「起立、礼、お願いします!」
「よろしくお願いします」
委員長の号令とともに40人の生徒が一斉に挨拶をした。
6回目。すなわち最後の「最後の教育」の授業が始まろうとしている。
「はい、よろしく」
今回もやり直しはさせられることはなかった。
「とりあえず、お疲れ様 よく頑張った」
「君たちは卒業だ。前回の授業まで、採点は終わったが、皆 60点は越えていた。残念ながら最高得点は、78点だったが、よく頑張った」
「皆、それぞれに拍手」
皆が一斉に拍手をしたので、それはそれは大きな音となった。
「採点は終わったが、授業はある。何をするかというと、俺自身の話をしようと思う。だがな、採点は終わっているので、この授業自体は卒業とはかんけいのない。だから、帰りたいものは帰ってもいい、聞いてもいいと思うやつだけ残ってくれ。強制はしない」
「採点が終わったってのは嘘じゃない。今日残ったやつが合格になったり、加点されたりすることもない。帰ったからといって減点されるわけでもない」
「今から1分、帰りたいやつは今から1分以内に出てくれ。途中退室は認めない」
その言葉を聞いて何人かは帰るだろうと思ったが誰も席を立つものはいなかった。こういうのは集団心理によるものなのか、それとも鳴瀬の話を聞いてみたいと思ったのか。
皆が、どうして残ったのか理由は分からない。
「時間だ。誰も帰るやつはいないのか?」
「ありがたいな。初めてだな、全員残ってくれるのは。毎年、4、5人は帰るやつがいるんだが」
「感謝する、ありがとう」
鳴瀬は嬉しそうに語った。鳴瀬、ちゃんと感謝の言葉を口に出すんだな。そういう人には見えないと勝手に決めつけていたから。
「今日は、俺自身の話を6つ話す。だが、恥ずかしいからいくつか嘘を交えながら真実を話す。何個真実があるかは言わない。もしかしたら全部噓かも知れない。どの話を信じてどの話を嘘と思うかは君たちの自由だ」
「1つ目、俺は、遥か遠い先から来る未来人だ。未来の日本では、コンビニ強盗が無くなる。データで物を購入するのが一般的になり、人々がお金を持ち歩かなるため、コンビニにレジを設置する必要が無くなったからだ。コンビニ店員も極端に減ったけれどな。あまり未来のネタバレをするのは面白くないからこれくらいにする」
これは、さすがに、嘘だろう。未来人なんてドラマでもない限りあり得ない。
「2つ目、俺の父は、俺が15歳の時に殺された。郵便局員の父は配達中に、襲われそうになっている女性を見つけ助けに入った。弱いんだから助けを呼べばいいのに。若い3人組の殴る蹴るの暴行を受け、大量出血で死んだ。父が死んでしまった以上、真相は分からないが、何で助けたんだろうか? 助ければ何かあるのかと期待したのか? それともただの正義感だけで助けたのか……」
聞いたことがある内容。
これは、2回目の授業の時の話と似ている。確かに、男性会社員Gと登場人物の名前を伏せていたもんな。他は名前がつけられていたのに。
「3つ目、俺は5年間、やってない事件の犯人として牢屋に入れられていた。やっていないと言っても誰1人信じてくれなかった。それこそ自殺を考えたがそれが死ねないんだな、牢屋って所では。5年後、別の事件で逮捕された犯人の余罪が分かり、俺は、たまたま冤罪だと認められた。迎えに来てくれるような人はいない、待ち構えていたのはマスコミ関係の人と再生回数を稼ぎたい動画配信者くらいだ。そいつらも、2週間もすれば離れていく。死にたくてもこれまた死ねないんだな~」
「4つ目、俺はピーマンとロールキャベツが食べられない。ピーマンはあの苦味がどうも苦手だ。ロールキャベツはキャベツをケチャップで煮るという発想がどうも、受け付けられない」
鳴瀬なりの冗談なのかも知れないが、一切 笑いは起きなかった。前の3つのインパクトが強すぎて。
「5つ目、俺の母は俺を産むと同時に亡くなった。俺の命を選ぶか、母の命を選ぶか? 父には苦渋の決断をさせてしまった。名前もない、思い出もない俺のことなんか見捨てて、2人で暮らした方が幸せだったかもしれないのに……」
「母も父も俺の命を選んだ。不思議だろ?自分の命を犠牲にしてまで、子どもを助けたんだ……」
「6つ目、俺はもう死んでいる幽霊だ。自殺したんだ。前に勤めていた職場で取り返しのつかないミスをした。上司には激しく叱責され、同僚たちには冷ややかな目で見られるようになった。やがて俺は、自然と孤立し、職場に行きづらくなった。そんな環境で働いていても楽しくはなく、ミスをするばかりだった。だから俺は会社の屋上から死ぬつもりで死ぬ気で飛び降りた。見つけてくれたのは、別の部署で働いていた親友だったらしい」
周囲を見渡してみると何人かの女子は泣いていた。
鳴瀬の話はどれが本当か分からないのに。
4つ目、だけが本当で後は全部嘘って可能性もある。ただ、ほとんどの話が妙にリアルで、逆に4つ目の方が嘘っぽく感じた。ロールキャベツは美味いくないわけがない。
「おお、心配して泣いてくれている生徒もいるな。ただ、大丈夫だ。6つ全てが本当なわけではないし、俺はもう立ち直っている」
立ち直っている。なんて言葉を使われたらやはりどれかしらの話は本当なのだろうか。
「お疲れ様。俺の話はこれで終わりだ。悪いが、質問も受け付けるつもりはない。後は君たち自身がそれぞれ考えてくれ」
え? 終わるのかここで……
どれが本当か嘘かだけ教えてくれないとモヤモヤする。鳴瀬は、授業を終わろうとする。最後の教育の最後、これまたパンチのある授業だった。
「改めて、おめでとう!」
「これで、最後の教育 全ての授業を終わりとする、はい、号令!」
「起立、礼、ありがとうございました!」
こうして6回目の最後の最後の教育が終わった。
「よろしくお願いします」
委員長の号令とともに40人の生徒が一斉に挨拶をした。
6回目。すなわち最後の「最後の教育」の授業が始まろうとしている。
「はい、よろしく」
今回もやり直しはさせられることはなかった。
「とりあえず、お疲れ様 よく頑張った」
「君たちは卒業だ。前回の授業まで、採点は終わったが、皆 60点は越えていた。残念ながら最高得点は、78点だったが、よく頑張った」
「皆、それぞれに拍手」
皆が一斉に拍手をしたので、それはそれは大きな音となった。
「採点は終わったが、授業はある。何をするかというと、俺自身の話をしようと思う。だがな、採点は終わっているので、この授業自体は卒業とはかんけいのない。だから、帰りたいものは帰ってもいい、聞いてもいいと思うやつだけ残ってくれ。強制はしない」
「採点が終わったってのは嘘じゃない。今日残ったやつが合格になったり、加点されたりすることもない。帰ったからといって減点されるわけでもない」
「今から1分、帰りたいやつは今から1分以内に出てくれ。途中退室は認めない」
その言葉を聞いて何人かは帰るだろうと思ったが誰も席を立つものはいなかった。こういうのは集団心理によるものなのか、それとも鳴瀬の話を聞いてみたいと思ったのか。
皆が、どうして残ったのか理由は分からない。
「時間だ。誰も帰るやつはいないのか?」
「ありがたいな。初めてだな、全員残ってくれるのは。毎年、4、5人は帰るやつがいるんだが」
「感謝する、ありがとう」
鳴瀬は嬉しそうに語った。鳴瀬、ちゃんと感謝の言葉を口に出すんだな。そういう人には見えないと勝手に決めつけていたから。
「今日は、俺自身の話を6つ話す。だが、恥ずかしいからいくつか嘘を交えながら真実を話す。何個真実があるかは言わない。もしかしたら全部噓かも知れない。どの話を信じてどの話を嘘と思うかは君たちの自由だ」
「1つ目、俺は、遥か遠い先から来る未来人だ。未来の日本では、コンビニ強盗が無くなる。データで物を購入するのが一般的になり、人々がお金を持ち歩かなるため、コンビニにレジを設置する必要が無くなったからだ。コンビニ店員も極端に減ったけれどな。あまり未来のネタバレをするのは面白くないからこれくらいにする」
これは、さすがに、嘘だろう。未来人なんてドラマでもない限りあり得ない。
「2つ目、俺の父は、俺が15歳の時に殺された。郵便局員の父は配達中に、襲われそうになっている女性を見つけ助けに入った。弱いんだから助けを呼べばいいのに。若い3人組の殴る蹴るの暴行を受け、大量出血で死んだ。父が死んでしまった以上、真相は分からないが、何で助けたんだろうか? 助ければ何かあるのかと期待したのか? それともただの正義感だけで助けたのか……」
聞いたことがある内容。
これは、2回目の授業の時の話と似ている。確かに、男性会社員Gと登場人物の名前を伏せていたもんな。他は名前がつけられていたのに。
「3つ目、俺は5年間、やってない事件の犯人として牢屋に入れられていた。やっていないと言っても誰1人信じてくれなかった。それこそ自殺を考えたがそれが死ねないんだな、牢屋って所では。5年後、別の事件で逮捕された犯人の余罪が分かり、俺は、たまたま冤罪だと認められた。迎えに来てくれるような人はいない、待ち構えていたのはマスコミ関係の人と再生回数を稼ぎたい動画配信者くらいだ。そいつらも、2週間もすれば離れていく。死にたくてもこれまた死ねないんだな~」
「4つ目、俺はピーマンとロールキャベツが食べられない。ピーマンはあの苦味がどうも苦手だ。ロールキャベツはキャベツをケチャップで煮るという発想がどうも、受け付けられない」
鳴瀬なりの冗談なのかも知れないが、一切 笑いは起きなかった。前の3つのインパクトが強すぎて。
「5つ目、俺の母は俺を産むと同時に亡くなった。俺の命を選ぶか、母の命を選ぶか? 父には苦渋の決断をさせてしまった。名前もない、思い出もない俺のことなんか見捨てて、2人で暮らした方が幸せだったかもしれないのに……」
「母も父も俺の命を選んだ。不思議だろ?自分の命を犠牲にしてまで、子どもを助けたんだ……」
「6つ目、俺はもう死んでいる幽霊だ。自殺したんだ。前に勤めていた職場で取り返しのつかないミスをした。上司には激しく叱責され、同僚たちには冷ややかな目で見られるようになった。やがて俺は、自然と孤立し、職場に行きづらくなった。そんな環境で働いていても楽しくはなく、ミスをするばかりだった。だから俺は会社の屋上から死ぬつもりで死ぬ気で飛び降りた。見つけてくれたのは、別の部署で働いていた親友だったらしい」
周囲を見渡してみると何人かの女子は泣いていた。
鳴瀬の話はどれが本当か分からないのに。
4つ目、だけが本当で後は全部嘘って可能性もある。ただ、ほとんどの話が妙にリアルで、逆に4つ目の方が嘘っぽく感じた。ロールキャベツは美味いくないわけがない。
「おお、心配して泣いてくれている生徒もいるな。ただ、大丈夫だ。6つ全てが本当なわけではないし、俺はもう立ち直っている」
立ち直っている。なんて言葉を使われたらやはりどれかしらの話は本当なのだろうか。
「お疲れ様。俺の話はこれで終わりだ。悪いが、質問も受け付けるつもりはない。後は君たち自身がそれぞれ考えてくれ」
え? 終わるのかここで……
どれが本当か嘘かだけ教えてくれないとモヤモヤする。鳴瀬は、授業を終わろうとする。最後の教育の最後、これまたパンチのある授業だった。
「改めて、おめでとう!」
「これで、最後の教育 全ての授業を終わりとする、はい、号令!」
「起立、礼、ありがとうございました!」
こうして6回目の最後の最後の教育が終わった。