「た……高根さんが飛んでいるゥゥゥ!?」

与那は地下道からほうきに乗って飛び出してきた乃花を見つけ、驚きで開いた口がふさがらなかった。乃花の顔はおかしなほどに焦っていて、けっして彼女が空を飛べる魔女なのではないのだと物語っていた。

操縦不可となったほうきは、ばさりと木の枝に引っかかり、乃花の体は慣性の法則で投げ出された。草むらのなかに背中から落下し、「むぎゅえっ!」と変なうめき声を発する。

それから、乃花はまったく動かなくなった。

与那はおそるおそる近づき、乃花の顔をのぞき込む。乗り物酔いしたような蒼白の顔で、ひたいから血が滴り落ちている。目が薄く開いているようにも見えた。

――まさか、死んだのか?

呼吸を確かめようと手を顔の前にかざす。その瞬間――乃花の目がかっと見開いた。

「わあっ!」

驚いて身を引こうとしたが、時すでに遅く、与那は乃花にしっかりと手を掴まれていた。まるで飛んでいる蝶を捕まえるカマキリのような切れ味で。

乃花は憔悴する与那を見上げ、血の滴る顔のまま、口を三日月状にしならせた。

「ヨナさん、ついに捕まえたああああァァァ~~~~」

「ひっ! ひいいいいいい! 薄目だったのかぁぁぁ!」

そのメンヘラじみた表情は、ホラー映画さながらの恐怖を与那に抱かせたのであった。