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ギャン☆ドゥの上空でふたたびヘリコプターの轟音が鳴り響く。その音が遠ざかった後、汗ばんだ顔の乃花が店内に姿を見せた。
「店長、ただいま戻りました!」
倉庫から取り寄せたアイテムは、服部が調達した作業員たちによって店内に運び込まれた。
「高根様、陳列は俺に任せてください!」
「あっ、ありがとうございます!」
店長はそう言うと、雑貨品を陳列棚に並べ始めた。店長の手際のよさは、歴戦の100円ショップ店員の凛々しさを漂わせていた。
すると、並べたアイテムが次々と亜空間に消えていく。それからしばらくして、最後に残ったモバイルバッテリーが静かに消滅した。
その瞬間、乃花の胸に確信が宿る。
――もうすぐ与那さんが帰ってくるはず!
その日、ギャン☆ドゥは臨時閉店となっていた。店内にはクラシックの音楽が流れ、特別な空気が漂っている。与那の帰りを待つ宇賀店長と乃花、そしてもうひとり――。
齢四十過ぎの女性がそこにいた。物腰やわらかで整った顔立ちをしており、年齢よりもずっと若く見える。与那の母、安井和音だ。和音の表情には期待と不安が交錯し、そわそわとした様子が見て取れる。
和音は乃花に視線を向け、感謝の言葉を口にした。
「乃花ちゃん、ほんとうにありがとう。わたし、乃花ちゃんが教えてくれなかったら、どうしていいかわからない毎日だったと思う」
乃花はその言葉に力強くうなずき、両拳を握りしめた。
「お母様、与那さんとは今日、再会できるはずですから、もう少しだけ待っていてください」
乃花の言葉には確信が込められていた。
乃花は与那が異世界に転移したことを和音に伝えていた。和音は最初こそ信じられない様子だったが、乃花の言葉が生きる希望となり、与那との再会を信じるようになった。
以来、乃花はたびたび和音に連絡を入れていた。もちろん、与那を射止めるために母を味方につけるという目的もあった。
店長も落ち着かない様子で、ことあるごとに和音に視線を向けていた。
「和音さん、与那が戻ってきたら、一緒におかえりパーティーをやりましょう!」
店長の提案に、和音はおっとりとした微笑みを返す。
「まぁ、お気遣いだけで十分です。わたしは与那が戻ってくれば、それが一番の幸せですから」
「いやいや、俺も与那の帰りを待っているひとりですから。ぜひ、パーティーのセッティングはこの俺に任せてください!」
「そうですか、それならお言葉に甘えたいと思いますけど……」
ぐいぐいと迫ってくる店長に対し、和音は困惑した表情を浮かべた。
じつは、与那に似た顔立ちの和音は、店長のストライクゾーンのど真ん中だった。
そして、「男なら直球勝負だ!」とひそかに意気込む店長の思惑を、まだ誰も知る由もない。
突然、店の中央に黄金色の光が灯り始めた。その光は次第に大きくなり、両腕を広げたほどの幅まで増大していく。最後にぱあっと光ったと思うと、光は床に落下して砕け散り、消えた。
光の中から、膝を抱き抱えた恰好で与那が姿を現した。与那は落ちた勢いで尻もちをつき、「いてっ!」と呻き声をあげた。
「与那ああああああああああああっ! もうっ、心配したんだから!」
真っ先に与那に飛びついたのは、母の和音だった。母は溢れる愛情を腕に込めて与那を抱擁する。しばらくの間、和音は与那を離そうとはせず、大切なものを取り戻したかのように、その温もりを確かめていた。
それから、店長が与那の背中を豪快に叩き、異世界からの帰還を笑顔で歓迎した。その勢いに与那は思わず前のめりになり、困惑気味に眉をひそめた。
顔を上げると、そんな三人を眺める乃花の姿が目に映る。ふたりの視線が交錯すると、与那は照れたような表情になって頭を掻いた。
「あ……乃花さん。あっちではいろいろありがとう。助かったよ」
いつもと変わらない与那の様子を見て、乃花は安心したように目を細めた。それから、ひだまりのような笑顔を向けて一言、桃色の唇から挨拶を発した。
――わたしたちの世界におかえり、与那さん。
ギャン☆ドゥの上空でふたたびヘリコプターの轟音が鳴り響く。その音が遠ざかった後、汗ばんだ顔の乃花が店内に姿を見せた。
「店長、ただいま戻りました!」
倉庫から取り寄せたアイテムは、服部が調達した作業員たちによって店内に運び込まれた。
「高根様、陳列は俺に任せてください!」
「あっ、ありがとうございます!」
店長はそう言うと、雑貨品を陳列棚に並べ始めた。店長の手際のよさは、歴戦の100円ショップ店員の凛々しさを漂わせていた。
すると、並べたアイテムが次々と亜空間に消えていく。それからしばらくして、最後に残ったモバイルバッテリーが静かに消滅した。
その瞬間、乃花の胸に確信が宿る。
――もうすぐ与那さんが帰ってくるはず!
その日、ギャン☆ドゥは臨時閉店となっていた。店内にはクラシックの音楽が流れ、特別な空気が漂っている。与那の帰りを待つ宇賀店長と乃花、そしてもうひとり――。
齢四十過ぎの女性がそこにいた。物腰やわらかで整った顔立ちをしており、年齢よりもずっと若く見える。与那の母、安井和音だ。和音の表情には期待と不安が交錯し、そわそわとした様子が見て取れる。
和音は乃花に視線を向け、感謝の言葉を口にした。
「乃花ちゃん、ほんとうにありがとう。わたし、乃花ちゃんが教えてくれなかったら、どうしていいかわからない毎日だったと思う」
乃花はその言葉に力強くうなずき、両拳を握りしめた。
「お母様、与那さんとは今日、再会できるはずですから、もう少しだけ待っていてください」
乃花の言葉には確信が込められていた。
乃花は与那が異世界に転移したことを和音に伝えていた。和音は最初こそ信じられない様子だったが、乃花の言葉が生きる希望となり、与那との再会を信じるようになった。
以来、乃花はたびたび和音に連絡を入れていた。もちろん、与那を射止めるために母を味方につけるという目的もあった。
店長も落ち着かない様子で、ことあるごとに和音に視線を向けていた。
「和音さん、与那が戻ってきたら、一緒におかえりパーティーをやりましょう!」
店長の提案に、和音はおっとりとした微笑みを返す。
「まぁ、お気遣いだけで十分です。わたしは与那が戻ってくれば、それが一番の幸せですから」
「いやいや、俺も与那の帰りを待っているひとりですから。ぜひ、パーティーのセッティングはこの俺に任せてください!」
「そうですか、それならお言葉に甘えたいと思いますけど……」
ぐいぐいと迫ってくる店長に対し、和音は困惑した表情を浮かべた。
じつは、与那に似た顔立ちの和音は、店長のストライクゾーンのど真ん中だった。
そして、「男なら直球勝負だ!」とひそかに意気込む店長の思惑を、まだ誰も知る由もない。
突然、店の中央に黄金色の光が灯り始めた。その光は次第に大きくなり、両腕を広げたほどの幅まで増大していく。最後にぱあっと光ったと思うと、光は床に落下して砕け散り、消えた。
光の中から、膝を抱き抱えた恰好で与那が姿を現した。与那は落ちた勢いで尻もちをつき、「いてっ!」と呻き声をあげた。
「与那ああああああああああああっ! もうっ、心配したんだから!」
真っ先に与那に飛びついたのは、母の和音だった。母は溢れる愛情を腕に込めて与那を抱擁する。しばらくの間、和音は与那を離そうとはせず、大切なものを取り戻したかのように、その温もりを確かめていた。
それから、店長が与那の背中を豪快に叩き、異世界からの帰還を笑顔で歓迎した。その勢いに与那は思わず前のめりになり、困惑気味に眉をひそめた。
顔を上げると、そんな三人を眺める乃花の姿が目に映る。ふたりの視線が交錯すると、与那は照れたような表情になって頭を掻いた。
「あ……乃花さん。あっちではいろいろありがとう。助かったよ」
いつもと変わらない与那の様子を見て、乃花は安心したように目を細めた。それから、ひだまりのような笑顔を向けて一言、桃色の唇から挨拶を発した。
――わたしたちの世界におかえり、与那さん。



