車に戻り後部座席に翼を真ん中にして三人で座る。
翼はうつらうつら意識を手放した。
感情の起伏が激しく疲れたのだろう。
赤く腫らした目。かなり泣いていたのが分かる。
「寝た…」
御影は翼の顔を覗き呟く。
そして運転手に車を出すよう合図を送る。
ゆっくりと発車した車はこれから【リデルガ】へと向かう。
「…大丈夫?」
その言葉に琉伽へと視線を向ける御影。
「何が?」
「御影もかなり動揺したんじゃないかと思って…」
「余計母親という生き物は理解できない」
琉伽の能力が一度で効かなかったのも驚いたが翼の母親の最後の言葉を聞いた翼の様子はまるで信じられない光景を見たかのような取り乱しようだった。
愛してるなんて言葉を言いながら、翼は愛されている実感なんてこれっぽっちもなかったのだろう。むしろ、自分は嫌われていてお荷物な存在。母親にとったら居なくなってほしい存在、そう思って生きていたんだろう。
それが、急に愛してるなんて言われたら…。
御影は移りゆく窓の外の景色を眺め、考える事を放棄した。


