「わああ~可愛いい!!似合う!!!」
朝【学園】に行く前に真理愛は御影の屋敷に訪れていた。
御影に頼まれ翼の【学園】に行く準備を手伝う為だ。
「…………」
当の本人よりテンション高めに騒ぐのは、ツインテールを揺らして跳ねる真理愛。
翼は大きな全身鏡の前で【学園】の制服を着た自分を眺めていた。
黒に細い赤のラインの入ったスカートに胸には【学園】の大きな刺繍入りのエンブレム。
【リアゾン】には到底ないようなおしゃれなデザイン。
「やっぱり、”こっち側”の血が入ってるだけあるねえ」
そういって彼女は翼の後ろから鏡をのぞき込む。
「”こっち”?」
「うん、吸血種の血ってこと。吸血種は昔から美形が多いんだぁ」
「………」
「人間を惑わす程の容姿で人間たちを狩ってたとか言われてるけどね」
「…惑わす。それ聞いたことある」
「やっぱり?今じゃ有名な話だよね。だから翼つばさちゃんもとっても綺麗。透き通るような白い肌に大きな瞳そしてサラサラの髪!スタイルも良いし!羨ましい~」
こんな事を言う真理愛だが、彼女の容姿も相当なものだ。
落ち着いた色素の薄い髪にくりくりの二重の目。
僅かにピンク色の頬、本当に女の子ってかんじで守りたくなるような、そんな女の子。
翼は真理愛の方が羨ましかった。
翼はいつも、クールとか怖そうとかそういう印象をいつも他人に与える。
「どうどう?着心地は!」
「うん、大丈夫」
「よっかた!じゃあ、外で御影が待ってるし行こうか!」
部屋の扉に向かう真理愛の後ろをカバンを持ってついていく。
その瞬間くるっと真理愛が振り返った。
「翼ちゃん、ひとつだけ約束」
少し真剣な表情
「約束?」
「ダンピールだってことは【学園】では内緒ねっ」
「…………」
「絶対に!」
「わかった…」
屋敷を出ると御影みかげはボーっと空を見上げていた。その姿はとても様になっていて何かの雑誌に載っていてもおかしくない。
「翼ちゃん、着替えたよ~」
真理愛の声に反応し空から視線を二人に移す。
そして翼の姿を見るなり微笑んだ。
「似合ってるね」
「おお~よかったね!翼ちゃん」
「…ぁ、うん」
「御影は滅多に人のこと褒めないからね~」
「そう、なの?」
翼が聞くと御影はニコッと笑って、向かいに止めてある大きな車に向かった。
「あの容姿で、家も六花のひとつだもん。私たち吸血種の頂点にいるような人だから、褒めるっていう概念がないんだよ」
真理愛まりあがこそっと教える。
「ろっかって…」
「置いてくよー」
真理愛が言った”ろっか”について聞こうとした時、車の中から御影の急かす声に翼の言葉はかき消された。
-”ろっか”ってなんだろう…
黒いスーツを着た御影の屋敷の使用人であろう人が運転する大きな車で【学園】まで向かう。
今から向かう【学園】とは一体どんなところなんだろうと少し緊張する翼。
窓から見えるのは綺麗な緑色の木々。
御影の住む屋敷はおとぎ話に出てくるような森の中に突如大きな屋敷が出現するような、湖に囲まれていた。
そして窓の世界は映り変わる。
森を抜けて石畳の都市が見えてくる。
西洋の町のような雰囲気なのに近未来的な建物もあり、とても不思議な都市がそこにはあった。【リアゾン】とは全く違う。
独自に発展した文明【リデルガ】をその目で翼は初めてみた。
「翼ちゃん【リデルガ】に釘付けだ~」
窓の外を食い入るようにみていると真理愛がニコニコした笑顔で言う。
「そりゃそうだろう」
足を組み肘掛けに肘を置いて御影は発する。
「そんなに違うの?」
「行ってみたらわかるよ」
「ふーん」
隣で二人が話しているのをそっちのけで映り変わる世界に釘付けだった。
まさか自分が【リデルガ】に来れるなんて過去の翼は夢さえみなかった。
すると少し遠い丘の上に大きな大きなまるで城のような建物が見えた。
「あれは?」
「あ!あれは」
「【学園】」
御影は視線をこちらに向けることなく言う。
「もう!私が言おうとしたのに!」
「…あれが、【学園】…?」
「そうだよ!あれが私たちが通う【学園】!」
昔読んだおとぎ話に出てきた城のよう…。
窓から【学園】を眺める。
これから翼はあそこに通う。
自分のことなのに何故か、どこか他人事に思えるこの感覚はなんなのだろうか…。


