出された料理はどれも美味しかった。
魚の煮付けなんか、どうやったらこんな料亭みたいに美味しくなるのか知りたいくらい。否、魚の煮付け以外にもお味噌汁や小鉢もめちゃくちゃ美味しい。
「いや〜、、、何時食べても咲真の料理は美味しいな!柚、遠慮なんかすんなよー」
ちびちび食べていた柚の皿の上に勇は自分の舞茸をそっと置いた。
「勇はもう少し遠慮するべきだろう。あと嫌いな物を人に押し付けるんじゃない」
軍服から普段着である着流しに着替えた咲真は思い出したように言った。
「娘の戸籍のことだが、、、登録されていなかった」
「そうかー、、、」
想定内というような二人の話しぶりに柚は疑問符を浮かべる。
「華族や士族でもないんだろ?」
「まぁ、戸籍を出していない人は少なからずいるが、、、この娘もそれなのだろう」
「まぁ、そう考えるのが節だよな」
そもそも、この時代の人間でない柚に明治時代の戸籍がないのは当たり前なのだ。
「さて、娘について警察が出来るのはここまでだ。そろそろ本題に入るぞ」
夕飯を食べ終えた三人は向かい合うようにして座る。最も勇は自分の家のようにくつろぎながら、茶菓子って何処の戸棚〜?と茶菓子を探していたのを咲真にお盆で叩かれ、無理やり座らされているのだが、、、。
咲真は鞄から閉じ紐で結ばれた帳面を取り出した。それをペラペラと捲り、二人に見えるように畳の上に置いた。
「ふーん、見た目は郵便配達員なんだな」面白くもなさそうに文字を読む勇。さっきまでの態度とは真反対だ。
目撃情報欄には四十代半ばの男。服装などは丸笠や上着の袖口に『〒』が付いていたとのこと。など、事細かく書かれていた。
今の郵便配達員はスーツのようなものを身にまとっていることが多いが、当時は違っていたらしい。
色々ツッコミたいことはこの時代に来てから山ほどあるが、今は咲真の説明に耳を傾けた。
「そいつの所属場所は逓信省(ていしんしょう)にでも聞けば良いから、後回しにして、、、被害は?」
「今のところ直接的な被害を受けた民間人は約七名と報告が上がっている」
「ん、、、」
「お前の受け持っている事件もあるだろう。すまないが協力してくれないか?」
「もっちろん!!その代わり俺が不法侵入しても許してくれ!」
「それは断る」
「ちぇー」
ひと通り二人が話し終えると、おずおずと柚が質問した。
「私は何をすれば良いですか?あと本当に協力しても良いんですか?」
警察の捜査協力などしたことない柚は自分が何をすれば良いのか分からなかった。ましてや死ニカエリなどを扱う討伐課の協力となると、尚更。
「柚ちゃんは、前に言った通り死ニカエリを引き寄せる体質だ。それは討伐課の特別保護対象になるから捜査協力は喜ばれるよ!」
特別保護対象なのに危険な捜査に協力することは喜ばれるんだ、、、という疑問は伏せておく。
「協力といっても娘に集まって来た死ニカエリを俺達が斬るといった感じだ、分からないとこは?」
「つまり、、、囮ってことですか?」
「言い方が悪いが、そういうことだ」
「死ニカエリは夜にしか現れないから、厄介なんだよねー」
「え、じゃあ昼間は何して、、、」
「書類業務や聞き込みー」
「た、大変だ、、、」
「だろ!?それなのに鬼咲真が、、、!!(ねぎら)ってくれよー!!」
「牛鍋を奢っているだろ、、、」
「あ、そっか」
どうも、この二人といるとペースに巻き込まれてしまう。仕事の話をしているというのに、緊張の糸も見えない。
少なくともテレビで見る様子とは似ても似つかない雰囲気だった。