「起立、礼、お願いします!」
「よろしくお願いします」
委員長の号令とともに40人の生徒が一斉に挨拶をした。今回は鳴瀬のことを試してやろうと、僕はわざと声を出さなかった。
4回目の「最後の教育」の授業が始まろうとしている。
「はい、やりなお~し」
きたか?これで僕のことを指摘しなければ鳴瀬は適当に名前を言ってるに違いない。
「この授業も4回目か……そうなると出てくるんだよな、俺のことを試そうとするやつが」
「分かるなあ……お前のことだよ」
「えっ……」
本当に指摘されると思ってはいなかったので驚いた。鳴瀬は一回一回正確に確認していたのか。
「すみませんでした!」
減点される恐れがあるのですぐさま謝った。
「おお、今まで挨拶ができていないで指摘されたやつは何人もいるが、謝罪の言葉があったのはお前だけだな。その点は誉めてやる。だが、謝ったからといってやったことをなかったことにすることはできない」
とりあえず、謝っててよかった。すぐさま謝罪をすることを選択した何分前の自分を誉めてあげたい。
「はい、ではもう一度!」
「起立、礼、お願いします!」
「よろしくお願いします」
委員長の号令とともに2度目の挨拶をした。
「はい、よろしく」
「じゃあ、始めよう。4回目の最後の教育を」
鳴瀬は、プリントを配った。プリントには文字は何も書かれていない真っ白な白紙だった。
「まず、 左端に学年、クラス、氏名を記入しなさい、右端じゃないぞ、ちゃんと左端に書くんだぞ」
……危ない危ない。危うく注意を聞く前に右端に学年を書くところだった。こんなところでフェイントを入れてくるなんて卑怯だぞ鳴瀬。
「間違えたやつは、欠席にするからな」
「気を付けろ、注意力散漫なやつは損をする。覚えておくといい」
「じゃあ少し、未来の話をしたいと思う」
「2038年、釧枝教授が発表した研究内容。それには賛否両論あり、天才と持ち上げられるものもいれば、マッドサイエンティストと言って批判するものもいた」
「そこで今日は君たちに彼の研究内容に賛成か反対かの答えをだしてほしい」
また、難しそうな内容だな。研究内容は聞いていないのに難しそうだと感じたのは過去の授業での経験から。
「釧枝教授の研究というのは、妊娠3週目までに彼のもとにいけば赤ちゃんの性別を好きな方に出来る。男の子を希望するのならサンノウという黄色の錠剤を妊婦に服用し、女の子をレイムカという赤色の錠剤を服用する。痛くない、安全性は保証されている」
「釧路教授は、誰にも頼らずそのサンノウとレイムカという薬を一人で作り上げた」
この質問に対しても即答は出来そうにない。その当時彼女のいなかった僕にとって赤ちゃんのことなんて先のこと過ぎて自分とリンクして考えることは難しかった。恥ずかしながらそういう経験もしたことなかったし。
「矢田、お前は将来 男の子と女の子どちらが欲しい?」
鳴瀬は、矢田に質問をした。
矢田は、「3股の矢田」という不名誉なアダ名の通り遊び人で、コロコロと交際相手を変えたり、3人と同時に付き合ったりと女性関係で問題が多い。それを知ってか知らぬか質問されたのは矢田。彼ならそういう経験も豊富だし想像しやすいだろう。
「俺は、どっちでもいいっていうかまだそんな感覚がないというか……」
「分かんねーんだよ。俺はヤルのは好きだから色々なヤツとヤッてるし、付き合ったり別れたりを繰り返してるけど、赤ちゃんなんて先の話だろ?」
正直すぎる回答だった。よくクラスみんなの前でそんな恥ずかしいことを堂々と言えるよな。まあ、矢田がそういう人間だということはクラスの大半が知っているから彼に羞恥心はないのだろう。
「先の話ではない。特にお前のようなやつは、真剣に向き合うべき内容だ」
「性別に関して希望はないのか? 生まれてきてから、やっぱり嫌だったとか絶対に言わないか?」
「分かんねーけど、俺は男の子でも女の子でも可愛がるよ。信じてもらえねーかもしれねーけど俺ひとりっ子だから弟か妹が欲しかった」
「なるほど、そういう考え方か悪くない。正直でよろしい。だが、いつまででもそんな考えでいたらダメだからな」
「よし、もう一人くらい聞いておくか」
「南山、お前は将来 男の子と女の子どちらが欲しい?」
今度は南山さんに質問をした。
「私の家は 女三姉妹なので、出来れば自分の子どもは男の子がいいです」
「母もきっと男の子を望んでいるはずなので」
「分かった、ありがとう。理由に関しては聞かないでおく」
「ここで南山からいい言葉が出た、男の子を望んでいるという言葉。この言葉を発している以上、女の子が産まれてしまっては少しばかりマイナスの感情が生まれるわけだ。だとしたら、釧枝教授の研究は使えるということだな」
これは、賛成かな。よく考えてみたらマイナス面が見つからない。 批判する部分も特にない。
僕が賛成と大きく書こうとしたら再び鳴瀬が語り始めた。
「難しいようだから1つ、考えるためにアドバイスをしてやろう」
「釧枝教授の研究、考え方によっては彼の研究で人類は滅ぼせることが出来る。しかしだな、彼が妊婦全員にサンノウを服用させたらその年に生まれる子どもは全てが男の子になる、これを数年続けてみろ……どうなると思う?」
鳴瀬のこの言葉を聞いただけで勘のいい何人かはその意味、方法に気づいた。
「あとは、モラルの問題だな。自分たちの子どもの性別を選択することは果たして人間として間違ってはいないのか……」
男の子か女の子かを選ぶことが悪いことなのか、それぞれの事情があるだろうしそれはモラルに反するのか。
実際、サンノウやレイムカを服用することを義務化されてないのなら、服用するのは希望者のみってことになる。希望しない人もいるよね。果たして何人いるのだろうかは分からないけど、希望しない人は希望しないって選択肢も出来るわけだからいいよね。
やはり僕は賛成、というよりかは反対する要素が見つからない。
「書けたか? じゃあ回収する」
鳴瀬はプリントを回収するとそれを2つに分けていった。おそらく賛成と反対で分けているのだろう。教卓の右と左で分けているようだが、目視では右側が多いように見える。右側が賛成だろうか?
「集計が終わった」
「今回、賛成、反対、どちらが正解というものはない。重要なのは賛成か反対かではなく、1人1人が自分自身で考え答えを出すことだ」
「話し合って1つの意見を導き出すことも必要なことだ。大人になったらそういうことも増えてくるだろう。ただ、誰にも頼ることが出来ず、自分自身で物事について賛成や反対かを決めることが出来る力ってのも身に付けてほしい」
「それができない人間は周囲に流され騙され、犯罪に手を染めたり巻き込まれる危険性が高まるとだけ言っておく」
小説の一文のような言葉で鳴瀬がしめた。
「そろそろ時間になるし終わるとするか……」
「これで、最後の教育 4回目の授業を終わりとする、はい、号令!」
「起立、礼、ありがとうございました!」
こうして4回目の最後の教育が終わった。
最後の教育……
この授業は賛成?反対?
「よろしくお願いします」
委員長の号令とともに40人の生徒が一斉に挨拶をした。今回は鳴瀬のことを試してやろうと、僕はわざと声を出さなかった。
4回目の「最後の教育」の授業が始まろうとしている。
「はい、やりなお~し」
きたか?これで僕のことを指摘しなければ鳴瀬は適当に名前を言ってるに違いない。
「この授業も4回目か……そうなると出てくるんだよな、俺のことを試そうとするやつが」
「分かるなあ……お前のことだよ」
「えっ……」
本当に指摘されると思ってはいなかったので驚いた。鳴瀬は一回一回正確に確認していたのか。
「すみませんでした!」
減点される恐れがあるのですぐさま謝った。
「おお、今まで挨拶ができていないで指摘されたやつは何人もいるが、謝罪の言葉があったのはお前だけだな。その点は誉めてやる。だが、謝ったからといってやったことをなかったことにすることはできない」
とりあえず、謝っててよかった。すぐさま謝罪をすることを選択した何分前の自分を誉めてあげたい。
「はい、ではもう一度!」
「起立、礼、お願いします!」
「よろしくお願いします」
委員長の号令とともに2度目の挨拶をした。
「はい、よろしく」
「じゃあ、始めよう。4回目の最後の教育を」
鳴瀬は、プリントを配った。プリントには文字は何も書かれていない真っ白な白紙だった。
「まず、 左端に学年、クラス、氏名を記入しなさい、右端じゃないぞ、ちゃんと左端に書くんだぞ」
……危ない危ない。危うく注意を聞く前に右端に学年を書くところだった。こんなところでフェイントを入れてくるなんて卑怯だぞ鳴瀬。
「間違えたやつは、欠席にするからな」
「気を付けろ、注意力散漫なやつは損をする。覚えておくといい」
「じゃあ少し、未来の話をしたいと思う」
「2038年、釧枝教授が発表した研究内容。それには賛否両論あり、天才と持ち上げられるものもいれば、マッドサイエンティストと言って批判するものもいた」
「そこで今日は君たちに彼の研究内容に賛成か反対かの答えをだしてほしい」
また、難しそうな内容だな。研究内容は聞いていないのに難しそうだと感じたのは過去の授業での経験から。
「釧枝教授の研究というのは、妊娠3週目までに彼のもとにいけば赤ちゃんの性別を好きな方に出来る。男の子を希望するのならサンノウという黄色の錠剤を妊婦に服用し、女の子をレイムカという赤色の錠剤を服用する。痛くない、安全性は保証されている」
「釧路教授は、誰にも頼らずそのサンノウとレイムカという薬を一人で作り上げた」
この質問に対しても即答は出来そうにない。その当時彼女のいなかった僕にとって赤ちゃんのことなんて先のこと過ぎて自分とリンクして考えることは難しかった。恥ずかしながらそういう経験もしたことなかったし。
「矢田、お前は将来 男の子と女の子どちらが欲しい?」
鳴瀬は、矢田に質問をした。
矢田は、「3股の矢田」という不名誉なアダ名の通り遊び人で、コロコロと交際相手を変えたり、3人と同時に付き合ったりと女性関係で問題が多い。それを知ってか知らぬか質問されたのは矢田。彼ならそういう経験も豊富だし想像しやすいだろう。
「俺は、どっちでもいいっていうかまだそんな感覚がないというか……」
「分かんねーんだよ。俺はヤルのは好きだから色々なヤツとヤッてるし、付き合ったり別れたりを繰り返してるけど、赤ちゃんなんて先の話だろ?」
正直すぎる回答だった。よくクラスみんなの前でそんな恥ずかしいことを堂々と言えるよな。まあ、矢田がそういう人間だということはクラスの大半が知っているから彼に羞恥心はないのだろう。
「先の話ではない。特にお前のようなやつは、真剣に向き合うべき内容だ」
「性別に関して希望はないのか? 生まれてきてから、やっぱり嫌だったとか絶対に言わないか?」
「分かんねーけど、俺は男の子でも女の子でも可愛がるよ。信じてもらえねーかもしれねーけど俺ひとりっ子だから弟か妹が欲しかった」
「なるほど、そういう考え方か悪くない。正直でよろしい。だが、いつまででもそんな考えでいたらダメだからな」
「よし、もう一人くらい聞いておくか」
「南山、お前は将来 男の子と女の子どちらが欲しい?」
今度は南山さんに質問をした。
「私の家は 女三姉妹なので、出来れば自分の子どもは男の子がいいです」
「母もきっと男の子を望んでいるはずなので」
「分かった、ありがとう。理由に関しては聞かないでおく」
「ここで南山からいい言葉が出た、男の子を望んでいるという言葉。この言葉を発している以上、女の子が産まれてしまっては少しばかりマイナスの感情が生まれるわけだ。だとしたら、釧枝教授の研究は使えるということだな」
これは、賛成かな。よく考えてみたらマイナス面が見つからない。 批判する部分も特にない。
僕が賛成と大きく書こうとしたら再び鳴瀬が語り始めた。
「難しいようだから1つ、考えるためにアドバイスをしてやろう」
「釧枝教授の研究、考え方によっては彼の研究で人類は滅ぼせることが出来る。しかしだな、彼が妊婦全員にサンノウを服用させたらその年に生まれる子どもは全てが男の子になる、これを数年続けてみろ……どうなると思う?」
鳴瀬のこの言葉を聞いただけで勘のいい何人かはその意味、方法に気づいた。
「あとは、モラルの問題だな。自分たちの子どもの性別を選択することは果たして人間として間違ってはいないのか……」
男の子か女の子かを選ぶことが悪いことなのか、それぞれの事情があるだろうしそれはモラルに反するのか。
実際、サンノウやレイムカを服用することを義務化されてないのなら、服用するのは希望者のみってことになる。希望しない人もいるよね。果たして何人いるのだろうかは分からないけど、希望しない人は希望しないって選択肢も出来るわけだからいいよね。
やはり僕は賛成、というよりかは反対する要素が見つからない。
「書けたか? じゃあ回収する」
鳴瀬はプリントを回収するとそれを2つに分けていった。おそらく賛成と反対で分けているのだろう。教卓の右と左で分けているようだが、目視では右側が多いように見える。右側が賛成だろうか?
「集計が終わった」
「今回、賛成、反対、どちらが正解というものはない。重要なのは賛成か反対かではなく、1人1人が自分自身で考え答えを出すことだ」
「話し合って1つの意見を導き出すことも必要なことだ。大人になったらそういうことも増えてくるだろう。ただ、誰にも頼ることが出来ず、自分自身で物事について賛成や反対かを決めることが出来る力ってのも身に付けてほしい」
「それができない人間は周囲に流され騙され、犯罪に手を染めたり巻き込まれる危険性が高まるとだけ言っておく」
小説の一文のような言葉で鳴瀬がしめた。
「そろそろ時間になるし終わるとするか……」
「これで、最後の教育 4回目の授業を終わりとする、はい、号令!」
「起立、礼、ありがとうございました!」
こうして4回目の最後の教育が終わった。
最後の教育……
この授業は賛成?反対?