【学園】に着くなり御影はひとりで何処かに行ってしまった。
「ごめんね~、翼ちゃん」
翼はふるふると顔を横に揺らす。
そんな私を見て真理愛は優しく笑う。
「じゃあ、まずは職員室!」
そう言われて通されたのは一つの大きな部屋だった。
そこには教師であろう人達が忙しなく動いている。
「先生ー!藤堂先生ー!」
真理愛が扉からひょっこっと顔を出して教師の名前を呼ぶ。
藤堂はビクッと身体を震わせこちらに振り返る。
翼と真理愛に気づいた藤堂はスタスタとこちらに向かってくる。
「明星…お前か」
「おはようございます!先生!翼ちゃん連れて来たよ!」
藤堂は翼の方に向き、じーっと見つめる。
「お前が、噂のね。今日からお前の担任の藤堂梓だ、よろしく」
「伊崎翼です、よろしくお願いします。」
藤堂は少し長い前髪と長い後ろの髪をひとつにくくっている。
「翼ちゃんの苗字初めて聞いた〜」
翼も真理愛の苗字初めて知ったと思ったが口には出さず心の中で呟いた。
「まぁ、さっそくなんだが俺は困っている」
藤堂は両腕を胸の前で組み、あからさまに困った顔をする。
「何々~?何に困ってるの?先生」
「どっちに入れるか困ってる」
「あぁ~、一般科か特化ってこと?」
「そうそう、どうしようかな~と」
一般?特化?
翼が戸惑っていると
「この【学園】ではね、一般化と特化ていう二つの科に分かれてるの、一般化は普通の家柄の吸血種の子達で特化は貴族階級の家柄の吸血種の子達が入るの」
「真理愛、良くできました!ぐっ~!」
親指を立てぐう~と突き立てる。
「わあ~い!」
「とまあ、そういうことなんだわ。翼どうする?」
-さっそく呼び捨て…
「え、それ私に聞くんですか?」
「だって~、もう俺わかんないし~」
なんとも適当な教師だ。
この藤堂という男はどこか気だるげで教師らしい風格もない。
その適当さが少し緊張していた翼の緊張を解いた。
翼の目の前には大きな扉、横には藤堂。
「じゃっ、行きますか」
「ぁ、はい」
藤堂は翼の顔を見て、頭をポンっと撫でニコッと笑い扉を開ける。
「お~い、お前ら座れ~今日からお友達が増えるぞ~」
恐る恐る教室に入り、教室を見渡す。
階段状に高くなっていく席。
教室の後ろまで席が連なっている。
「…ここが教室」
席には見覚えのある顔たち。
その中には真理愛の姿もあった。
ニコッと笑い翼に手を振る真理愛。
予想通り真理愛は貴族階級だった。
-予想的中。
「じゃあ、自己紹介どうぞ」
「伊崎 翼です、よろしくお願いします。」
「ということで、特化に仲間が増えました。皆仲良くするよ~に~じゃあ、席は特に決まってないから真理愛の隣でも座ってろな」
「はい」
真理愛に視線を移すと『おいでおいで』というように手招きしてくれる。
サッと真理愛の隣に座った。
「ふふっよかったね、翼ちゃん。真理愛、嬉しいなあ。これからいっぱい思いで作ろうね」
その真理愛の笑顔をみていると凜々を思い出した。翼は真理愛を見ているとなんだか懐かしい気持ちになっていた。それはきっと少し凜々に似ているからだと分かった。
-元気にしているかな、凜々。
「うん」
翼は頷いた。
すると、真理愛の隣からひょっこっと顔を出したのはこれまた真っ黒なストレートの髪を横でまとめ三つ編みをしている綺麗な女の子。
「こ…こんにちは。」
「ぁ、えっと、こんにちは」
「あはは、かぐやったら凄い緊張してる」
真理愛は笑って、黒髪の彼女の自己紹介をしてくれる。
「この子は皐月かぐや、特化の数少ない女子のひとりだよ」
そう、この特化クラスは見た感じ女子が圧倒的に少ない。そもそも、1クラスの人数も少ないが…。
「人見知りするだけで本当はお喋りさんなんだ、仲良くしてあげてね」
「うん。よろしくね、かぐやちゃん」
「っっ、よろしくお願いしま…す」
真っ赤になるかぐや。
「なに照れてるの~?かぐや~」
「だってぇ~真理愛ちゃん、翼さん凄い綺麗だから…」
その言葉を聞いて真理愛は翼の方を見る。
「だよね~羨ましい~」
そう言って真理愛は教室中に視線を移す。
「朝も言ったけど、吸血種は容姿に恵まれてる人程 純血に近いの。ほら、御影みかげなんて純血だから特に綺麗な顔立ちしてるでしょ?だから、もしかしたら翼ちゃんのお父さんは純血に近い人だったのかなって…」
確かに、御影は凄く綺麗な顔立ちをしている。
というか…
「…純血?」
「おおい、こら~。そこ、コソコソうるさいぞ~、俺の話聞け~」
「ごめんなさ~い、翼ちゃんに教えてたの~」
「はいはい、もうちょっと静かに教えなさいっ!」
「はあい!」
藤堂はまた黒板に向き合う。
所々ツッコミたいのを抑える。
そうして、翼の【リデルガ】での生活が始まった。


