「此処が、、、浅草」
その日の夜、柚達は浅草の外れにいた。
人の多い場所には自然と死ニカエリが集まってくるのだ。
華やかな大通りも、道一本入れば静けさが包む。
「じゃあ、俺達はお目当ての奴より集まってくる奴を片付けるかー」
勇はサーベルを抜き、うじゃうじゃ集まっている死ニカエリを撫で斬っていく。
「勇!あまり娘から目を離すな!」
「あいよー!」
少し片付いたあと、一旦集合する。
「確かに沢山いたが、、、俺達の探してる奴とは違うねー」
「そうだな、弱い」
「あ、そこ!?」
咲真はしばらく目を瞑ったと思ったら、勢い良く背後を振り返りサーベルを振る。
その刀の動きに合わせて近くで風が起こり、そこに潜んでいた死ニカエリが悲鳴を上げて形を崩していく。
その時、柚は物陰でうずくまる男性を見付けた。
他人事にも思えず、声をかけた。
その男性の周りには便箋や葉書が散らばっている。
「あの、、、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、、、おてがみをおもちしました」
(うわ、顔色悪っ!!)
男性は顔を上げる。その表情は薄暗い夜でも青白いことが分かる。警察か病院か、どちらに連れて行けば良いのだろう。
「タスケテください」
男性が小さい声で呟くのが聞こえた。どこか言葉がぎこちないので外国人かもしれない。
「誰か呼んできましょうか?」
少し離れたとこに仕事中の咲真と勇がいる。仮にも二人は警察だ。助けを求めたら保護してもらえそうだ。
「、、、いどうするためにてをかしてくれませんか」
「はい!」
男性を立ち上がらせる為に手を差し出す。その手が触れた瞬間、沢山の死ニカエリの相手をしていた勇が叫ぶ。
「柚ちゃん!駄目だ!そいつだっ!」
「え?」
柚はその男性を見つめる。先程まで明らかに体調が悪そうに見えた男性はにんまりと口端を上げる。
「ツカマエタ」
目が合った瞬間、ゾクッと寒気がした。
(この人、、、人間じゃない!!)
握られた手が急激に重く感じる。柚は咄嗟にその手を振り払う。その反動で男性が地面に倒れる。
「ヒデェなァ、タスケテくれヨ、オマエのカラダチョウダイ」
すすり泣くような演技する姿に、背筋に冷たいものが伝う感じがした。
―――丸笠を被った郵便配達員!!
その姿は咲真が見せてくれた特徴と一致していた。丸笠にも上着の袖口にも〒のマークが付いていた。
再び触られようになり柚は慌てて距離を保とうとした時、目の前にいた死ニカエリが消えていた。
「え、、、」
消えたと言うと少し語弊があるような気もするが、死ニカエリは咲真に斬られて消えていた。
「娘よ、触られたりした箇所はあるか」
「え、あ、右手」
柚の中で娘という呼び名が定着しないので、未だ反応に遅れる。
「咲真ー!まだ娘呼びなのかよー!そろそろ名前で呼んであげても良いんじゃね?そして手柄を取られたしー」少し不貞腐れながら勇が歩いてくる。
「通じれば良いだろ」
「だから何時まで経っても彼女が出来ないんだ」
「何度も人の家に不法侵入してくる貴様に言われたくないがな」
「それは悪いと思ってるって!」
「今で二十六回目だな」
「いちいち数えてるのかよ、、、粘着質だな」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
殺気と見間違うような視線を勇に投げつけている今の咲真に何を言っても意味ないだろう。
柚は先が思いやられる、、、と、肩を落とした。