ヴェンタスのいたるところで、エルフ対ダークエルフの戦いが繰り広げられていた。与那の目前ではアスタロットとプランが睨みあっている。

「黒き者の知能でこの複雑な構造を解き明かせるものか。勝利は必ず私がいただくぞ」

「そんな横暴なセリフを吐いたのにボロ負けしたら、せっかくのイケメンが台無しよ」

戦いの火蓋を切る役割の与那は、ふたりのあいだに手刀の構えを挟み込む。プランはアスタロットを気に入ったらしく、ずっと対決に闘志を燃やしていた。

「力づくはルール違反なので失格です。ではスタート!」

「うおおおおおっ!!」

「はあああああっ!!」

手刀を上げた瞬間、ふたりは手にした『知恵の輪』を解きにかかる。

しばらくすると、他の勝負の審判を担当していたメイサが駆けつけてきた。緊迫した表情で尋ねる。

「ヨナ、現在の戦況は!?」

「ぜんぜんだめだ、このぶんだとどっちも夕食に間にあわない!」

気迫が空回りするふたりを見て、せめて初級編の知恵の輪にすればよかったと後悔する与那である。

室内ではトランプやボードゲームが並べられ、エルフとダークエルフが対戦で盛り上がっている。屋外では輪投げや的当てに行列ができていた。村は活気に満ち、にぎやかな歓声が響き渡る。

「人間」という共通の敵の出現は、種族を超えた共感の源泉となり、共感は氷結した心を溶かす温度となった。ダークエルフはしおらしく村を襲ったことを反省し、ともに帝都から仲間を取り戻そうと共同戦線を張ることになった。

皆、「勝敗をつけるのに、あんな苦労をする必要なんてなかったじゃん!」と、ゲームの有用性を賞賛するばかりだ。

夕暮れ時になると、村の広場には明かりが灯り、皆が集まってきた。

広場にある調理場では、炊事の煙が立ち上り、美味しそうな匂いが夕食の時間を知らせていた。調理はダークエルフの女性たちが担当していた。ダークエルフたちも、与那が揃えた異世界の調味料のバリエーションに感動を覚えていた。

夜になると太鼓の音が森に響き、盛大な宴が執り行われた。それは、帝都への反逆の狼煙となる宴であった。

エルフとダークエルフはともに踊って歌い、豪華な料理に舌鼓を打ちながら、仲間を取り戻すという共通の目的を胸に、結束を確かめていた。

特にプランのアスタロットに対する「結束」は強固だった。プランはアスタロットにべったりと密着して離れることはない。

「くふん、私、あなたに殺されかけたのよ。どうやって責任を取るのかしら?」

アスタロットの表情は固まっていたが、鼻の下だけは伸びきっていた。その様子を見て与那がメイサに耳打ちする。

「メイサ、あれは落とされたと思うか?」

「うん、確実に堕ちたよね。堅物っぽいアスタロットには、あれくらい積極的な相手でちょうどいいのかも」

「うーん、確かに色気あるしなぁ」

まじまじとプランを見てそう言うと、メイサは不機嫌そうに口を尖らせた。

「ぶー、どうせあたしは色気ありませんよーだ!」

「そう言うな。メイサもそのうちきれいなお姉さんになれるんじゃないか?」

「そうかもしれないけれど……ヨナはそんなあたしのことを、知ることはないんだよね」

「まぁ、そうだよな……」

ふたりは少しだけ寂しそうな顔になる。こうして相棒としてともに戦っている与那とメイサだが、時が経てば見た目の年齢は離れていくばかりなのだ。

もしも俺がエルフで、この100円ショップの能力を持っていたのなら、ずっと皆の手助けができたのに――。

与那はエルフの世界では自身が刹那の存在であることを、ただ申しわけなく思っていた。