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与那はカラフルな星雲が渦を巻く、不思議な空間に浮かんでいた。見覚えがある場所――そう、ユーグリッドに転移した時、神に呼ばれて連れられた亜空間だ。死の危機に瀕した瞬間、神に助けられたに違いない。
すると目の前に派手なローブに身を包んだ神が現れた。頭には「百」という漢字が刻まれた冠が輝いている。憔悴した様子でひざまずき、ひたいから汗を滴らせていた。
「ギャ、ギャンドゥ神、ですか!?」
おずおずと持ち上げた顔は、威厳と自信に満ち溢れるギャンドゥ神の表情ではなかった。
「安井与那よ、おぬしにはあまりにも重い使命を背負わせてしまい申しわけない。まさかダイゾーンが暴走するとは、想定外の事態だ」
ギャンドゥ神は呵責の表情で歯ぎしりをしている。神が関与した戦いを人間が制するなど、絶望的なことだと語るかのように。
それでも与那は勝利への希望を捨てていない。神に向かって真剣な表情で尋ねる。
「ギャンドゥ神よ、どうかダイゾーン神を鎮める方法を教えてください」
「ぐ……ぐむぅ……」
ギャンドゥ神は葛藤するような苦悶の声をあげた。すると、ギャンドゥ神の隣に、もう一柱の神が姿を現した。
艶めいたパープルの長髪に、彫刻のように整った顔立ち、そして艶めかしい曲線美を描く体躯の女神。張りつめた雰囲気の表情で、諭すように与那に言う。
「それはできないわ。神の行為に対する戦略を口にすることは、神界で禁じられている現世への干渉になってしまうの。神にとっての重罪よ!」
その声は、乃花とともに聞いた女神ゼーリアのものに違いなかった。
けれど、ギャンドゥ神はゆっくりと首を横に振って立ち上がる。まるで覚悟を決めたかのような雰囲気を醸していた。
「私には救世主をこの世界に呼び込んだ責任がある。だから使命を果たす責任は、私も背負わなければならない」
「でも……でもっ!」
ギャンドゥ神の決心に、ゼーリア神の瞳が不安定に揺れた。
「彼ならば、神の暴走を食い止めることができると私は信じている。なぜなら私は、彼の偉大なる活躍を見てきたのだから」
「やめてギャンドゥ! そんなことをしたら、あなたは――」
「構わん。神として一度くらい、信じた人間と一蓮托生というのも悪くない」
神との一蓮托生と聞いて、与那は思わず口元を引き締める。ギャンドゥ神は立ち上がり、与那と向かいあう。与那もギャンドゥ神と見つめあった。
「よいか、安井与那――いや、異世界の救世主よ」
「はい」
「森羅万象の神であるダイゾーンは、あらゆる雑貨品がさまざまな色で輝ける未来を願っている。もしも希望に満ちた未来を描けるのならば、人間に対する絶望を拭い去ることができるかもしれない」
「さまざまな色の、希望に満ちた未来……ですか?」
「ああ、そうだ」
与那はギャンドゥ神の意図することを咀嚼し呑み込もうとする。
ダイゾーン神は姿を見せずとも、魔物を操り帝国を滅ぼすことができたはず。けれど、アルトゥスの肉体を借りて姿を見せたのには、なんらかの意味があるに違いない――与那はそう感じていた。
それはダイゾーン神がまだ、人間に対して期待を抱いているからではないか。人間の育てた文明が、森羅万象にとっての楽園に繋がる可能性を捨てていないからではないか。
それならこの戦いは、神の人間に対する、最後の審判なのではないか――。
与那の表情は、確固たる決意で満たされる。
「わかりました。最善を尽くします。100円ショップ店員の意地と誇りにかけて!」
「了承したか。では、雑貨品を用いた最高の創意工夫を、ダイゾーンに見せてやるがよい!」
「はいっ!」
すると与那の身体は黄金色に光り輝き、星雲に囲まれた亜空間からふっと消滅した。
救世主を見送ったギャンドゥ神がぽつりとこぼす。
「まさか、神の不祥事の始末を人間の救世主に託すことになるとは……」
そうつぶやいたギャンドゥ神の横顔を、ゼーリア神はずっと見上げていた。
まるで永訣の覚悟を受け容れようとするかのような、ひどく寂しそうな表情で。
与那はカラフルな星雲が渦を巻く、不思議な空間に浮かんでいた。見覚えがある場所――そう、ユーグリッドに転移した時、神に呼ばれて連れられた亜空間だ。死の危機に瀕した瞬間、神に助けられたに違いない。
すると目の前に派手なローブに身を包んだ神が現れた。頭には「百」という漢字が刻まれた冠が輝いている。憔悴した様子でひざまずき、ひたいから汗を滴らせていた。
「ギャ、ギャンドゥ神、ですか!?」
おずおずと持ち上げた顔は、威厳と自信に満ち溢れるギャンドゥ神の表情ではなかった。
「安井与那よ、おぬしにはあまりにも重い使命を背負わせてしまい申しわけない。まさかダイゾーンが暴走するとは、想定外の事態だ」
ギャンドゥ神は呵責の表情で歯ぎしりをしている。神が関与した戦いを人間が制するなど、絶望的なことだと語るかのように。
それでも与那は勝利への希望を捨てていない。神に向かって真剣な表情で尋ねる。
「ギャンドゥ神よ、どうかダイゾーン神を鎮める方法を教えてください」
「ぐ……ぐむぅ……」
ギャンドゥ神は葛藤するような苦悶の声をあげた。すると、ギャンドゥ神の隣に、もう一柱の神が姿を現した。
艶めいたパープルの長髪に、彫刻のように整った顔立ち、そして艶めかしい曲線美を描く体躯の女神。張りつめた雰囲気の表情で、諭すように与那に言う。
「それはできないわ。神の行為に対する戦略を口にすることは、神界で禁じられている現世への干渉になってしまうの。神にとっての重罪よ!」
その声は、乃花とともに聞いた女神ゼーリアのものに違いなかった。
けれど、ギャンドゥ神はゆっくりと首を横に振って立ち上がる。まるで覚悟を決めたかのような雰囲気を醸していた。
「私には救世主をこの世界に呼び込んだ責任がある。だから使命を果たす責任は、私も背負わなければならない」
「でも……でもっ!」
ギャンドゥ神の決心に、ゼーリア神の瞳が不安定に揺れた。
「彼ならば、神の暴走を食い止めることができると私は信じている。なぜなら私は、彼の偉大なる活躍を見てきたのだから」
「やめてギャンドゥ! そんなことをしたら、あなたは――」
「構わん。神として一度くらい、信じた人間と一蓮托生というのも悪くない」
神との一蓮托生と聞いて、与那は思わず口元を引き締める。ギャンドゥ神は立ち上がり、与那と向かいあう。与那もギャンドゥ神と見つめあった。
「よいか、安井与那――いや、異世界の救世主よ」
「はい」
「森羅万象の神であるダイゾーンは、あらゆる雑貨品がさまざまな色で輝ける未来を願っている。もしも希望に満ちた未来を描けるのならば、人間に対する絶望を拭い去ることができるかもしれない」
「さまざまな色の、希望に満ちた未来……ですか?」
「ああ、そうだ」
与那はギャンドゥ神の意図することを咀嚼し呑み込もうとする。
ダイゾーン神は姿を見せずとも、魔物を操り帝国を滅ぼすことができたはず。けれど、アルトゥスの肉体を借りて姿を見せたのには、なんらかの意味があるに違いない――与那はそう感じていた。
それはダイゾーン神がまだ、人間に対して期待を抱いているからではないか。人間の育てた文明が、森羅万象にとっての楽園に繋がる可能性を捨てていないからではないか。
それならこの戦いは、神の人間に対する、最後の審判なのではないか――。
与那の表情は、確固たる決意で満たされる。
「わかりました。最善を尽くします。100円ショップ店員の意地と誇りにかけて!」
「了承したか。では、雑貨品を用いた最高の創意工夫を、ダイゾーンに見せてやるがよい!」
「はいっ!」
すると与那の身体は黄金色に光り輝き、星雲に囲まれた亜空間からふっと消滅した。
救世主を見送ったギャンドゥ神がぽつりとこぼす。
「まさか、神の不祥事の始末を人間の救世主に託すことになるとは……」
そうつぶやいたギャンドゥ神の横顔を、ゼーリア神はずっと見上げていた。
まるで永訣の覚悟を受け容れようとするかのような、ひどく寂しそうな表情で。



