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『【朗報】父親の部下に拉致され3カ月間行方不明の社長令嬢、無事保護される!』
突然、現実世界に舞い戻った乃花に、日本中のメディアは驚愕し、乃花をニュースの主役に仕立てようと躍起になった。けれど、乃花はカメラの前に姿を現すことはなかった。乃花の顔が世間に知られれば、メディアの追跡が始まり、与那を探し出す妨げになると懸念したからだ。
乃花は静かな決意を胸に秘め、与那の探索を開始した。執事の服部を呼びつけ、熱のこもった声で命じる。
「服部、探してほしい人がいるの。『安井与那』という名前の青年よ。100円ショップのどこかにいるはずだから、日本中の100円ショップをくまなく捜索して!」
服部は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐにその表情を消し去り、普段の冷静な態度で応じた。
「はっ、日本中でございますか。しかし、その青年にいったいなんの用で?」
乃花の無理難題は服部にとって日常茶飯事だった。服部はプロフェッショナルな執事として、どんな命令にも動じることはない。
「わたしとしたことが、別れの際にうっかり聞き忘れてしまったのよ!」
乃花の声には、恥じらいと焦りが混じっていた。服部はかすかに微笑みながら、彼女の言葉を受け止めた。
「ああ、お嬢様がおっしゃっていた、異世界の救世主とやらですね」
服部は唯一、乃花の異世界転移を知る人物である。最初は空想の物語かと思っていたが、スマホでの連絡があったことと、土産話のリアリティから信じざるを得なかった。
「でも、簡単に会えないからこそ、再会した時の喜びはひとしおというものなの!」
「どうせ探すのはこの服部でございますがね………はぁ」
「今、ため息をついたわね、そうでしょう!?」
「いえ、これはお嬢様の執念に対する感嘆の吐息でございます。さぁ、この服部、老体に鞭打って頑張りますぞぉ~!」
乃花は血眼になって服部に与那を探させた。有能執事である服部の捜索により、ついに『安井与那』は発見された。乃花は喜びのあまり小躍りした。
「しかしお嬢様、ほんとうにこれでよろしいのでございますか? お嬢様ほどの高貴な身分の方が、あの青年に近づくために、100円ショップでアルバイトなど」
服部の憂慮をよそに、乃花は意気揚々と返答する。
「構わないわ。お父様には社会勉強の一環だと伝えておいて」
その熱意に圧され、服部はしかたなく乃花の計画に同意した。そうして乃花は、バイト生として店のスタッフに加わることに成功する。
そして、ついに与那との再会を果たす日が訪れた。
乃花は棚の陰に身を隠し、その瞬間を待ち構えた。視線の先には中年の店長がいて、若い男性と会話を交わしている。
「与那ぁー、今日からバイトがひとり入るからなー」
「へー、100円ショップは経験者ですか?」
「いや、ズブの素人だ。だから丁重に教えてやってくれよー」
「はいー、ブスの素人っすね。了解しましたー」
その聞き慣れた声は、乃花の耳に心地よく響いてきた。胸は高鳴り、熱い血液が全身を駆け巡る。
店長が乃花に手招きし、その時が訪れた。
乃花は棚の陰から軽やかに姿を現した。顔には気品漂う満面の笑みが浮かんでいる。
――お待たせ、わたしの運命の人。
乃花は店内が一瞬、静寂に包まれたような気がした。ありふれた店の一角で、時空を越えたふたりの視線が交錯した。
『【朗報】父親の部下に拉致され3カ月間行方不明の社長令嬢、無事保護される!』
突然、現実世界に舞い戻った乃花に、日本中のメディアは驚愕し、乃花をニュースの主役に仕立てようと躍起になった。けれど、乃花はカメラの前に姿を現すことはなかった。乃花の顔が世間に知られれば、メディアの追跡が始まり、与那を探し出す妨げになると懸念したからだ。
乃花は静かな決意を胸に秘め、与那の探索を開始した。執事の服部を呼びつけ、熱のこもった声で命じる。
「服部、探してほしい人がいるの。『安井与那』という名前の青年よ。100円ショップのどこかにいるはずだから、日本中の100円ショップをくまなく捜索して!」
服部は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐにその表情を消し去り、普段の冷静な態度で応じた。
「はっ、日本中でございますか。しかし、その青年にいったいなんの用で?」
乃花の無理難題は服部にとって日常茶飯事だった。服部はプロフェッショナルな執事として、どんな命令にも動じることはない。
「わたしとしたことが、別れの際にうっかり聞き忘れてしまったのよ!」
乃花の声には、恥じらいと焦りが混じっていた。服部はかすかに微笑みながら、彼女の言葉を受け止めた。
「ああ、お嬢様がおっしゃっていた、異世界の救世主とやらですね」
服部は唯一、乃花の異世界転移を知る人物である。最初は空想の物語かと思っていたが、スマホでの連絡があったことと、土産話のリアリティから信じざるを得なかった。
「でも、簡単に会えないからこそ、再会した時の喜びはひとしおというものなの!」
「どうせ探すのはこの服部でございますがね………はぁ」
「今、ため息をついたわね、そうでしょう!?」
「いえ、これはお嬢様の執念に対する感嘆の吐息でございます。さぁ、この服部、老体に鞭打って頑張りますぞぉ~!」
乃花は血眼になって服部に与那を探させた。有能執事である服部の捜索により、ついに『安井与那』は発見された。乃花は喜びのあまり小躍りした。
「しかしお嬢様、ほんとうにこれでよろしいのでございますか? お嬢様ほどの高貴な身分の方が、あの青年に近づくために、100円ショップでアルバイトなど」
服部の憂慮をよそに、乃花は意気揚々と返答する。
「構わないわ。お父様には社会勉強の一環だと伝えておいて」
その熱意に圧され、服部はしかたなく乃花の計画に同意した。そうして乃花は、バイト生として店のスタッフに加わることに成功する。
そして、ついに与那との再会を果たす日が訪れた。
乃花は棚の陰に身を隠し、その瞬間を待ち構えた。視線の先には中年の店長がいて、若い男性と会話を交わしている。
「与那ぁー、今日からバイトがひとり入るからなー」
「へー、100円ショップは経験者ですか?」
「いや、ズブの素人だ。だから丁重に教えてやってくれよー」
「はいー、ブスの素人っすね。了解しましたー」
その聞き慣れた声は、乃花の耳に心地よく響いてきた。胸は高鳴り、熱い血液が全身を駆け巡る。
店長が乃花に手招きし、その時が訪れた。
乃花は棚の陰から軽やかに姿を現した。顔には気品漂う満面の笑みが浮かんでいる。
――お待たせ、わたしの運命の人。
乃花は店内が一瞬、静寂に包まれたような気がした。ありふれた店の一角で、時空を越えたふたりの視線が交錯した。



