】は」
「 ぁ、えっと」
「おおお!琉伽(るか)じゃねーか!」

その時大きな声が耳を劈く。
声のする方を見ると、そこには藤堂(とうどう)の姿。
琉伽(るか)は一瞬嫌な顔をしていつも通りの笑顔に戻る。

「お前、学年上がってからあんまり学校来てねーらしいじゃねーか!」

藤堂(とうどう)から(つばさ)真理愛(まりあ)に視線を変えた。

「じゃあ、僕はここで。またね、(つばさ)ちゃん」

そういって逃げるように行ってしまった。

「って、おい!琉伽(るか)~!」
「逃げられちゃいましたね、先生」

真理愛(まりあ)が笑いながら藤堂(とうどう)の肩をポンと叩く。

「やっぱり?なあんか避けられてんだよな~。あんまり学校も来てねーみたいだしよー。真理愛(まりあ)なんか知らねえーか?」
「ええ~特には。ていうか先生もう担任じゃないじゃん」
「そうなんだけどよー、一度もった生徒はいつまでも気になるんだよ」
「ふーん、ていうか先生何故ここに?」
「いや、なんか生徒が集まってるって聞いて喧嘩か何か始まったのかと思ってな。六花のやつらか?処理してくれたのは」
「うん!ばっちり」
「…そうか」

藤堂(とうどう)琉伽(るか)の背中を眺める目がなんだか少し優しかった。
追いかける事も出来たのに、それをしなかったのは藤堂(とうどう)の優しさからだろうか。
こうして(つばさ)の【学園】での一日目が終わった。