着陸すると、ミグは両足を折り曲げて地面に伏せた。与那は飛び降りて乃花の元に駆け寄る。
「乃花さん! メイサを救出したよ!」
息を切らしながら報告すると、乃花は笑顔で応えた。
「さすが与那さん、やったわね! メイサちゃん、無事でよかった!」
「でも、他のエルフたちはどうなったんだ?」
与那が心配そうに尋ねると、乃花は親指を立ててウインクした。
「安心して。地下道に隠れてもらっているよ」
ふたりの事情を知らないメイサは、目を丸くして視線を往復させる。
「ヨナ、なんで妃と仲良くなっているのよ」
「ああ、乃花さんは俺と同じ世界から来た転移者だってことが判明したんだ。最初は俺のことを暗殺者と間違えて始末しようと思っていたみたいだけどさ」
「勘違いって怖いね、てへっ!」
乃花は舌を出して肩をすくめたが、メイサは物々しい会話に表情をこわばらせた。
「乃花さん、それよりも大変なことになった。魔物の群れがこちらに向かっているんだ」
「えっ? あの恐竜みたいな奴じゃなくて?」
乃花が上空を見上げる。真紅の機動土器とワイバーンの戦闘は続いている。
「いや、ワイバーンだけじゃない。ゴブリンとオーガの群れが街に向かってきているんだ。きっと神の仕業だよ」
乃花はぎょっと目を丸くし、頬に一筋の汗を滴らせる。
「だから乃花さんは兵士たちを集めてゲートを守るよう、指令を出してほしい」
与那がそう頼むと、乃花はきゅっと口元を引き結んだ。
「わかったわ。でも、今の帝国の戦力っていえば、門を護る機動土器4体と、一部の兵士だけだわ。あとはアルトゥスが気合を入れれば――」
「アルトゥスはもう魔力切れよ。戦う力は残っていないみたい」
メイサは乃花の希望的観測を一蹴した。
「ったく、あのエロボケ帝王め。結局、役には立たなかったのね」
乃花は両腕を組んで、容赦なくアルトゥスを蔑む。
「だけど、あの機動土器アルティメットがワイバーンを殲滅したら、オーガたちを迎撃する戦力になると思う。あとは俺たちがいるじゃないか」
与那はミグに視線を向ける。ミグは大きくうなずいた。
「ミグだって戦力なんですからね!」
その時、息をきらしたルーザーが駆け寄ってきた。
「ルーザー!」
「はぁはぁ……兄貴がペガサスに乗っているのが見えたんで、急いで追ってきたんすよ。でもなんでペガサスなんかに!?」
「ミグ様が契約を解除されて真の姿に戻ったんだ。それに、帝王に連れ去られたメイサを救出したところなんだよ」
与那が説明するとルーザーは驚愕した。
「まさか拙者が不在の間にそんな事態になっていたなんて。拙者、まるで物語の脇役みたいじゃないっすか!」
うろたえるルーザーに乃花が語りかける。
「あなた、与那さんの相棒なのね。よろしく!」
「へ、よろしく……って、な、なんで妃がここに!?」
そばにいた女性が乃花だと気づき、ルーザーの表情が凍りついた。
すると乃花はすかさず与那の腕に自分の腕を絡め、「わたしたち、運命で結ばれていたみたいなの!」と言って照れた顔をする。与那はどきりと胸の内を躍らせる。その姿にルーザーは顎を外す勢いで大口を開けた。
「兄貴、まさか人妻に手を出したんっすか!?」
「待て、それは語弊がある。乃花さんが言っているのは、俺たちは同じ世界線から転移した仲間ってことだよ。しかも彼女は妃のふりをしていただけだ」
「あっ、そんな運命的な関係だったんっすか! それならば納得っす!」
ルーザーは心底安堵した様子だったが、かたやメイサは頬を赤らめて怒り顔。
「だったら腕を絡めてイチャイチャする必要ないでしょーがっ!!」
「メイサ、なんでそんなに怒っているんだよ。乃花さんは今や大切な仲間だ」
「仲間なら並んで拳を突きあげるとか、かっこよく仲間っぽいポーズに、し・て・く・だ・さーい!」
与那は、なんでメイサは怒っているんだろうと不思議そうな顔をする。自身が火種であることには気づいていなかった。
「じゃあ、わたしは役立たずのアルトゥスにかわって軍の指揮を執らなくちゃ!」
乃花は絡めた腕をほどいて駆け出そうとする。与那の活躍に刺激を受けたのか、いつのまにか世界を救うという使命感に後押しされていた。
「ちょっと待って!」
与那は乃花を引き止め、ポケットに手を突っ込む。
じゃじゃん! 『100円メガホン ボリュームブラスター!』
「これを使ってくれないか」
乃花は取り出したメガホンを軽やかに受け取る。
「なるほど、100円と言っても名前は高級品みたいでかっこいいわね。ありがと!」
乃花は全速力で宮殿前の広場に駆けてゆく。すると、街では見張り台の兵士が皆に向かって叫んでいた。
「魔物がいるぞォォォ! それも数えきれないほどだァァァ!」
兵士は迫りくるオーガやゴブリンに気づいたようだ。街はざわめき、恐怖におびえる人たちの悲鳴が飛び交う。
乃花はメガホンを構え、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「皆の者よ! 帝王アルトゥスにかわり、わたしが命ずる! 戦える者は全員、ゲートに集い、街に迫る魔物を迎撃せよ!」
増幅された声が兵士たちの耳に届く。兵士たちの視線が乃花に集まった。
「おおっ、妃様が指揮を執っておられる!」
「我々が戦わずして誰が帝国を護るのだ!」
声の主が『ノハナ』だと悟った兵士たちの表情は覇気で満たされた。『ノハナ』はその若さと美貌のためか、予想外に支持者が多かった。
見上げるとアルティメットはほとんどのワイバーンを駆逐し、残すところあと数体となっていた。
――よし、空の戦いは有利みたい。あとは地上戦ね。
ゲートが重厚な音を響かせながら開く。弓矢や剣を携えた兵士が街の外に流れ出し、平原で隊列を組む。
兵士たちに続き、機動土器が4体、重厚な足音を響かせながら門外へと歩み出す。
魔物の群れは街のそばまで迫っている。魔物たちは皆、焦点の定まらない不気味な目をしていた。
「矢を放てェェェ!!」
乃花がメガホンを使って号令を出すと、弓矢部隊がいっせいに矢を放った。空を切る音とともに、無数の矢がオーガやゴブリンの群れに降り注ぐ。矢が命中するたびに魔物の悲鳴が響き渡った。
「全員、突き進めェェェ!」
「オオオォォォ!!」
兵士たちは剣を抜き、盾を構えて前進を開始した。機動土器もまた、地響きを立てながら敵の群れに突進する。強靭な機械仕掛けの腕が振り下ろされるたびに、オーガやゴブリンが吹き飛ばされ砂埃が舞う。
「ラスカ帝国は我々が守るんだ!」
兵士たちは声を合わせて叫び、敵に立ち向かう。ゴブリンの強烈な打撃を盾で受け止め、反撃の刀を浴びせる。オーガの巨大な棍棒が振り下ろされるが、兵士たちは巧みにかわし、オーガの攻撃をかく乱する。隙を突いて機動土器が金槌を振り上げ、オーガの脳天を粉砕した。地鳴りのような雄叫びが黒霧の支配する空に響く。
神の天誅といえる魔物の侵略に、兵士たちは必死の抗いを見せていた。
「乃花さん! メイサを救出したよ!」
息を切らしながら報告すると、乃花は笑顔で応えた。
「さすが与那さん、やったわね! メイサちゃん、無事でよかった!」
「でも、他のエルフたちはどうなったんだ?」
与那が心配そうに尋ねると、乃花は親指を立ててウインクした。
「安心して。地下道に隠れてもらっているよ」
ふたりの事情を知らないメイサは、目を丸くして視線を往復させる。
「ヨナ、なんで妃と仲良くなっているのよ」
「ああ、乃花さんは俺と同じ世界から来た転移者だってことが判明したんだ。最初は俺のことを暗殺者と間違えて始末しようと思っていたみたいだけどさ」
「勘違いって怖いね、てへっ!」
乃花は舌を出して肩をすくめたが、メイサは物々しい会話に表情をこわばらせた。
「乃花さん、それよりも大変なことになった。魔物の群れがこちらに向かっているんだ」
「えっ? あの恐竜みたいな奴じゃなくて?」
乃花が上空を見上げる。真紅の機動土器とワイバーンの戦闘は続いている。
「いや、ワイバーンだけじゃない。ゴブリンとオーガの群れが街に向かってきているんだ。きっと神の仕業だよ」
乃花はぎょっと目を丸くし、頬に一筋の汗を滴らせる。
「だから乃花さんは兵士たちを集めてゲートを守るよう、指令を出してほしい」
与那がそう頼むと、乃花はきゅっと口元を引き結んだ。
「わかったわ。でも、今の帝国の戦力っていえば、門を護る機動土器4体と、一部の兵士だけだわ。あとはアルトゥスが気合を入れれば――」
「アルトゥスはもう魔力切れよ。戦う力は残っていないみたい」
メイサは乃花の希望的観測を一蹴した。
「ったく、あのエロボケ帝王め。結局、役には立たなかったのね」
乃花は両腕を組んで、容赦なくアルトゥスを蔑む。
「だけど、あの機動土器アルティメットがワイバーンを殲滅したら、オーガたちを迎撃する戦力になると思う。あとは俺たちがいるじゃないか」
与那はミグに視線を向ける。ミグは大きくうなずいた。
「ミグだって戦力なんですからね!」
その時、息をきらしたルーザーが駆け寄ってきた。
「ルーザー!」
「はぁはぁ……兄貴がペガサスに乗っているのが見えたんで、急いで追ってきたんすよ。でもなんでペガサスなんかに!?」
「ミグ様が契約を解除されて真の姿に戻ったんだ。それに、帝王に連れ去られたメイサを救出したところなんだよ」
与那が説明するとルーザーは驚愕した。
「まさか拙者が不在の間にそんな事態になっていたなんて。拙者、まるで物語の脇役みたいじゃないっすか!」
うろたえるルーザーに乃花が語りかける。
「あなた、与那さんの相棒なのね。よろしく!」
「へ、よろしく……って、な、なんで妃がここに!?」
そばにいた女性が乃花だと気づき、ルーザーの表情が凍りついた。
すると乃花はすかさず与那の腕に自分の腕を絡め、「わたしたち、運命で結ばれていたみたいなの!」と言って照れた顔をする。与那はどきりと胸の内を躍らせる。その姿にルーザーは顎を外す勢いで大口を開けた。
「兄貴、まさか人妻に手を出したんっすか!?」
「待て、それは語弊がある。乃花さんが言っているのは、俺たちは同じ世界線から転移した仲間ってことだよ。しかも彼女は妃のふりをしていただけだ」
「あっ、そんな運命的な関係だったんっすか! それならば納得っす!」
ルーザーは心底安堵した様子だったが、かたやメイサは頬を赤らめて怒り顔。
「だったら腕を絡めてイチャイチャする必要ないでしょーがっ!!」
「メイサ、なんでそんなに怒っているんだよ。乃花さんは今や大切な仲間だ」
「仲間なら並んで拳を突きあげるとか、かっこよく仲間っぽいポーズに、し・て・く・だ・さーい!」
与那は、なんでメイサは怒っているんだろうと不思議そうな顔をする。自身が火種であることには気づいていなかった。
「じゃあ、わたしは役立たずのアルトゥスにかわって軍の指揮を執らなくちゃ!」
乃花は絡めた腕をほどいて駆け出そうとする。与那の活躍に刺激を受けたのか、いつのまにか世界を救うという使命感に後押しされていた。
「ちょっと待って!」
与那は乃花を引き止め、ポケットに手を突っ込む。
じゃじゃん! 『100円メガホン ボリュームブラスター!』
「これを使ってくれないか」
乃花は取り出したメガホンを軽やかに受け取る。
「なるほど、100円と言っても名前は高級品みたいでかっこいいわね。ありがと!」
乃花は全速力で宮殿前の広場に駆けてゆく。すると、街では見張り台の兵士が皆に向かって叫んでいた。
「魔物がいるぞォォォ! それも数えきれないほどだァァァ!」
兵士は迫りくるオーガやゴブリンに気づいたようだ。街はざわめき、恐怖におびえる人たちの悲鳴が飛び交う。
乃花はメガホンを構え、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「皆の者よ! 帝王アルトゥスにかわり、わたしが命ずる! 戦える者は全員、ゲートに集い、街に迫る魔物を迎撃せよ!」
増幅された声が兵士たちの耳に届く。兵士たちの視線が乃花に集まった。
「おおっ、妃様が指揮を執っておられる!」
「我々が戦わずして誰が帝国を護るのだ!」
声の主が『ノハナ』だと悟った兵士たちの表情は覇気で満たされた。『ノハナ』はその若さと美貌のためか、予想外に支持者が多かった。
見上げるとアルティメットはほとんどのワイバーンを駆逐し、残すところあと数体となっていた。
――よし、空の戦いは有利みたい。あとは地上戦ね。
ゲートが重厚な音を響かせながら開く。弓矢や剣を携えた兵士が街の外に流れ出し、平原で隊列を組む。
兵士たちに続き、機動土器が4体、重厚な足音を響かせながら門外へと歩み出す。
魔物の群れは街のそばまで迫っている。魔物たちは皆、焦点の定まらない不気味な目をしていた。
「矢を放てェェェ!!」
乃花がメガホンを使って号令を出すと、弓矢部隊がいっせいに矢を放った。空を切る音とともに、無数の矢がオーガやゴブリンの群れに降り注ぐ。矢が命中するたびに魔物の悲鳴が響き渡った。
「全員、突き進めェェェ!」
「オオオォォォ!!」
兵士たちは剣を抜き、盾を構えて前進を開始した。機動土器もまた、地響きを立てながら敵の群れに突進する。強靭な機械仕掛けの腕が振り下ろされるたびに、オーガやゴブリンが吹き飛ばされ砂埃が舞う。
「ラスカ帝国は我々が守るんだ!」
兵士たちは声を合わせて叫び、敵に立ち向かう。ゴブリンの強烈な打撃を盾で受け止め、反撃の刀を浴びせる。オーガの巨大な棍棒が振り下ろされるが、兵士たちは巧みにかわし、オーガの攻撃をかく乱する。隙を突いて機動土器が金槌を振り上げ、オーガの脳天を粉砕した。地鳴りのような雄叫びが黒霧の支配する空に響く。
神の天誅といえる魔物の侵略に、兵士たちは必死の抗いを見せていた。



