「…………」
大きな窓から朝の光が入り込む。
御影は目を覚ますと身体はびっしょりと汗まみれだった。変な夢でもみたんだなと覚えてないけどただ目覚めが悪いから分かった。
コンコン!コンコン!
「御影様!すみません!」
部屋の扉を叩き、使用人の声が聞こえる。
えらく慌てている様子だ。
御影は自室の扉を開ける。
「おはようございます、御影様。あの、翼様…」
その言葉を聞いて直ぐに自室を出て、小走りで翼の部屋と向かう。
「翼!?」
翼の部屋に着くと数人の使用人が翼に寄り添って、背中をさすったりしていた。
当の本人はすごく苦しそうで、呼吸が上手く出来ていなかった。
必死に自分で自分の手首に爪を這わせ傷つけていた。その時 御影は思い出した、翼の言葉を。
『…言いたくない…』
-やっぱり…。
御影は彼女が横たわるベットに近づく。
「行っていいよ、ありがとう」
使用人にそういって出て行ってもらう。
二人きりになったところで、翼に声をかける。
「翼…もういいよ、俺がきたから我慢しなくて…」
すると翼は俺の方をみる。
揺らいだ真のない瞳で御影に手を伸ばした瞬間…
ガブッ
翼は勢いよく御影の首元に嚙みついた。
その衝撃でベットの上に倒される。
血を一生懸命吸う翼の頭を撫でながら、長い黒い髪に手を這わせる。
-綺麗な髪…
なんてくだらないことを思う。
ーまるで、血の味を覚えた子どもだな…
御影は翼の頭を撫でながらされるがままにじっとする。
今日の朝食は何を食べようか。
パン?それとも米?どっちにしようかなんてことを考えていると
「…御影…?嘘、私…」
ある程度血を飲み我に返った様子の翼。
「おはよう」
御影は挨拶して笑う。
でも彼女は笑ってくれない
「…どうして」
「ん?」
「どうして、私また御影の血を吸ってるの?」
「………」
「…だって、昨日飲んだばかりなのに…やだ、私…」
「そういうもんなんだよ、覚えたては」
「…覚えたて」
「血の味を覚えたばかりの頃は吸血衝動は頻繁に現れる。そのうち身体も順応していくよ」
「…おかしく…ない?」
ボソッと呟く彼女。
「…普通だよ、誰もが通る道。そうやって血の味を覚えるんだ」
御影は身体を起こし、横に座る翼の頭を撫でた。戸惑いを隠せない翼は、きっと【リアゾン】では血を我慢していたが、学校で御影の血を飲んだことでストッパーが外れ無意識に血を求めるようになっていた。でもそれも定期的に血を飲むことでいずれ無くなる。
俯く翼の顔を両手で包む込み顔を上げる。
「翼、これだけは約束」
「…約束?」
「俺以外の血は飲んではいけない」
「…………」
「分かった?」
「…分かった」
不安で揺れる翼の瞳。
彼女の中で吸血行為は自分が化け物であるということを嫌でも自覚させる行為だ。
その行為を無意識にしてしまう自分が信じられない程嫌なはず。
不安そうにする顔が御影にとってはたまらなかった。
-ああ、なんて言い眺めなんだろう。
御影はにやっと笑った。
もう、離さないよ。
やっとみつけたんだから…
あの日から俺は君を忘れたことは一度もない
あの日から…


