ルーザーと与那は、街の中をひたすら駆け抜けていた。宮殿からできるだけ遠くへ、けっして捕まらないように。次第に昇る太陽が照らす石畳に、ふたりの全力の足音が響く。
「メイサがぁぁぁ! メイサがぁぁぁ! 俺が油断したばっかりにぃぃぃ!」
与那の放つ悲痛の叫びが空気を震わせる。
「兄貴、メイサ殿の犠牲に報いるためにも、逃げて隠れて、来たるべきチャンスに備えましょう!」
ルーザーが必死に与那を励ました。けれど一方、バックパックにすっぽりと埋まっているミグは、呆れた顔で与那を蔑む。
「まったく、うるさいことこのうえない救世主ですね。救う相手に救われていたらほーんと、世話ないですよねぇ~」
「言うなぁぁぁ、この偽物ペンギンが!」
行き場のない怒りをミグにぶつけると、ミグのこめかみに十字のしわが深々と刻み込まれる。
「あー! この崇高な幻獣に向かってひどい言いようですね! そっちこそ100円なんとかがなければ無能なくせに!」
「そんなのわかっているよ! どうせ俺はノースキルで死に損ないでヘタレで社畜で奴隷で肝心な場面で墓穴を掘っちまう、無能の極みのバカ店員だあああ!」
与那は己の無力さ、不甲斐なさに打ちひしがれてボロボロと涙をこぼしていた。ルーザーはいたたまれない顔をしている。
「兄貴って、普段はノリノリで『じゃじゃん!』とか言っているのに、落ちる時の勢いは半端ないっすね。まさに真っ逆さまっす」
「穴があったらその勢いのままずっぽり入りてえええ!」
街を抜けると古びた民家が建ち並ぶ住宅街が広がっていた。 その一角に、雑草が生い茂る荒れた広場があった。そこには石を積み上げて作られた丸い入口がある。地下道へと続いているようだ。
「ほら、あそこに穴があったっすよ。兄貴の望み通り、あの穴に入って隠れましょう」
地下道に身を滑り込ませたところで足を止める。息を整えたルーザーが同情の言葉をかけた。
「まあ、兄貴が悔しがるのも無理ないっす。なにせ、嫁が連れ去られたんすから」
「嫁とか言うなァァァ! 恥ずかしいだろうがァァァ!」
「兄貴、そのツンデレな態度は愛を認めてません?」
「認めてねェェェ!!!」
与那は顔を真っ赤にして必死に否定する。
けれど、思えばこの世界に落とされてから、メイサは常に与那のそばにいた。メイサという相棒を奪われた与那は、まるで支柱を失った枯れ木のように心が折れそうになっていた。メイサが異世界で生きる不安を和らげていたことを、今さらながら気づかされた。
「ううう……ちくしょう、俺のメイサを返せェェェェェ!」
その時、不意にやわらかな感触が左頬に触れた。その慈しむような優しい指先の感触は、エロフ反射痕を通じたメイサからのメッセージに違いない。
――ヨナ、あたしは大丈夫だよ。
そう慰められているような気がした。
メイサとの繋がりを確かめた与那は、涙を拭って左頬に自分の手を重ね、ぎゅっと唇を引き結んだ。
――救世主の俺が弱気になってどうするんだ! 俺には100円アイテムがついているじゃないか!
――メイサ、必ずおまえを助けるから。信じて待っていてくれ!
「メイサがぁぁぁ! メイサがぁぁぁ! 俺が油断したばっかりにぃぃぃ!」
与那の放つ悲痛の叫びが空気を震わせる。
「兄貴、メイサ殿の犠牲に報いるためにも、逃げて隠れて、来たるべきチャンスに備えましょう!」
ルーザーが必死に与那を励ました。けれど一方、バックパックにすっぽりと埋まっているミグは、呆れた顔で与那を蔑む。
「まったく、うるさいことこのうえない救世主ですね。救う相手に救われていたらほーんと、世話ないですよねぇ~」
「言うなぁぁぁ、この偽物ペンギンが!」
行き場のない怒りをミグにぶつけると、ミグのこめかみに十字のしわが深々と刻み込まれる。
「あー! この崇高な幻獣に向かってひどい言いようですね! そっちこそ100円なんとかがなければ無能なくせに!」
「そんなのわかっているよ! どうせ俺はノースキルで死に損ないでヘタレで社畜で奴隷で肝心な場面で墓穴を掘っちまう、無能の極みのバカ店員だあああ!」
与那は己の無力さ、不甲斐なさに打ちひしがれてボロボロと涙をこぼしていた。ルーザーはいたたまれない顔をしている。
「兄貴って、普段はノリノリで『じゃじゃん!』とか言っているのに、落ちる時の勢いは半端ないっすね。まさに真っ逆さまっす」
「穴があったらその勢いのままずっぽり入りてえええ!」
街を抜けると古びた民家が建ち並ぶ住宅街が広がっていた。 その一角に、雑草が生い茂る荒れた広場があった。そこには石を積み上げて作られた丸い入口がある。地下道へと続いているようだ。
「ほら、あそこに穴があったっすよ。兄貴の望み通り、あの穴に入って隠れましょう」
地下道に身を滑り込ませたところで足を止める。息を整えたルーザーが同情の言葉をかけた。
「まあ、兄貴が悔しがるのも無理ないっす。なにせ、嫁が連れ去られたんすから」
「嫁とか言うなァァァ! 恥ずかしいだろうがァァァ!」
「兄貴、そのツンデレな態度は愛を認めてません?」
「認めてねェェェ!!!」
与那は顔を真っ赤にして必死に否定する。
けれど、思えばこの世界に落とされてから、メイサは常に与那のそばにいた。メイサという相棒を奪われた与那は、まるで支柱を失った枯れ木のように心が折れそうになっていた。メイサが異世界で生きる不安を和らげていたことを、今さらながら気づかされた。
「ううう……ちくしょう、俺のメイサを返せェェェェェ!」
その時、不意にやわらかな感触が左頬に触れた。その慈しむような優しい指先の感触は、エロフ反射痕を通じたメイサからのメッセージに違いない。
――ヨナ、あたしは大丈夫だよ。
そう慰められているような気がした。
メイサとの繋がりを確かめた与那は、涙を拭って左頬に自分の手を重ね、ぎゅっと唇を引き結んだ。
――救世主の俺が弱気になってどうするんだ! 俺には100円アイテムがついているじゃないか!
――メイサ、必ずおまえを助けるから。信じて待っていてくれ!



