「ここが図書館、、、?」
立派に建つレンガ造りの建物。帝國図書館と掘られているが、そこは図書館というより監獄のようだった。
入口には警備員が二人、微動だにせず立っている。そして図書館の窓という窓全てに鉄柵が嵌められていたりと、元いた時代では有り得なくて本当にここは図書館かと疑ってしまう。
恐る恐る館内に入ってみると、閲覧者の守るべき心得として入館年齢、閲覧券、閲覧冊数、静粛保持を内容とする『閲覧人心得』が壁に貼られていた。
閲覧室には他にもインク類を持っていないか、階段の登り降りには音を立てないように細心の注意を払うことなど、数え上げたらキリがない程の注意事項。
(この時代の図書館って、刑務所か何かなの、、、?)
たった図書館で本を読むという作業をするだけなのに、とても息が詰まる。
柚は元いた時代に帰る方法が載ってある本を探しに図書館へと足を運んだのだが、そういう内容が書かれている本があるかどうか分からないのに、初めからこんな感じじゃ無事に現代に帰れるか問題の先に無事にこの図書館から出られるか問題が出てきてしまう。
ずらりと並んだ本棚。重々しい雰囲気。館内を巡回する看守人達。
、、、お腹が痛くなってきた。
だが、帝國図書館というだけあって揃えは良い。古典や漢籍のみならず、小説や専門書、参考書から洋書、さらには新聞雑誌まで幅広いジャンルの本が揃っていた。貸本屋にも沢山本は置いてあるが、ここより種類は少ない。
(ここならきっと、、、!!)

(ない、、、)
がくりと肩を落とす。
窓の外は茜色に染まっている。もう夕暮れだ。
約四時間近く柚は辛抱強く探していたが、それらしい本は見つからない。
司書さんに聞いても知らないと言われて、柚の心は折れかかっていた。
もう閉館時間も迫っている。諦めて帰ろうとすると、にゃあと何処からか聞こえた気がした。その鳴き声はここにはいないはずのたまの声。声のする方へ足を向かわせると、どんどん鳴き声は大きくなる。近くにいるのだろうか?だが、柚以外の人は静かに本を読んでいる。こんなに静かなら猫の鳴き声でも注目されそうなのだが、、、。
辿り着いた先は奥に置かれた本棚の前。
その上から三列目の棚に、気になる本を見付けた。周りは綺麗な和装本に対し、その本だけは年季が感じられる古い本。ページをめくると古い本独特の匂いがする。題名は擦れていて読めない。
その本が何故か気になったので借りることにした。

「ただいまー、、、」
日付をとうに超えた頃、寝ているであろう柚を起こさないようにそろ〜っとサンルームに入ると、ソファに座って本を読んでいた柚がはっとして顔を上げる。
「あ、おかえりなさい」
「え、、、あ、起きてたー?」
振り子時計からボーンボーンと深夜の二時を告げる音が鳴る。
勇は書生服に着替えてから、柚が熱心に読んでいる本を興味深そうに見る。とても古そうな本だ。読書に全く興味関心がなかった勇は読書の何が面白いのか問いたくなる。
「柚ちゃん、貸本屋に行ってきたの?」
「今日、図書館に行って借りてきたんです」
「へー!」
図書館も貸本屋も勇にとって縁がない。
「どんな本ー?」
「えっと、古来から伝わる奇妙奇天烈な話の寄せ集めみたいな内容です。読みます?」
「俺は、読まない!」
古びた本の内容は主に日本の不思議な話を集めた本だった。といっても、河童や送り提灯など、柚には関係なさそうな話ばかりだが、読み進めて行くとこれがまた面白い。
ふと、ページをめくる手が止まった。
そのページには神隠しという見出し。
内容は、桜という六つに満たない子供が一人で放浪していた。村人は桜を見たことがなかったので不審に思い近付くと、桜の着物は華やかで見たことのないような作りだった。聞けば桜は気が付いたらこの村に立っていたらしく、帰り方も分からない。村人達は神隠しに遭った子と思い、帰る手立てを探していると、満月の晩に池に桜が足を滑らせて池に落ちた。村人総出で探したが結局桜は見付かることはなかったという―――。
「満月の夜に池に落ちる、、、」
池と聞いて思い出すのは、たまに連れてこられたあの池。もしも、これが帰る方法なら、やってみる価値はある。