勇は今日、朝早くから仕事だと言って出ていってしまったので、今日は一人になる。
普段書生服を着ている勇も仕事の日は軍服に腕を通す。
土地感など全くないので、近くを散歩するにも帰って来れるか心配だ。
だが、これといってやることがない。
せっかく明治時代にタイムスリップしたんだから、冒険だってしてみたい!というお気楽思考で散歩を開始する。
「うわぁ〜!!」
しばらく足の動くままに歩いていると、大通りに出た。
木造建築の二階建て飲食店、人力車、着物姿の人達。
何処を見ても現代では中々見かけない物ばかり。
お弁当を渡されたので、公園か何処かで食べれたら良いな〜と公園を探しているが、ない。見付からない。
ふらふら歩いていると、不注意だったのか誰かとぶつかってしまった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
ぶつかった人は女子高生だろうか、同じような服装をしている。
「あ、すみません」
「いえ、前を見ていなかった私も悪いですわ」
(上品な人だな〜)
きっと私は何年経ってもこういう上品な女性にはなれないな〜と思っていたら、女性が手をパチンと叩いた。
「あの、、、良ければ私と友達になってくれませんか?」
「え、なるなる!!」
ふたつ返事で友達になった。
女性の名前は『綾辻椿』というらしく、都内の女学校に通っている十七歳。
「同い年!?」
「ええ」
近くにあった公園のベンチに座ってラムネを飲む。
「あ、レモン味」
「レモン味なのは普通じゃないですか?」当たり前というようにラムネを飲む椿。
「へ、へぇ〜、、、」
未だボロを出してしまいそうでガッチガチに緊張している柚。
「椿ちゃん、ありがとう」
「こちらこそ、また」
ラムネを飲みながら少し雑談をしただけなのだが、とても楽しい時間を過ごせたと思った柚だった。

家に帰ってからしばらくして、上機嫌な勇が帰宅した。
「あ、おかえりなさい」
「大山勇、ただいま帰宅!!」
お酒を飲んだのだろうか、少しお酒臭い。だが、酔ったとしても歩けるくらいなので多分大丈夫なのだろう。
酔っ払いの介抱などしたことないが、ソファに寝かせ、取り敢えずコップ一杯の水を勇に渡す。
目線を上げ、壁に掛けられている振り子時計を見る。
飴色の時計。
時計の針は静かに時を刻んでいる。
その後、介抱のお礼としてカフェに連れて行ってくれるらしい。