「——ろ様…紗黒(さくろ)様…」
「んぶ…だ、だあ?」
「紗黒…様?」
「やったわ!紗黒様がお目覚めになりましたわっ!」

 北の玄武(げんぶ)、紗黒が目を覚ました。これに北の土地、黒水(こくすい)国の国民は大いに感激した。

「なんて可愛らしい…これから成長して、立派な玄武になられるのでしょうね…」
「玄武ではないと、ただの赤子のようですわね…」
「おいおい…目を覚ましたことへの感激は良いが、なんてったって玄武の紗黒様だぞ?あまり無礼をしないようにな。黄竜様からのお叱りをくらうぞ。」

 紗黒を見た人からは、すごく可愛らしいとの評判だった。

「お、黄竜(おうりゅう)様と奥方様のおいでですっ!」
「紗黒が目を覚ましたのか。噂に聞いていた通り、可愛らしいな。」
「ええ。この子たちがどんな皇帝に育つか楽しみね。」

 天界の皇帝である黄竜、黄庵(おうあん)と、その妻の鳳凰、桜桃(ゆすら)は、我が子を見るような優しい目つきで紗黒を見つめていた。

「黄竜様、1つお尋ねしたいのですが…」
「ほう、どうかしたのか?」
「この子達には…紗黒様たちには何を与えたらいいのでしょうか…」
「そ、それは難しい話だな…桜桃、何か良い方法は知らないか?」
「そんなの簡単ですよ。牛や山羊の乳を与えればいいのですよ。」
「そんなので、幻獣は育つのか…?」
「見た目は殆ど人間なので、どうにかなるかと思いますよ。黄庵も私も、おそらくそのように育ったはずです。」
「——そうか。」

 黄竜の顔は、一気に息子を見る父のような顔となった。

「おい、今すぐに赤子でも飲める牛や山羊の乳を調達してきてくれ。他の赤子たちの分もきちんと用意しておくのだぞ。」
「は、ははっ。」

 ♢ ♢ ♢

「黄庵、次はだれが目を覚ますのかしら。」
「さあな。自分が良いと思った時に目覚めてくれるのが一番さ。桜桃と私、仲間や地上のみなと協力して、立派な皇帝にしよう。」
「そうね。あんなに可愛らしい赤子の紗黒が、やがて大人の男性となって、一人前になる日が楽しみね。」
「そうだな。我々が生きている間に天界にやってきてくれてよかったよ。」
「そうね。ふふ…こう考えると我が子のようにずっと天界で育てたくなってきたわね…」
「まあ、13年後から3年ほどは1度地上に下ろす約束だからなあ…」
「——そうよね。みんなと協力できる人に育ってほしいものね。」
「そう悲しむな。まだまだ、先の話だから。」